第1392回/果てる命の美しさ - きみが大地に還るまで(さうら魎)
きみが大地に還るまで

■ジャンル/石の世界の数日間交流ノベル
■プレイ時間/40分
その世界は、全てが石でできていた。目覚めたばかりの少女フロイとて例外ではない。しかし、通常ならば世界から知識を授けられるはずなのに、フロイはなんの知識も持っていなかった。目覚めたフロイのそばにいた偶然いたカイトは、間も無く寿命を終えようとしていたが、フロイにこの世界を案内することにする。こうして、フロイとカイトの短い共同生活が始まった。この世界でフロイはカイトと共に誰と出会い、何を見つけるのだろうか?
ここが○
- ユニークな世界観。
- その世界観によく合ったイラスト。
- 個性的なキャラクターとのやり取り。
ここが×
- 起伏にはちょっと欠ける。
- ラストも呆気ない。
- せっかくの登場人物が十分生きていない。
■果てる命の美しさ

その世界観ですが、今作の世界は「全てが石で出来ている」のです。登場人物は人間の姿をしていますが、体が石で出来ていますし、生まれる時は石の大地から生まれます。これをこの世界の言葉では「変成」と言いまして、生まれた時には既にそれなりの年齢の姿なのですが、生まれた人は大地からこの世界の知識を受け継ぎます。なので、いきなりそんな姿で生まれても、無事に生きていけるということなのですね。
ところが今作の主人公フロイは、大地からの知識を受け継がずに生まれてきました。ちょうどフロイがこの世界に生まれた時、そこには寿命を間も無く終えようとしていたカイトという男性がいました。カイトは終の棲家、つまり自分の死に場所を探していたのですが、フロイがそういう状況で生まれてきたのを見て、最期を迎える時までフロイにこの世界を見せるための、短い旅をすることにします。こうして、フロイとカイトのちょっとした旅が始まったのでした。
その度の中で、二人は色々な人々と出会います(この物語のキャラクターを「人々」と表現して良いのかという気もしますが、他に適当な呼称も思いつきませんので、「人」「人物」などと表記します)。旅とは言っても、最初にフロイがカイトと出会った場所を拠点にして、そこから1日の間に歩いて行って帰れる範囲ですから、大した旅ではないのですが、それでも、様々な場所に行き、様々な人と出会うことで、フロイはこの世界のことを徐々に知っていきます。

ちなみに全てが石のこの世界。食事も石です。なので大食らいのルーラはいつも石を食べているということに。石でできた生物が石を食べるということは、共食いか(笑)。また寿命が近いカイトは、顔にひびが入っており、片目はもうなく、体の至る所から石が突き出ています。イラストでその辺りがしっかりと表現されています。カイトに限らず、イラストはとても綺麗で、キャラクターの魅力を一層際立てていました。
このようにキャラクター、世界観はとても魅力的なのですが、物語として見ると、少し起伏に乏しいところがあります。各地を巡って会話し、最後にカイトとの別れがあるのですが、起承転結で言えば途中の「転」がなく、「起承結」という感じ。まとまってはいるものの、一本調子なのです。途中で何か捻りがあれば、同じラストがもっと効果的にプレイヤーの心に響いたような気がします。魅力的な登場人物を、もっと活躍させるような何かがあっても良かったのでは。
なお作者さんのTwitterアカウントに記載されているURLに飛ぶと、どうやらこの作者さんはロゴデザインをいろいろと手掛けている様子。絵を自分で描く作者は珍しくありませんが、ロゴデザインを自分でやる方は珍しいですね。今作のロゴも、物語を作った作者さん自らが作ったからか、作品世界にもマッチしていて、タイトル画面から既に良い雰囲気を漂わせていました。こういう細かいところにも自分で手を入れていることが、作品の世界観にプラスに働いているのかも知れません。
ツールはティラノスクリプト。選択肢は最後に1つだけ出てきます。作品ページでは「台詞が少し変化するのみで、エンディングに変化はない」とありますが、最後に現れる登場人物が変わりますので、一応私のレビューでは「分岐あり」に分類しました。選択肢が出るとセーブできませんので、その前にセーブしておきましょう(展開で何となく選択肢が出そうなのは分かるはずです)。最後は四択です。35分から45分くらいで読み終えられます。他の物語にはなかなかない、面白い世界観の日常系ファンタジーを、気軽に楽しんでください。
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