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第954回/指は目ほどに物見えず - 指先で世界を見る(tales&Vivid)

2020年12月14日
学園・青春 0

指先で世界を見る

指先で世界を見る
クラスの噂話の主役は、女子テニス部のエースAのこと。
準推薦
■制作者/tales&Vivid(ダウンロード
■ジャンル/多方面から見たいじめ考察ノベル
■プレイ時間/15分

とある中学校では、1年生で入部直後から頭角を現し、エース級の活躍をしている女子生徒Aが格好の噂、誹謗の的になっていた。対して1年時は玉拾いながら、努力を重ねて結果を出してきたBは人気が高く、応援する生徒も多かった。果たして彼女らの本当の思いはどこにあるのか。当事者であるBを含め、計5人の生徒が様々な視点で語る思いや噂の形で綴る、短編学園青春物語。

ここが○

  • テーマの盛り込み方が非常に上手く説得力がある。
  • 感情を入れ過ぎない描写が生むリアリティ。
  • 前向きで心が温まるクライマックス。

ここが×

  • 最後の最後は蛇足に感じる。
  • 登場人物がアルファベット1文字なので、感情移入し辛い。
  • もう少し読みやすくする工夫があれば。

■指は目ほどに物見えず

指先で世界を見る
とある男子生徒の視点。噂話に呆れ、自分は絶対に加わらないと誓う。
高崎くんと7つの魔法」の作者さんの新作です。前作は右側のチャットウィンドウで別キャラクターが物語へ色々とコメントをするという、見たこともないような斬新で珍しいシステムを搭載した学園ものだったのですが、打って変わって今作は地味な作品です。背景写真だけで立ち絵などはありませんし、物語自体も派手さのない、非常に堅実なものです。

物語の舞台となるのはとある中学校。そこのテニス部に、1年で入学してすぐに頭角を現し、レギュラーに抜擢されたAという女生徒がいました。レギュラーですから球拾いもしませんし、当然周りの反感を書います。そのため同級生たちはあることないこと噂話に花を咲かせます。そしてAと同じ学年の女子テニス部員Bは、Aとは対照的に1年時は球拾いだったのですが、こつこつ努力を重ね、県大会で結果を出すまで成長してきました。この物語は、Bを含む5人の生徒の視点から、色々な思いを描いたものです。

さて、私が以前から主張していることに「長編は短編のように、短編は長編のように書け」というものがあります。長編については置いておきまして(この作品は短編ですから)、短編こそ長い物語を作るかのように、しっかりとした起伏(起承転結や、あるいは短いですから序破急)を考えて作らないと、読んでも何にも心に残らない物語になるよ、という主張です。実際に、見た人にしっかり印象付けることが命の15秒のCMは、しっかり序破急を意識して組み立てられているんだそうです。短いだけに、しっかり構成を考えないと空虚な物語になりかねません。

その観点からこの物語を見ると、実は明確な起承転結がある訳ではありません。5人の視点から描かれたエピソードは、物語というよりはちょっとした場面の描写であって、特に盛り上がりがある訳でもなく、普通の意味での起承転結のような構成はしていません。ですがこの物語を読んで私は、非常によくできた物語だと感じました。それは何故だろうと考えてみましょう。

指先で世界を見る
努力家のBは過去を振り返る。彼女はAに対して一体何を思うのか?
物語には多かれ少なかれテーマがありますが、テーマが強すぎると押し付けがましく、わざとらしい物語になります。テーマを訴えるために色々と物語を作らなければならないのですから当然です。逆にテーマが弱すぎると説得力や訴える力のない物語になります。もちろん物語によって、積極的にテーマを出す場合とそうでない場合はありますから、そのさじ加減が作者の腕の見せ所でもあります。

ではこの作品場合はどうかというと、普通の意味での物語の形をしていません。そして、テーマ生が非常に前面に出ている作品なのですが、物語を通じてテーマを訴えるのではなく、「事実を並べた結果、テーマが浮き上がってくる」という作りになっています(あくまで「物語内で事実とされている」という意味です)。事実と言いますか、1つの事実についてそれを見聞きした人達が思っていること、とでも言いましょうか。

こういう作りですから、非常にテーマ性が強いにもかかわらず、押し付けがましさが寸毫もありません。いじめや誹謗中傷についてを描いており、まさにその誹謗する人々を描いているのですが、生々しさも強くは感じさせません。また、淡々と事実を描いているのですが、描写力に優れており無味乾燥な感じもしません。それでいて、直接的に「いじめ、誹謗中傷はよくない」ということを作中で書く訳ではなく、あくまで事実を通して間接的に示しているに過ぎないのですが、読後には強く訴えたかったメッセージが残ります。これは見事な作りです。

最後に当事者であるBの視点がくるのですが、ここでAとの交流が描かれて物語が締め括られるのが、抜群に効いていました。メッセージは伝わるものの、どうにも読後感がいいとは言えない作品もないではないのですが、読み終えた後に非常にすっきりした気持ちになりました。強いメッセージ性を持ちつつ、読者に対しての配慮も忘れていません。構成も、まさに短編でしかあり得ない作りで、こんな作品に出会うと、私の主張も「短編は長編のように書かねばならない。ただし例外もある」と書き換えねばならないでしょう。

ただ、最後の最後に来た描写だけは、ちょっと蛇足に感じました。もちろんああいう締め括り方法もないではないですし、これが例えば不条理系サスペンスであれば、一層効果を高めるかも知れませんが、今作のテーマとラスト近くの描写にはそぐわないように、私は思いました。まああれを持ってくることで、タイトルの意味がより強められたというのは言えますので、一概に悪いとも言えない気もしますが。

ツールはティラノスクリプトです。プレイ時間は15分から20分くらい。一本道です。登場人物の名前がアルファベットで少し分かりにくいところがありますし(ただしこれは「事実」を並べる観点からはプラスに働いていると思います)、文字の表示も、段落の頭を1字下げるとか、空白行をもう少し入れるとか、文章表示の左右を切るとか、読みやすさに配慮して欲しいと感じるところもありました。しかし短い作品ですから、そこは我慢できる範囲だと思います。この長さで非常にしっかりした読み応えと、色々な感情を味わわせてくれる秀作です。是非読んでみてください。
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この記事を書いた人: NaGISA
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