2021年NaGISA netノベルゲーム大賞
2021年12月31日
今年も無事大晦日を迎えることができました。私生活だと、11月に愛犬が死んでしまい、生活が寂しくなってしまったのですが、ノベルゲームレビューにおいては今年も色々な作品に出会え、とても楽しめた1年でした。
今年のレビューは、通常枠が156本(推薦3、準推薦59)、掌編枠が60本(推薦3、準推薦16)。合計216本でした。去年よりだいぶ本数は減っています。しかし掌編枠は去年より本数が減ったのに、推薦も準推薦も増えており、今年は粒揃いでした。
逆に通常枠は、推薦がわずか3本で、掌編枠よりも推薦率が低かったという。準推薦率は去年より上がっていますから、ホームランは少なくともクリーンヒットが多かった年と言えるかも知れません。実際、印象に残る良作はとても多かったように思います。
それでは今年もNaGISA netノベルゲーム大賞を発表していきましょう。あくまで私の個人企画ですので、軽い気持ちで読んでください。これも毎年共通ですが、「今年公開された作品」ではなく「私が今年読んだ作品」から選びます。受賞作の作者の皆さんは、ぜひ「NaGISA netノベルゲーム大賞○○部門賞受賞」と、自信を持って宣言してください(笑)。
長くなると思いますが、よろしくお願いします。
男性向け恋愛部門の作品は、18本。全体の本数が減った影響もあって少し数が減りましたが、今年もファンタジー風あり学園ものありと色々な作品が揃いました。その中で選んだ恋愛部門賞は、「その恋、暫定につき、」です。前作を受けての続編ですが、色々な意味で前作よりパワーアップしており、マルチヒロインの恋愛ものとしてとても楽しく読めました。独特のシステムと、「主人公まで変わるマルチルート」という作りがぴったりマッチしていましたし、何せヒロイン達が魅力的です。次回作でシリーズ完結のようですが、期待が高まります。
次点には、突飛な設定が面白いだけでなく、恋愛ものとしてもハイレベルだった「怒ると死にます。」と、死神と恋愛ごっこという、これも目をひく変わった出だしが印象に残った「冬つく花だより」を選びました。「怒ると死にます。」は、ヒロイン美喜の性格と声の演技が非常に印象に残りましたし、「冬つく花だより」は、春樹とレイラの関係の変化と、春樹の葛藤と変化が上手く描かれており、定番に上手く変化球を混ぜた良作でした。
恋愛ものは、個人的にはやはりフリーノベルゲームの王道だと思っていますし(「かまいたちの夜」からノベルゲームに入った方だと、クローズドサークルものが王道なのかも知れませんが)、恋愛ものでなくても恋愛要素は物語を盛り上げる重要要素です。色々な恋愛模様を色々な物語で楽しめた1年でした。
女性向け恋愛は13作品。去年より少しだけ減りましたが、それでも今年も粒揃いです。選出にはかなり迷いましたが、この作品を選びました。「BOYS IN MY HOUSE -after the memory-」です。前作「BOYS IN MY HOUSE」と合わせてプレイすれば、感情移入度は倍増です(というより、前作のプレイは必須?)。SF風味の設定と、前作から8歳年齢を重ねたカイトとフレンとの関係の変化など、とにかく人間関係を描いたドラマとして秀逸で、男女を問わず楽しめるはずです。
次点ですが、地味ながらバラエティ豊かな分岐を楽しめる「愛と恋の境界線」、そして正義のヒロインという設定と、エイトルートの切なさが抜群の「婚活★HERO」を選びました。前者は、攻略対象の性格だけでなく、分岐によって物語そのものの雰囲気まで変わるのが面白いですし(オタクの遠藤ルートが好きです)、後者は単なるコメディと思わせてからのエイトルートのラストが、破壊力最強でした。
優れた女性向け恋愛ものって、男性が読んでも楽しめるんですよね(男性向け恋愛ものについても、同じことが言えますが)。色々プレイしましたが、それを改めて実感できた1年でした。女性向け恋愛ものって質量ともますます充実の一途を辿っているように思えますから、来年も楽しませてもらえそうです。
日常部門は13本。少ないのですが今年も単独ジャンルで選びます。日常部門賞は、「暗がりビオトープ」を選びました。90年代のゲームセンターを舞台に繰り広げられる人間ドラマですが、あの当時を知る人はもちろん、知らない人でも楽しめる、大変よくできた物語です。驚かされるところもあり、はっと心を揺り動かされるところもあり。とにかく人間の機微が上手く描かれた物語なのですが、それが画面のクールさとちょっとしたミスマッチを生んでいます。しかし逆にそれが物語の印象を強めているという、なかなか見られない作品です。
