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第167回/ディレクションのさじ加減 - 年末年始の恋模様(九州壇氏)

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年末年始の恋模様

年末年始の恋模様■制作者/九州壇氏(ダウンロード
■容量/5.82MB

高野みやびは、高3の受験生。その日も友人の美香と図書館で受験勉強をしていた。そこへ現れたのは、幼なじみの同級生、山本マサルとその友人の阿部。みやびは、思わずマサルに心にもない事を言ってしまい……。年末年始に繰り広げられる、正統派の恋愛物語。

ここが○

  • 読みやすく整った文章。
  • 正統派でしっかりした物語。
  • 嫌味のないキャラクター造型。友人の美香が良い味出してる。

ここが×

  • ひっぱりが一本調子のきらいあり。
  • 音楽の選択にはもう一工夫あってもいいかも。
  • オチにもう一捻りが欲しかった。

■ディレクションのさじ加減

僕の愛する三匹」「吟遊詩人」の作者さんの新作です。前作、前々作は15分もあれば読める内容でしたが、今回は短編とは言え、少しボリュームがある内容です。立ち絵等はなく、シンプルな作り。

そして、かなり抽象的なテーマを取り扱っていた前作や前々作と比べると、今作は非常にストレートで正統派の恋愛物語です。文章やキャラクターメイキングについては、短編ながら前作、前々作でも力のあるところを見せてくれていた作者さんだけに、今回も読みやすく、キャラクター造型もしっかりしています。

さて、物語には「引っ張り」の力がないといけません。私はこれを「ディレクション」と呼んでいます。お目当ての点を出しておきながら、別の方向に引っ張るのが「ミスディレクション」という訳です(ミステリーの「レッドヘリング」という表現より、私はマジックの「ミスディレクション」という概念をとりたい)。そしてこのディレクションには、大きく分けまして「展開でひっぱる」やり方と、「オチに向けてひっぱる」やり方の、2種類があると思います。

分かりやすく言うと、「こういう事が起こった。その結果こうなった。その結果人間関係がこうなり、こんな事件が起き、こういうオチに至った」という作りと、「こういうオチがある。そのためにこういう伏線が必要だ。そのためこの事件がなくてはならず、そのためには人間関係はこうでなくてはならず、だからこういうキャラクターを配し……」という作り。ミステリーなんかは後者ですし、恋愛ものでは前者が多い気がします。凄く大雑把な分け方ではありますし、実際にはこの両者が複雑に絡んだ作りになっている事が多いと思いますし、それが「ディレクションのさじ加減」であると思いますが。

そしてこの分類で言えば、この作品は前者に当たると思います。そしてそういう作りの物語の場合、いきおい複雑な伏線に頼った物語を作る事は難しくなります。そして、「次はどうなるのだろう」という展開で引っ張る訳ですから、その引っ張る糸が1本だと、どうしても読者をひきつける力が途中で弱く、単調になりがちになります(逆に、オチに向けて引っ張るタイプだと、あまり多くの糸で引っ張ると、途中で混乱するでしょう)。

たとえば、週刊マンガの野球もので、野球の試合だけで引っ張るのはやはり難しいと思います。また週刊マンガだとその性質上、どうしても「オチへ向けて」よりは「展開で引っ張る」方が多くなるでしょう。ですから友情とか恋愛とか、その他さまざまな要素を絡ませないと、なかなか持続的に読者を引っ張る事は難しいのではないかと思うのです。

そしてこの作品ですが、その「引っ張る」力がシンプルで分かりやすすぎるきらいがあります。具体的には、中盤で主人公のみやびがマサルに嘘をついて云々という件ですね。それ以降、それだけで引っ張っていってるので、どうしても引っ張りが少し一本調子になっている感は拭えません。

もちろん、幹となるテーマはシンプルで良いと思うんですが、展開で引っ張るタイプの話の場合は、展開に起伏を持たせるか、さもなくば複数の糸を絡ませながら引っ張るかしないと、読者の意欲を持続的に継続するのが難しくなります。基本的な物語はしっかり作っており、キャラクターもよく描けてますから、ディレクションにもう少し枝葉があれば、数段読み応えのある物語になったのではないでしょうか。

小難しい事を書きましたが、恋愛ものとして整った作りで、展開の速度や、キャラクターのやり取りがちょうど良く、快適に読めて楽しめる物語に仕上がっていると思います。オチにもう一捻りがあっても良いのでは、と思いましたが、これくらいストレートな方が、恋愛ものとしては読後感は良いから、いいのかも知れませんね。

システムはNScripter。選択肢はなく、プレイ時間は40分程度。ちょうどこの時期にぴったりの物語です。余韻をひくタイプではありませんが、良い読後感の物語です。この冬、暖かい部屋で暖かい恋愛ノベルを楽しむのも良いのではないでしょうか。
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