第1013回/繋がる命と伝える思い - 生きるその先に -第一部 岐尾森編-(ふくろうと黒猫の杜) - シリアス・感動系
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第1013回/繋がる命と伝える思い - 生きるその先に -第一部 岐尾森編-(ふくろうと黒猫の杜)

シリアス・感動系
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生きるその先に -第一部 岐尾森編-

生きるその先に -第一部 岐尾森編-
鬼晶は自分を死神と名乗り夏生に余命2週間を告げる。
準推薦
■制作者/ふくろうと黒猫の杜(ダウンロード
■ジャンル/余命2週間の思い出探しノベル
■プレイ時間/6時間半

吉沢夏生はこの春から故郷の岐尾森を離れ、都会で大学生活を送るべく引っ越してきた。その矢先、ある夜銀色の髪と赤い瞳を持つ少女、鬼晶と出会う。鬼晶は自分を死神だと言い、夏生に2週間の余命宣告をした。それを聞いた夏生は、幼い頃の初恋の女性にもう一度会いたいと思い、鬼晶を伴って岐尾森に帰ることに。果たして2週間の間に夏生はその女性「おねえちゃん」と出会えるのだろうか。

ここが○

  • 3本のルートが満遍なく作り込まれている。
  • どのルートも琴線を刺激する感動展開。
  • 細かい点までしっかり繋がってくる伏線。

ここが×

  • 鬼晶ルートの終わり方が妙に淡白。
  • 結と水輝のルートでは余命問題があっさり解決してしまう。
  • 後半の一部イベントに若干の唐突感。

■繋がる命と伝える思い

この作品は、以前から公開を楽しみにしていました。「REACT」の作者さんの新作です。「REACT」もリメイクだったのですが、この作品も2006年に公開されていた同名の作品のリメイクです。読了すると、リメイクに至る事情が読めますが、Youtubeでも動画が公開されていますので、興味がおありの方は見てみてください。作者さんのおしゃべりが面白いので、一見の価値ありです。



生きるその先に -第一部 岐尾森編-
偶然出会った美少女結。彼女には見た目からは想像もできない秘密が。
さて、この作品はいわゆる「死神もの」です。主人公が、自分の魂を狩る死神と出会って、余命を告げられるというタイプですね。古くは「牡丹雪」「Dear ∽ Life」がまさにそういう物語でしたし、実は私もそういう作品を書きました(私のは、死神ではなく天使ですが)。この手の作品は、テーマとして生と死を取り上げることが多くなるため、テーマに真実味を持たせるためには、色々と工夫が必要のように思います。私の作品は、あまりそういうことを考えませんでしたが(笑)。今作はそこらに真正面から取り組んでいる印象で、その辺りの工夫が今作の見どころです。

季節は春。4月から大学に進学するため、地元の岐尾森から都会に引っ越して一人暮らしを始めるはずだった吉沢夏生ですが、ある夜に銀髪に赤い目を持つ、不思議な少女と出会います。彼女の名前は鬼晶(きしょう)。自分のことを死神だと言い、夏生の余命が2週間しかないことを告げます。ショックを受ける夏生でしたが、その時彼が思い出したのは、幼い頃の初恋の「おねえちゃん」。2週間の間に、その女性を探してもう一度会いたいと、故郷の岐尾森に帰ることにしたのでした。

夏生はいきなり余命2週間を告げられるのですが、あまり悲壮感がない感じで、その辺りはあっさり目です。もう少し夏生の葛藤や苦悩を前面に出してもいいような気はしたのですが、悲壮感がないから悪いということにはなりませんし、逆に終始ネガティブオーラを出されても読んでいる方は困ってしまいます。基本的にはほのぼの路線で進み、時々のイベントで余命のことをさりげなく思い出させるというこのスタイルは、物語の長さを考えても適切な作りだったように思います。また、結構長い物語ですが、特に日常描写は長さを感じさせずに読ませる軽快さがありました。これは「REACT」もそうでしたので、この作者さんのセンスなのでしょうね。