次点ですが、同じ時間軸を複数の視点で見るという作りで、非常にレベルの高い物語となっていた「ウソからはじまる物語」と、母と娘の絆を穏やかな筆致で描いた「桜萌黄の時」の二作品を選出します。どちらも日常ものならではの、突拍子もない出来事は何も起こらない地味な物語ですが、「ウソからはじまる物語」は、複数視点で同じ時間軸を見るという作りが、大変効果的でしたし、「桜萌黄の時」は押し付けがましくない描写の中に息づく母と子の絆が印象に残りました。
日常ものは、目を見張るような大袈裟な展開や、飛び道具のような奇跡が起こるような物語ではないのですが、だからこそもしかすると、最も作者の力量がダイレクトに反映される分野なのかも、と思っています。恋愛ものがノベルゲームの花形だとしたら、日常ものはノベルゲームの大黒柱なのかな、なんてことも考えています。読む醍醐味を存分に味わわせてくれた作品ばかりでした。
ファンタジー部門は17作品。魔法が飛び交うファンタジーコメディから現代ファンタジーまで、さまざまな作品が揃った2021年。この部門では「海の見える窓」を部門賞に選びました。文章だけの硬派な本格ファンタジーですが、確かな描写力と魅了的な世界観で、本好きにもこたえられない一品です。実はどちらかといえば地味な物語なのですが(女性キャラクターが出てきませんし)、そのクールさが何よりもの魅力です。読み応えのあるファンタジーを読んでみたいからならば、間違いなく楽しめるでしょう。
次点には「ほのぼのダーク」とでも言えそうな「みどりの魔女と金の枷」と、魔法が派手に飛び交うコメディバトルファンタジー「大魔法文化(略称)」の2本です。「みどりの魔女」は、一見ほのぼのだけど実はダーク、でも最後にはなんだか和やかに収まる独特の世界観。カタリナとクオンのやり取りと関係の変化、それが醸し出すちょっとした怖さが見どころ。「大魔法文化」は波乱万丈な学園魔法バトルで、古い作品ですが今読んでも文句なく楽しめます。未読の方はこの機会に是非どうぞ。
ファンタジーはある意味「なんでもあり」ですので、作者による様々な工夫を色々と味わえるのが面白いところです。世界観もですし、キャラクターも個性的で面白いのがこのジャンルの特徴ですね。正統派もよし、捻ったものもよし。来年もきっとバラエティに富んだ作品に出会えることでしょう。
ファンタジーから分かれた分野、不思議系部門。対象作品は16本。この分野はファンタジー以上になんでもありで、色々な設定の物語に出会えるジャンルです。そして今年はこのジャンルは特に粒揃いでした。悩みましたが、不思議系部門賞は「METORY」を選びました。
悩みを抱える少年少女の物語なのですが、そこに異界を走る列車という設定を合わせ、異界での出来事を通じて3人の少年少女がだんだんお互いに心を開くという展開がとても上手く、完全なハッピーエンドのラストもあってとても読後感のいい物語でした。設定の面白さと物語構成、それによくできたキャラクター描写、3Dを上手く使った演出全部が合わさって、大変よくできた作品に仕上がっています。
次点には、ストレートな作りながら、丁寧に組み上げられた「幽霊もの」の傑作「白い日傘とアンデッド」と、後半の盛り上がりとそこから綺麗に落とすラストが見事だった「ひとつだけ願いが叶うなら。」の2本を選びます。「白い日傘」は、設定こそ王道ですが、ただの「失敗エンド」ではない魅力を持ったバッドエンドと、それがあるからこそ際立っていたハッピーエンドの対比が魅力でしたし、「ひとつだけ」はハッピーエンドルート後半の急加速ぶりが素晴らしい。こちらも前半のバッドエンドあってこそのハッピーエンドでしたから、その意味で両作は少し似た雰囲気がなくもありません。
製作者のアイディアが、どの作品にも横溢しているこのジャンル。来年もきっと様々なアイディアを目の当たりにできるに違いありません。今から楽しみです。
今年はこの2つの分野を統合しました。対象作はSFが9、シリアス・感動系が10で、合わせて19本。その中から部門賞に選んだのは、「生きるその先に -第一部 岐尾森編-」です。作りとしては正統派のマルチヒロイン恋愛ものですが、実はこの作品は三部作の第一部。しかしこの作品単独でもきちんと完結しており、読み終えても消化不良はほとんど残りません。3ルートが満遍なくよく出来ており、読み応えも十分。
実はこの作品は第二部を今制作中だそうですが、第二部には私も、曲を書いたりシナリオの校正やちょっとしたアドバイスをしたり、ちょっと関わっています。今のうちに第一部を読んでおきましょう(その方が絶対に第二部もより楽しめます)。年末年始にいかがでしょうか?
