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第174回/感傷漂う「街角ノベル」 - 一日千秋(さくらミント)

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一日千秋

一日千秋■制作者/さくらミント(ダウンロード
■容量/54.5MB

マナブと千秋、付き合いの長いカップルは、真夏のデートで些細な行き違いから喧嘩になった。そして千秋は言った。「……一ヶ月後の日曜日。お昼にここで」。一月後、約束の場所へ急いだマナブの目の前には、懐かしい姿が。抑えた筆致で男女間の感傷を描き出す独特の作風は健在。選択肢なしの短編恋愛ノベル。

ここが○

  • 抑えめの筆致が作風によくマッチ。
  • 美麗な立ち絵。
  • 何気ない日常描写が地味に効いている。

ここが×

  • ラストにはもう一つ余韻が欲しかった。
  • 効果的な1枚絵があれば、というのは贅沢言い過ぎか。
  • テキスト表示速度が変えられないのは何故。

■感傷漂う「街角ノベル」

私はあまり制作者さんの名前を確認してから作品をダウンロードしたりはしません。この作品は、開始してから気付きました。「踏切」「ツキノテラス」でおなじみの、さくらミントさんの作品。どうして見逃してたんでしょうか。

それはともかく、「ツキノテラス」でも感じられた、抑えた筆致でセンチメンタリズムを描き出す作風は健在です。この作品は、内容についてあまり詳しく語るとプレイヤーさんの興味を著しく削いでしまう結果となりますので、ストーリーについてはつまびらかにしない方向で書きます。タイトルをそのまま読めば「いちじつせんしゅう」ですが、恐らくそうは読まないと思います。どう読むかは、一度プレイすれば分かると思いますので、是非皆さんで体験してみてください。

この作品の主人公は、恐らく作中の描写からすると20歳代半ばと思しき男女のカップルです。そのカップルが、些細な事から行き違ったところから物語は始まります。出だしだけ少し描写のテンポが悪く感じたんですが、ラストまで読むと、序盤のテンポの悪さすら実は計算のうちなのではないかと思えて来るから不思議です。私は綺麗に騙されて、ラストで思わず唸ってしまいました。ミステリーならともかく、恋愛ものでこう来るか、と(笑)。

この作者さんは、「生活シーン」の描き方が実に上手いなと思わされます。しかも、生活感を過度には感じさせないところ、ハンカチの上から、手触りだけでその物を感じさせるような、そんなリアリティともどかしさがバランスよくせめぎあっているような面白さがあります。「生活を描く」ではなく「生活の一部を切り取って見せる」ような感覚です。

それ故に、この作者さんの作品は「生活ノベル」ではなく「街角ノベル」とでも呼びたい気がするのです。最近のレビュー作ですと「雨ではなく、雪でなく」辺りが、近い雰囲気を持っていますが、プレイした印象は随分違います。あちらの「切れの良いリアリズム」に対し、こちらは「空間を漂うセンチメンタリズム」とでも呼びたい空気感です。

さて今作ですが、シナリオ進行としてはある意味シンプルとも言えた「ツキノテラス」よりも、物語的な面白さは上だと思います。「おっ」と思わせる仕掛けもあります。反面、強烈に余韻をひいた「ツキノテラス」と比べると、余韻は弱いと言わざるを得ません。そこにもう一工夫あれば、と思いました。基本的に「ハッピーエンド主義者」の私ですが、この作者さんの作風は、どちらかと言えばちょっとやるせない終わり方の方が似合うようにも感じます(何て身勝手な(笑))。

しかし、場面を切り取ってみせるような作風で、ここぞというシーンの描写は非常に訴えかける力が強くなっています。過剰な描写はせず、ここぞという場面にプレイヤーの意識を集約させるかのようなシナリオ展開は、「ツキノテラス」同様と言えます。ですから、あの作風が気に入った方なら、きっと今作もお気に召すはずです。

システムはNScripterなのですが、コンフィギュレーションが充実している割りに、テキスト表示速度が変えられないのは何故なのだろうと思いました。まあこの作者さんの作風ならば、どばどばテキストが表示されるよりは、幾分ゆっくり目のあの表示の方が合うのかなと、プレイしているうちに思えてきましたけど。立ち絵はもの凄く美麗です。これだけ立ち絵が美麗で、しかも作風が作風ですので、ここぞという場面で良い1枚絵があれば、より印象に残る作品になったのではないかと言うのは、さすがに贅沢な注文でしょうか(笑)。

プレイ時間は40分ほどだと思います。選択肢はありません。急いで読むよりも、落ち着いて読み進めたい小品です。

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