「おねえちゃん」探しの中で、夏生は2人の女性と出会います。公園で出会う高校生くらいの如月結と、夏生と同い年の占い師雨宮水輝。この2人に加えて、鬼晶を合わせた3人が攻略対象となります。尺の長さの割りに登場人物は多くなく、ヒロインの他は、後は夏生の2人の弟達と、ちょっとしたサブキャラくらいですが、そのためヒロインの内面に深く掘り下げて語られており、読み応え十分です。

生きるその先に -第一部 岐尾森編-
明るく元気な水輝は夏生と同い年。何かと夏生を気にかけてくれる。
私が読んだ順に書きます。まずは結ルート。公園の桜の木の下で出会った、指がぶっ壊れるのも厭わずに桜の木を引っ掻き続ける謎の美少女です。後半に明かされる彼女の事実が少々唐突な気もしたのですが、全体にはよくまとまっていましたし、無理なく「生きる」というテーマを物語に盛り込めていたように思います。ある意味結が生きる意味を見出す物語であり、結と夏樹がお互いに相手のために生きる意義を見つけるという構成。そういう意味では、恋愛ものとして見た時には3本のルートの中で一番良くできていたかも知れません。ラストも、人によってはご都合主義と感じるかも知れませんが、あそこまでやって悲劇的な終わり方をしたのではどうにもすっきりしませんので、あれでいいと思います。

水輝ルートは、その意味で恋愛ものとしては少し弱いところを感じなくもありません。このルートでは、夏生の存在意義が少し薄いんですよね。もちろん彼も色々頑張るんですけど、最終的にはあまり夏生と関係ないところで解決している気がしなくも(笑)。反面、「生きる」というテーマについては、結ルートよりも明確に描けていたように思いますし、テーマと物語がしっかり噛み合っていました。水輝の過去については、前半から何かそれを示唆する描写があっても良かった気はしますが、個人的には一番気に入っているルートです。

ただ結ルートと水輝ルート共通で気になったのは、夏生の余命問題にあまりクローズアップされていないというか、場面によっては結構置き去りになってしまっている感が。しかもラストも実に呆気なく余命問題が解決してしまって、「それでいいんかい!」と、若干突っ込みたい気持ちになりました(笑)。その辺は、メインである鬼晶ルートで語られます。なので、鬼晶ルートは最後に読むことをお勧めします。鬼晶ルートを最初に読んでしまうと、結、水輝のルートがなんとなくもやもやしてしまいそうですので(笑)。

その鬼晶ルート。実は3本のルートで鬼晶が一番短いです(とは言え、それほど大きな差がある訳ではないのですが)。その分、濃縮度と完成度がルートです。実は「おねえちゃん」どうこうについては比較的早い段階で先読みができると思いますが、夏生のとある秘密については予想しておらず、「え、そっちからくる?!」と驚かされました。そしてその事実が夏生の余命の問題にも関係してくるという、凝った作りです。ラストの鬼晶との別れも、非常に胸を打つ名シーンでした。終わり方は少し淡白な気がしなくもありませんが、このルートは夏生の存在が非常に大きく、まさにメインルートと言うに相応しい内容です。

実は全部読んでも一部の謎が解決していなかったり、最後に突然新キャラの存在が明かされたりしているのですが、「第一部」ということで、その謎は続編で明らかになるようです。が、今作で完全に完結していますので、今作だけ読んでも何の問題もなく楽しめます。マルチシナリオの作品は、ルートによって出来不出来が激しいことが珍しくないのですが、今作ではどのルートも満遍なく完成度が高く、しかもそれぞれのルートでしっかりテーマを盛り込んでおり、マルチシナリオとしてかなりしっかり作られた物語でした。

ツールはティラノスクリプトです。攻略は好感度+選択肢タイプですが、好感度が上がった時は分かりやすい画面効果で教えてくれますので、攻略は難しくありません。ただ選択肢にくるとセーブできませんので、日付が変わった時にでもセーブするようにしましょう(追記・マウスホイールクリック又はZキーでメニューが開けるそうです。見落とし失礼しました)。プレイ時間は、結2時間半、水輝2時間15分、鬼晶1時間45分で、合わせて6時間半から7時間といったところ。テーマは真面目ですが、エンターテインメント性も高く、何より後半どんどん盛り上がる、「感動系」のお手本のような物語です。じっくり読んで感動したい方には、うってつけの作品です。
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