次点には、とにかく演出の素晴らしさが光っていた「雨音と自動人形」と、僅か15分で宇宙の壮大さを感じさせるロマンを味わわせてくれた「天海のメッセージボトル」を選びます。どちらの作品も、哀愁の中に希望も感じさせる心情描写が忘れ得ない感銘を残してくれた作品です。私はSFは大好きですし、シリアス・感動系はジャンル名通りに、感動できる作品が多く名作が多い印象です。来年はどうでしょうか。
ここは3つの分野を1つにまとめました。ホラーは2作品、ミステリー・サスペンスは10作品、そして伝奇は5作品で、合わせて18作品です。部門賞に選んだのは「ミッドナイトブレイカー 装炎」です。2009年の作品ですが、最新の作品に何ら劣らない素晴らしい内湯の物語でした。高校生の英輔と転校生の憐が、夜に「ケモノ」退治をするというバトルものですが、とにかく起承転結の構成が上手く唸らされました。戦闘における英輔と憐の使い方が、また抜群なのです。これは是非多くの方に読んでいただきたい逸品です。
次点は、学園ものと思わせてから急転直下に驚かされた「雨にして人を外れ」と、閉鎖空間での正統派ミステリー「雨夜の山荘で君は惑う」の2作品です。「雨にして」のクライマックスの美しさ、そして後者のエンターテインメント性の高さは、いずれも一読の価値があるものです。
このジャンルでは、過去にも様々な名作が生まれましたし、人によってはこのジャンルこそがノベルゲームの王道だという方も、あるかも知れません。今年はホラーが僅か2作品と少なかったので、来年はもっと積極的に攻めていきたいと思っています。
恋愛ものと並んで、ノベルゲームの花形ジャンルと言えそうな学園・青春部門。今年は16作品です。この部門の部門賞は、「そしてパンになる」です。高校生たちのパン作りという、ちょっと変わったテーマの青春ものかと思いきや、ルートによってはとんでもなく衝撃的な展開に。もちろん真っ向勝負の青春展開というルートもあります。とにかく衝撃度という点に於いては、今年読んだ作品の中でも随一。最新版では立ち絵がつきました。文章だけでも登場人物の様子がありありと頭の中に思い浮かぶような描写でしたが、絵がつくとかなり印象が違います。とにかく一度読んでみてください。
次点は、手品というこれも変わったテーマを取り上げた「まじかりて!」と、現実とファンタジーの融合が高い効果を上げていた夏の海の物語「タイトル未定」を選びます。前者は典型的なVIPノリの作品ですが細部に渡って完成度が高いですし、何せ趣味が手品である私には随所で楽しめる物語でした。後者は「まじかりて!」とはある意味対照的なノリの物語。心情描写が非常に細やかで、そこにファンタジックな設定が上手に乗っている完成度の高い作品です。
この分野は、今年は良作が多く、選考にはかなり頭を悩ませました。ファンタジーやSFと違って、突飛な設定が出てくることは少ないですが、その分作者のストーリーテリングの力がダイレクトに現れるジャンルであるとも言えます。物語を読む面白さを、一番味わえる部門なのかも知れませんね。
アクション・ドラマ部門は14作品。力作・傑作揃いで、どれを選ぶか考えに考えたのですが、選んだのは「鼓草」です。戦時中の岡山を舞台にした人間ドラマで、長い映画を1本見終わったかのような満足度のある作品でした。グラフィックスなど、見た目はちょっと地味ですし、テーマがテーマなので万人受けはしにくいかも知れませんが、とにかく苦悩や葛藤が全編に渡って滲み出る重厚な人間模様は必見です。
次点も悩みましたが、和風アクションの大作「鬼桜」と、カードを使った心理戦が見どころの「リードマインド」を選びます。「鬼桜」は独特の世界観と緊迫感溢れる展開で最後まで目が離せませんでしたし、「リードマインド」の駆け引きと短い中に凝縮された物語も印象的でした。他にもいい作品が多く、次点を2作品に絞るのも大変でした。
