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第149回/ミスマッチが生むユーモア - 彼と彼女と彼女の忠義(non color)

コメディ
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彼と彼女と彼女の忠義

彼と彼女と彼女の忠義■制作者/non color(ダウンロード
■容量/63.4MB

食べる物が何もない貧乏生活の主人公。ある日、500円玉を拾ったので、スーパーに出かけるが、その帰り道、居眠り運転のトラックが迫って来る。その時猫につまづいてしまったが、帰宅した主人公の目の前には、見知らぬ女性が。ずれた会話が笑いを誘う、ちょっと変わったユーモアの小品。

ここが○

  • ドライでずれた会話が、漫才のような面白さ。
  • 無駄を削った戯曲のような文章はテンポ抜群。
  • 綺麗な立ち絵。

ここが×

  • ドライすぎて、感情移入の隙間はまるでない。
  • 無駄を削りすぎて味気ない気も。
  • 物語としての面白さはあまりない。

■ミスマッチが生むユーモア

私の黒猫」が、しゃべる猫を取り上げた作品でしたが、一見似た様な作品。病院ものが重なる時は病院ものが続いたりしますし、そういうものなのでしょうか。もっとも、この作品は、ちょっとプレイしてみればすぐ分かる通り、「私の黒猫」とは全く雰囲気の違う作品です。

「私の黒猫」は、亜希とドン吉のキャラクターがよくマッチしており、ある意味ウェットな関係を生み出していて、それ故にラストが感動的なドラマになったのですが、こちらの1人と1匹は、逆に凄いミスマッチで、またドライ。そのミスマッチぶり、ドライさが生み出す、奇妙な掛け合いを楽しむ作品です。

実際、今作はほぼ六畳一間の主人公の室内で展開するんですが、ヒロインが大真面目でお馬鹿な事を言ったり、1人と1匹のずれたやり取りが実に面白く、シュールなお笑い番組を見ているかのようです。お笑いとは言っても、リアクションでげらげら笑えるタイプの笑いというよりは、アメリカンジョークと言いますか、はっとした後ににやりとする笑い。そういう笑いが、随所に盛り込まれています。

文章は、戯曲風でとことん無駄を削っています。読みやすい反面、味気ないとも言えますが、主人公たちのずれていてドライなやり取りを描写するには、ベストの方法という気もします。この作品で、延々と場面を描写されたらどうかとも思いますしね。その文章の潔さと、クールなユーモアを鏤めた作り、1人と1匹の、真面目なのかずれているのか分からないやり取りなどは、洗練された噺家の落語を思わせます。

逆に、物語としての面白さはほとんどありません。ですので、短編でも起承転結のついた、物語を楽しみたいという方だと、少々拍子抜けしてしまう恐れもあります。しかし、この作品は最初から物語を楽しませようとはしていないように見えます。徹頭徹尾、1人と1匹のやり取りを楽しむための作品でしょう。オチも、いかにも落語風で、たった一言で綺麗に、ちょっとブラックに落としています。感銘を受けるとか、ジーンとするとか、爆笑するなんて類いのオチではないのですが、思わずにやりとさせられました。

また、これはあえてそうしているのかも知れませんが、読み手の感情移入を許す隙間が全くありません。この作品は、あくまで客席からステージ上の2人のキャラクターのやり取りを見て楽しむ、そういう方向を持ったものだと思います。かえって、無理矢理読み手が感情移入しようとすると、肩すかしを食らいます。読み手に、「分をわきまえて、一歩離れて見る」事を要求する作品だなと感じました。

この作品、ヒロインの猫役はフルボイスです。なかなかの好演で、一生懸命なのに空回りしている猫役を上手く表現していると思います。音楽は、ちょっとシニカルで、これも作品の雰囲気に合ってますね。また、ヒロインの立ち絵がとても上質です。時々猫耳を出してしまうところが可愛いです。

同じ材料を用いて、いわゆる「感動もの」に仕立てようとしたら、いくらでも仕立てられたでしょう。しかしあえてそうせず、シニカルでユーモアのある作品に仕上げたのは、この作者さんの作風ではないかと思います。ラストも、無理矢理感動的にしようと思えばできたでしょうが、ふふんと笑って身をかわされてしまいます。しかし、その良い意味での「はずされた」感じが、この作品独特のユーモアに繋がっています。

ラスト近くの展開は「15歳未満禁止にした方がいいんじゃないか」と思えたりもしますが、そういうところもこの作品なりのユーモアでさりげなく素通りしてしまっているのが、面白いところです。ちょっと奇妙な味ではありますが、味わってみれば案外癖になる、そんな味を持った作品。プレイ時間は30分。重厚な物語や、キャラクタードラマが濃密な作品に疲れた時は、軽いユーモアを楽しめるこんな作品をどうぞ。
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