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第143回/切れの良いリアリズム - 雨ではなく、雪でなく(やまいぬワークス)

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雨ではなく、雪でなく

雨ではなく、雪でなく■制作者/やまいぬワークス(ダウンロード
■容量/9.40MB

保険会社のネットワーク管理の仕事をしている佐藤令太。今日も顧客からの電話にてんてこまいしていたが、仕事中に突然携帯電話が鳴った。相手は子供の頃妹のように可愛がっていた従妹の深雪。呼び出されて会ってみると、深雪は「今度結婚する……」と。リアルでちょっと切ない、現代短編恋愛ノベル。

ここが○

  • 良い感じのリアリティ。
  • 描写、会話がテンポ良好。
  • 短いながらも切なく、味わいのあるシナリオ。

ここが×

  • 主人公に感情移入し難い。
  • その上、結末に至る経過に作為性を強く感じる。
  • なのでラストに非常に納得が行かない。

■切れの良いリアリズム

この作品も、選択肢のない短編ノベルです。恋愛ノベルの場合、主人公はせいぜい高校生くらいまでというパターンが多いのですが、この作品では主人公は30代の初めくらいという設定。冒頭の、ちょうどよいリアリティを感じさせてくれる忙しい職場のシーンが、まずは良い引きとなっています。

この作品は、言ってみれば「すれ違い恋愛もの」です(また勝手にジャンル作ってるし(笑))。既出作からあえてこのジャンルを探せば「ツキノテラス」辺りでしょうか。まああの作品と今作では全く雰囲気が違いますけど。ラストでの余韻などは、少し共通点も感じさせるものがあると思います。

そして、この手のジャンルの場合、作品の出来映えは一にかかって「登場人物の心情、そういう決断をするに至った経緯を、いかに読み手に納得させ得るか」によって左右されます。ハッピーエンドで終わる恋愛ものなら、途中多少納得できない経過があろうとも、ラストが綺麗に決まれば、読者は途中の納得できない展開など忘れてしまいます。ところが、ラストが幸せに終わる訳ではない物語の場合は、途中が納得できないと、読者は満足できないでしょう。

で、この作品ですが、残念ながら主人公の心情やその行動に共感し得るとは、ちょっと言い難いです。それでも、主人公とヒロインが従兄妹同士という事で、ラスト近くまではまだ無理矢理納得できなくもないんですが、あのラストはいくらなんでも……。私などは「そんなあんまりな!」と言いそうになってしまいました。

描写や会話文は、独特のリズム感があるテンポの良いもので、令太と深雪の会話も軽妙です。また挿入される過去回想も、良い効果を上げています。それだけに、ラストがもうちょっと何とかならなかったものでしょうか。あのラストで、主人公が深雪の気持ちに答えない理由すらも、何だかあやふやになっている感があります。

この手の作品は、「主人公が身をひかねばならない理由」を明確に描かないと、読者はなかなか納得しないと思うのです。ましてや、あのラストを持って来るのであればなおのことです。なので、読後感も「どうしてそうなっちゃうの?」になってしまい、思わず頭を抱えてしまいます。全体の雰囲気は非常に良いんですけどねえ。

今作の音楽は、全部サティのピアノ曲で統一されています。退廃的なサティの響きが作品世界にマッチしており、選曲センスも良く、音楽が雰囲気を高める事に成功しています。効果音もリアルで良いです。また、立ち絵やイベント絵も、淡い色調が「大人」のイメージを醸し出しており、これも良い感じ。また、タイトルは良いセンスです。明確すぎず謎すぎず、よい引きになっていると思います。

システムはLive Maker。最近Live Maker製のノベルが増えている気がしますね。ツール自体の使いやすさもアップしている感じですし、すっかりLive Makerも主流ツールの1つになったようですね。選択肢が増えるのは良い事です

既に書きましたように、エンディングの割り切れなさの割りに経過に納得が行かないところがあり、読後感も爽やかとは言い難い作品です。しかし、「あの時ああしていればどうなったろう」というような過去への思いは、誰しも持ち合わせているでしょう。誰しも持つ、そんな「封印しておきたい、でも折に触れて振り返りたい大切な思い出」を、ちょっと刺激してくれる作品です。

プレイ時間は20分程度。切れの良いリアリティが心地よい作品ですので、この作者さんの他の作品があれば、是非読んでみたいと思います。違いの分かる大人のノベルゲームをどうぞ。
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