このジャンルは名前の通り、切れ味の鋭い描写が売りの作品が多かったように思います。「読む楽しさ」と「物語の楽しさ」が高いレベルで両立された作品が多かった気がします。さて来年はどうでしょうか。
コメディ、病院・闘病、謎解き・探索、オムニバス・その他の4ジャンルを合わせた「その他」部門。コメディが3、病院・闘病が3、謎解き・探索が5、オムニバス・その他が2で、合計13作品です。そして部門賞は「トキゴエ列車からの脱出」です。ホラーと言えばホラーなのですが、怖さの中に紡ぎ出される心温まる人間ドラマが展開されます。探索ものではありますが難易度も高くなく、怖さも控えめですので、広くお薦めできる1本です。ラストの盛り上がりは心に残りました。
次点ですが、悲しみの中で主人公は一歩前へ進む希望を感じさせてくれた、シリアスな闘病ドラマ「白い笑顔」と、レトロな画面で繰り広げられるコメディ風ゲームものの「エレベーター ~性格不安定な僕とみよちゃんの物語~」の2作品を。前者は文字だけの地味な作品ながら、非常に心に響く物語ですし、後者はファミコン風の画面ですが、細かいところまでよく考えて作られた脱出ものです。
4つのジャンルを1つにまとめてしまいましたが、探索・謎解きものはゲーム性を前面に出した作品も結構あり、これはこれでノベルゲームの醍醐味の一つです。一時期大流行した病院・闘病ものも、個人的には好きな分野ですので、来年はまた色々な作品に出会えることを期待しましょう。
今年の掌編は60本。夏頃に全然掌編レビューを書かない時期があったため、本数は少なめですが、粒揃いの作品が多かった印象です。そして今年の掌編部門賞は「黒妖精の招待状」です。掌編ですからごく短いですし文字だけの物語ですが、その中でみゆきの成長と、ルプレとの関係が非常に巧みに描かれており、1時間の作品にも負けないような力を持った物語でした。短いのにラストの別れに、とても心を動かされるのです。短時間で感動体験をしたい方には自信を持ってお薦めします。
次点は、ラストに背筋が寒くなる学園サスペンス「千夏ちゃんとあそぼう」、PC画面で進むハートフルストーリー「私の最期の言葉は」、甘酸っぱい青春の1ページを切り取ったような「まほうつかい」、アニメのような演出が効いていた「雫」。以上4本です。
私はどちらかというと、掌編よりは長めの作品が好きなのですが、それでも時折短さを生かしたアイディアにはっとさせられることがあります。掌編ならではの面白さを持った作品をたくさん読めることを、来年も期待しましょう。
通常枠の「無印」の中から選ばれる特別賞。これも本数が多いだけに毎年頭を悩ませます。今回は、今年最後にプレイした「インビジブル」を選びました。とにかく読み応え満点のドラマで、中盤以降は目が離せない展開の連続といい、成長を見せてくれる登場人物達と言い、魅力に溢れた意欲作です。これも年末年始でじっくり読むのも最適の作品といえましょう。
次点は「Promise Breaker」「怪異的な彼女」「星追いリフレイン」「黒い獣と契約の夜」「Rootkids」「文学少女のホンネ」、以上6作品を選びました。どれも個性的な趣向が凝らされていたり、キャラクターが魅力的だったり、見落とすには惜しい作品ばかりです。
いつも言っていることですが、実は無印作品にこそきらりと光る良作が多数埋もれていると言っても過言ではありません。それぞれのレビューでは、なるべくその作品の魅力が伝わるように書いているつもりですので、評価だけでなく、細かい部分も読んで作品選びの参考にしていただければ幸いです。
魅力的なキャラクターが登場する作品に贈られる(いえ、形としては何も贈りませんが(笑))キャラクター賞。今年は「タマキハル~石章 山沢損編~」に決定です。連作の三作目だからということもあるのでしょうが、登場人物に個性があるだけでなく行動に一貫性があり、掛け合いもくどくない範囲で楽しく読めました。シリーズはまだまだ続くようですので、彼らの活躍をまた見られるのが楽しみです。個人的には今作のメインヒロインだった椿姫がとてもいいと思いましたが、次回作はどうなるのでしょうね。
