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第1117回/窓から外は、雨の夜 - 雨にして人を外れ(D10RAMA)

2021年12月28日
伝奇 0

雨にして人を外れ

雨にして人を外れ
雪乃と二人、相合い傘。雪乃は春也を気に入っている?
準推薦
■制作者/D10RAMA(ダウンロード
■ジャンル/文芸部の謎の先輩ノベル
■プレイ時間/1時間

文芸部に所属する下地春也は、部室で先輩の赤羽雪乃と過ごした後、雨の中を2人で1本の傘に入って帰宅していた。雪乃は春也が気に入っているらしいが、春也はマイペースな態度を崩さない。そんな雪乃が、2人であじさい園に行かないかと誘ってきた。天気は雨らしいが、結局2人で出かけることに。雨中のあじさい園で、しかし雪乃はとんだトラブルに巻き込まれる。後半の意外な展開に目を見張る、不思議な雨の物語。

ここが○

  • モノクロームの画面で描かれる演出。
  • 後半の意外性。
  • トゥルーエンドラストからエピローグまでの綺麗な流れ。

ここが×

  • 世界観を語り切れていないところが。
  • なので唐突に感じる場面も。
  • バッドエンドは好みが分かれるか。

■窓から外は、雨の夜

雨にして人を外れ
文芸部の部室にて、雪乃と春也。別に文学論を戦わせたりはしない。
年の瀬が押し迫ってきました。今年のレビューももう残すところ僅かです。今回取り上げる作品は「一つ屋根の下なのに」を作ったサークルの新作です。前作は、3人の兄妹の絆を描いた日常ドラマでしたが、今作は全く雰囲気の異なる物語です。序盤こそ普通の学園もののように始まるのですが、作品紹介ページには「怪異」というタグが付いています。どういうことだろうと思っていたら、中盤から予想もしない展開となり、驚かされました。

この作品は、画面写真を見ていただいてもお分かりのように、画面がモノクロームです。モノクロームの画面というのは、非常に特殊な効果を持ちますが、その分扱いは難しく、変なデザインにしてしまうと背景画像に何があるのか分からなくなってしまったり、文字が物凄く読みにくくなってしまったりすることもあるのですが(色彩がないので当然です)、今作はデザインや配置がよく考えられており、そういう印象を受けませんでした。また、モノクロで描かれる世界が、日常シーンなのに「いかにも何か起こりそうな感じ」を醸し出していて、演出としても魅力的です。オープニングその他も凝っており、冒頭から作品世界にひきこんでくれます。

主人公は文芸部に所属する高校生、下地春也。文芸部室ではいつも先輩の赤羽雪乃と一緒に過ごしています。その日は雨が降っており、2人は1本の傘に入り、取り留めのない雑談をしながら歩いていました。この2人の序盤の描写がまず興味深いです。雪乃は春也を気に入っているようですが、春也の方は割とつれない態度です。明確に恋愛風の描写がある訳でもなく、文章そのものもドライな感じで、この2人の関係を描くのに適したスタイルだなと思いました。

雪乃は春也に対して、あじさい園に一緒に行かないかと誘ってきました。結局一緒に行くことになった2人。当日は雨だったのですが、それなりに楽しい時間を過ごしました。ところが、思わぬ出来事が雪乃を襲います。序盤の展開はこんな感じ。この辺りまでは、比較的よくあるタイプの学園もののように見えるのですが、雪乃がトラブルに巻き込まれる辺りから雲行きが変わってきます。

雨にして人を外れ
2人でやって来た雨の中のあじさい園。しかしこの後大変な事件が。
この中盤からの展開は、前提となる説明がなく、またその世界観そのものが作中で最後まで詳しく書かれませんので、すっきりしないところがあるのは否めません。書かないことでミステリアスなムードが高まっているのも事実ですし、書かないからといって物語が破綻している訳ではないのですが、「そもそもどうやって雪乃は現れたんだ?」というところに引っかかったのも、事実ではあります。短めの作品ですし、そこは気にしない方がいいのかも知れませんけど。

その分(という訳でもないのですが)、中盤からの展開には目を見張ります。色々とショッキングな事実が明らかになったりもしますが、春也と雪乃、2人の関係を描いたドラマという点においては、最初から最後までぶれていませんし、付かず離れずの関係を描きながらも、最後で絶妙な余韻を残したという点において、非常に卓越した構成を持っていました。言ってみれば出会いと別れ(出会いの描写は回想シーンだけですが)の物語なのですが、にもかかわらず2人の関係がべたべたしていません。

それでいて、別れのシーンが非常に胸に響きます。2人に明らかな恋愛描写でもあれば、そりゃあ別れが寂しいのは当然なのですが、今作ではそういう場面、描写がないにもかかわらず、そして別れのシーンも決して大袈裟ではないにもかかわらず、非常に心を揺さぶられました。それはひとえに、見事な構成の成せる技です。これを書いてしまうと興醒めですから書きません。どうぞご自分で読んで確認してみてください。ラストからエピローグへの流れが、また大変見事なのです。きっと唸ります。

ルートは、上記の特徴が見られるトゥルーエンドルートと、もう1つはバッド……なのでしょうか。これはこれで味わいがあり、単純にバッドエンドとはし難い気もします。とは言え後味自体は良いとは言えませんので、バッドエンドということにしておきましょう。こちらはサスペンス調の幕引きです。好みは分かれるかも知れません。私もこちらのエンドしかなかったとしたら頭を抱えたところですが(笑)、こちらも立派に1本のお話。ただ、こちらのエンドこそ雪乃についての細かい説明があれば、もっと説得力が高まった気はします。

その分岐ですが、選択肢は1か所しかないので簡単です。ただし、トゥルールートは後で見ることを勧めますので、そのためにちょっとだけヒントを。「裏をかきましょう」。これできっと分かるはず? ツールはティラノスクリプト。2つのエンドを見て1時間前後だと思います。とにかく、全編に渡って「美しい」物語です。通常の意味での美しさではないかも知れませんが、プレイしていただければ、きっとその意味がお分かりいただけるはずです。
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この記事を書いた人: NaGISA
フリーで遊べるノベルゲーム(ビジュアルノベル、サウンドノベル、デジタルノベル)、アドベンチャーゲームのレビューをしています。「この作品をレビューしてほしい」というリクエストは、自薦他薦を問わず歓迎です。Twitterはhttps://twitter.com/nagisa1770。気軽にフォローしてください。フリーゲームコラムコンテスト、第2回準グランプリ、第3回優秀賞。

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