その他「群青のレクイエム」の橘花、「毒味メイドと嫌味シェフ」の女王、「Gun Sad」の建彦、「覚えておいてくださいね」のあすか、「この部活に入れてください」の優明、「アル管理人の恋 spring + summerのサーシャ、ジョシュアをはじめとする住人達、「ロボット先生」のロバート、「止水 -しすい-」の止水、「これってモテ期ですか!?」のヒロイン達、「ひなみの丘」の三葉、拓海、修、姫毱、「With a Smile」の金木、「Utopia」のアリオス、「ベルリン教室」の天使、「冬は幻の鏡」の小太郎と早織……。いくらでも出てきます。
良い登場人物と良い物語は、車の両輪のようなものです。良いキャラクターがいれば物語そのものも印象に残りますし、良い物語はキャラクターをより魅力的にします。そんな物語、キャラクターに、1本でも多く出会えるといいですね。
いよいよグランプリの発表です。まずは準グランプリから。
準グランプリの1本目は、「イマジナリーフレンド」。幽霊ものに代表される、超自然的な存在との交流物語なのですが、成瀬とアサトが同性であるということが最大のポイント。その設定がもたらすラストからエンドロールの感銘度の高さは、是非とも味わっていただきたい。前半はライトノベルに出てきそうな軽薄男だった成瀬が、最後には友情に厚いところを見せてくれる、その流れもとても見事です。
準グランプリ2本目は、「夢見た少女のニルヴァーナ」です。とにかく前半のキャラクター同志の絡み合い、そこから判明する意外な事実や人間関係が最大の見どころです。細かいことを言えば色々と荒削りなところもあるのですが(主人公があまり能動的に物語に絡まないとか)、熱量を感じさせてくれる物語でした。有料版では、他のヒロインのルートもあるのでしょうか。これはちょっと読んでみたくなります。
そして栄えある(?)2021年NaGISA netノベルゲーム大賞は、「ぼくの帰る町」です。今年は3本の推薦を出しましたが、「迷わずに出した」のは実はこの作品だけです。いじめを受けている主人公マックと、彼に声をかけてきたセオドアが、旅を通じて成長する物語。実は物語としては地味なのですが、とにかく洋画を思わせる構成がとてもよくできていますし、台詞回しが洒落ていて本当に洋画を見ているかのようです。1時間と短めなのですが、映画を1本見たかのような感覚を味わえます。
この作品はノベコレで公開されている訳ではない(Live Maker製です)ので、さほど話題にはなっていないようですが、見落とされるには勿体ない作品です。ティラノゲームフェスの盛り上がりはとてもいいことですが、一方でこういう地味ながら優れた作品にスポットが当たらないのは、実に惜しい話。気軽に読める長さですので、未読の方は是非読んでみてください。
ということで、今年も執筆に物凄い時間をかけたNaGISA netノベルゲーム大賞の記事も、何とか書き上げられました。毎年同じことを書きますが、私がこんな記事を書けるのも、多くの作品を制作、公開してくださっている作者の皆様の努力と熱意あってのものです。この場を借りて、改めて厚く御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
来年も、年末にはできればこの記事を書ければと思っています。無理のない範囲で日々こつこつとプレイできればいいですね。そしてまだ見ぬ素晴らしい作品や、埋もれた傑作に1本でも出会え、これを紹介していきたいなと。
では皆様、今年も大変お世話になりました。どうぞ良いお年をお迎えください。そして来年も、楽しいフリーノベルゲームライフを!
今年のレビューは、通常枠が156本(推薦3、準推薦59)、掌編枠が60本(推薦3、準推薦16)。合計216本でした。去年よりだいぶ本数は減っています。しかし掌編枠は去年より本数が減ったのに、推薦も準推薦も増えており、今年は粒揃いでした。
逆に通常枠は、推薦がわずか3本で、掌編枠よりも推薦率が低かったという。準推薦率は去年より上がっていますから、ホームランは少なくともクリーンヒットが多かった年と言えるかも知れません。実際、印象に残る良作はとても多かったように思います。
それでは今年もNaGISA netノベルゲーム大賞を発表していきましょう。あくまで私の個人企画ですので、軽い気持ちで読んでください。これも毎年共通ですが、「今年公開された作品」ではなく「私が今年読んだ作品」から選びます。受賞作の作者の皆さんは、ぜひ「NaGISA netノベルゲーム大賞○○部門賞受賞」と、自信を持って宣言してください(笑)。
長くなると思いますが、よろしくお願いします。
恋愛部門(男性)

次点には、突飛な設定が面白いだけでなく、恋愛ものとしてもハイレベルだった「怒ると死にます。」と、死神と恋愛ごっこという、これも目をひく変わった出だしが印象に残った「冬つく花だより」を選びました。「怒ると死にます。」は、ヒロイン美喜の性格と声の演技が非常に印象に残りましたし、「冬つく花だより」は、春樹とレイラの関係の変化と、春樹の葛藤と変化が上手く描かれており、定番に上手く変化球を混ぜた良作でした。
恋愛ものは、個人的にはやはりフリーノベルゲームの王道だと思っていますし(「かまいたちの夜」からノベルゲームに入った方だと、クローズドサークルものが王道なのかも知れませんが)、恋愛ものでなくても恋愛要素は物語を盛り上げる重要要素です。色々な恋愛模様を色々な物語で楽しめた1年でした。
恋愛部門(女性)

次点ですが、地味ながらバラエティ豊かな分岐を楽しめる「愛と恋の境界線」、そして正義のヒロインという設定と、エイトルートの切なさが抜群の「婚活★HERO」を選びました。前者は、攻略対象の性格だけでなく、分岐によって物語そのものの雰囲気まで変わるのが面白いですし(オタクの遠藤ルートが好きです)、後者は単なるコメディと思わせてからのエイトルートのラストが、破壊力最強でした。
優れた女性向け恋愛ものって、男性が読んでも楽しめるんですよね(男性向け恋愛ものについても、同じことが言えますが)。色々プレイしましたが、それを改めて実感できた1年でした。女性向け恋愛ものって質量ともますます充実の一途を辿っているように思えますから、来年も楽しませてもらえそうです。
日常部門

次点ですが、同じ時間軸を複数の視点で見るという作りで、非常にレベルの高い物語となっていた「ウソからはじまる物語」と、母と娘の絆を穏やかな筆致で描いた「桜萌黄の時」の二作品を選出します。どちらも日常ものならではの、突拍子もない出来事は何も起こらない地味な物語ですが、「ウソからはじまる物語」は、複数視点で同じ時間軸を見るという作りが、大変効果的でしたし、「桜萌黄の時」は押し付けがましくない描写の中に息づく母と子の絆が印象に残りました。
日常ものは、目を見張るような大袈裟な展開や、飛び道具のような奇跡が起こるような物語ではないのですが、だからこそもしかすると、最も作者の力量がダイレクトに反映される分野なのかも、と思っています。恋愛ものがノベルゲームの花形だとしたら、日常ものはノベルゲームの大黒柱なのかな、なんてことも考えています。読む醍醐味を存分に味わわせてくれた作品ばかりでした。
ファンタジー部門

次点には「ほのぼのダーク」とでも言えそうな「みどりの魔女と金の枷」と、魔法が派手に飛び交うコメディバトルファンタジー「大魔法文化(略称)」の2本です。「みどりの魔女」は、一見ほのぼのだけど実はダーク、でも最後にはなんだか和やかに収まる独特の世界観。カタリナとクオンのやり取りと関係の変化、それが醸し出すちょっとした怖さが見どころ。「大魔法文化」は波乱万丈な学園魔法バトルで、古い作品ですが今読んでも文句なく楽しめます。未読の方はこの機会に是非どうぞ。
ファンタジーはある意味「なんでもあり」ですので、作者による様々な工夫を色々と味わえるのが面白いところです。世界観もですし、キャラクターも個性的で面白いのがこのジャンルの特徴ですね。正統派もよし、捻ったものもよし。来年もきっとバラエティに富んだ作品に出会えることでしょう。
不思議系部門

悩みを抱える少年少女の物語なのですが、そこに異界を走る列車という設定を合わせ、異界での出来事を通じて3人の少年少女がだんだんお互いに心を開くという展開がとても上手く、完全なハッピーエンドのラストもあってとても読後感のいい物語でした。設定の面白さと物語構成、それによくできたキャラクター描写、3Dを上手く使った演出全部が合わさって、大変よくできた作品に仕上がっています。
次点には、ストレートな作りながら、丁寧に組み上げられた「幽霊もの」の傑作「白い日傘とアンデッド」と、後半の盛り上がりとそこから綺麗に落とすラストが見事だった「ひとつだけ願いが叶うなら。」の2本を選びます。「白い日傘」は、設定こそ王道ですが、ただの「失敗エンド」ではない魅力を持ったバッドエンドと、それがあるからこそ際立っていたハッピーエンドの対比が魅力でしたし、「ひとつだけ」はハッピーエンドルート後半の急加速ぶりが素晴らしい。こちらも前半のバッドエンドあってこそのハッピーエンドでしたから、その意味で両作は少し似た雰囲気がなくもありません。
製作者のアイディアが、どの作品にも横溢しているこのジャンル。来年もきっと様々なアイディアを目の当たりにできるに違いありません。今から楽しみです。
SF/シリアス・感動系部門

実はこの作品は第二部を今制作中だそうですが、第二部には私も、曲を書いたりシナリオの校正やちょっとしたアドバイスをしたり、ちょっと関わっています。今のうちに第一部を読んでおきましょう(その方が絶対に第二部もより楽しめます)。年末年始にいかがでしょうか?
次点には、とにかく演出の素晴らしさが光っていた「雨音と自動人形」と、僅か15分で宇宙の壮大さを感じさせるロマンを味わわせてくれた「天海のメッセージボトル」を選びます。どちらの作品も、哀愁の中に希望も感じさせる心情描写が忘れ得ない感銘を残してくれた作品です。私はSFは大好きですし、シリアス・感動系はジャンル名通りに、感動できる作品が多く名作が多い印象です。来年はどうでしょうか。
ホラー/ミステリー・サスペンス/伝奇部門

次点は、学園ものと思わせてから急転直下に驚かされた「雨にして人を外れ」と、閉鎖空間での正統派ミステリー「雨夜の山荘で君は惑う」の2作品です。「雨にして」のクライマックスの美しさ、そして後者のエンターテインメント性の高さは、いずれも一読の価値があるものです。
このジャンルでは、過去にも様々な名作が生まれましたし、人によってはこのジャンルこそがノベルゲームの王道だという方も、あるかも知れません。今年はホラーが僅か2作品と少なかったので、来年はもっと積極的に攻めていきたいと思っています。
学園・青春部門

次点は、手品というこれも変わったテーマを取り上げた「まじかりて!」と、現実とファンタジーの融合が高い効果を上げていた夏の海の物語「タイトル未定」を選びます。前者は典型的なVIPノリの作品ですが細部に渡って完成度が高いですし、何せ趣味が手品である私には随所で楽しめる物語でした。後者は「まじかりて!」とはある意味対照的なノリの物語。心情描写が非常に細やかで、そこにファンタジックな設定が上手に乗っている完成度の高い作品です。
この分野は、今年は良作が多く、選考にはかなり頭を悩ませました。ファンタジーやSFと違って、突飛な設定が出てくることは少ないですが、その分作者のストーリーテリングの力がダイレクトに現れるジャンルであるとも言えます。物語を読む面白さを、一番味わえる部門なのかも知れませんね。
アクション・ドラマ部門

次点も悩みましたが、和風アクションの大作「鬼桜」と、カードを使った心理戦が見どころの「リードマインド」を選びます。「鬼桜」は独特の世界観と緊迫感溢れる展開で最後まで目が離せませんでしたし、「リードマインド」の駆け引きと短い中に凝縮された物語も印象的でした。他にもいい作品が多く、次点を2作品に絞るのも大変でした。
このジャンルは名前の通り、切れ味の鋭い描写が売りの作品が多かったように思います。「読む楽しさ」と「物語の楽しさ」が高いレベルで両立された作品が多かった気がします。さて来年はどうでしょうか。
その他部門

次点ですが、悲しみの中で主人公は一歩前へ進む希望を感じさせてくれた、シリアスな闘病ドラマ「白い笑顔」と、レトロな画面で繰り広げられるコメディ風ゲームものの「エレベーター ~性格不安定な僕とみよちゃんの物語~」の2作品を。前者は文字だけの地味な作品ながら、非常に心に響く物語ですし、後者はファミコン風の画面ですが、細かいところまでよく考えて作られた脱出ものです。
4つのジャンルを1つにまとめてしまいましたが、探索・謎解きものはゲーム性を前面に出した作品も結構あり、これはこれでノベルゲームの醍醐味の一つです。一時期大流行した病院・闘病ものも、個人的には好きな分野ですので、来年はまた色々な作品に出会えることを期待しましょう。
掌編部門

次点は、ラストに背筋が寒くなる学園サスペンス「千夏ちゃんとあそぼう」、PC画面で進むハートフルストーリー「私の最期の言葉は」、甘酸っぱい青春の1ページを切り取ったような「まほうつかい」、アニメのような演出が効いていた「雫」。以上4本です。
私はどちらかというと、掌編よりは長めの作品が好きなのですが、それでも時折短さを生かしたアイディアにはっとさせられることがあります。掌編ならではの面白さを持った作品をたくさん読めることを、来年も期待しましょう。
特別賞

次点は「Promise Breaker」「怪異的な彼女」「星追いリフレイン」「黒い獣と契約の夜」「Rootkids」「文学少女のホンネ」、以上6作品を選びました。どれも個性的な趣向が凝らされていたり、キャラクターが魅力的だったり、見落とすには惜しい作品ばかりです。
いつも言っていることですが、実は無印作品にこそきらりと光る良作が多数埋もれていると言っても過言ではありません。それぞれのレビューでは、なるべくその作品の魅力が伝わるように書いているつもりですので、評価だけでなく、細かい部分も読んで作品選びの参考にしていただければ幸いです。
キャラクター賞

その他「群青のレクイエム」の橘花、「毒味メイドと嫌味シェフ」の女王、「Gun Sad」の建彦、「覚えておいてくださいね」のあすか、「この部活に入れてください」の優明、「アル管理人の恋 spring + summerのサーシャ、ジョシュアをはじめとする住人達、「ロボット先生」のロバート、「止水 -しすい-」の止水、「これってモテ期ですか!?」のヒロイン達、「ひなみの丘」の三葉、拓海、修、姫毱、「With a Smile」の金木、「Utopia」のアリオス、「ベルリン教室」の天使、「冬は幻の鏡」の小太郎と早織……。いくらでも出てきます。
良い登場人物と良い物語は、車の両輪のようなものです。良いキャラクターがいれば物語そのものも印象に残りますし、良い物語はキャラクターをより魅力的にします。そんな物語、キャラクターに、1本でも多く出会えるといいですね。
2021年NaGISA net賞
いよいよグランプリの発表です。まずは準グランプリから。



この作品はノベコレで公開されている訳ではない(Live Maker製です)ので、さほど話題にはなっていないようですが、見落とされるには勿体ない作品です。ティラノゲームフェスの盛り上がりはとてもいいことですが、一方でこういう地味ながら優れた作品にスポットが当たらないのは、実に惜しい話。気軽に読める長さですので、未読の方は是非読んでみてください。
ということで、今年も執筆に物凄い時間をかけたNaGISA netノベルゲーム大賞の記事も、何とか書き上げられました。毎年同じことを書きますが、私がこんな記事を書けるのも、多くの作品を制作、公開してくださっている作者の皆様の努力と熱意あってのものです。この場を借りて、改めて厚く御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。
来年も、年末にはできればこの記事を書ければと思っています。無理のない範囲で日々こつこつとプレイできればいいですね。そしてまだ見ぬ素晴らしい作品や、埋もれた傑作に1本でも出会え、これを紹介していきたいなと。
では皆様、今年も大変お世話になりました。どうぞ良いお年をお迎えください。そして来年も、楽しいフリーノベルゲームライフを!
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