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第180回/炸裂・理系流レトリック - πとナブラの正しい料理法(MIS.W)

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πとナブラの正しい料理法

πとナブラの正しい料理法■制作者/MIS.W(ダウンロード
■容量/93.7MB

小鳥遊一貴は文芸部所属の高校3年生。数学が大の得意な彼は、世界について思索するのが好きだった。ある日、幼なじみの添城七夏に、文芸部の原稿を催促された。一貴は、どんな物語を書こうか頭を悩ませるが……。理系にはおなじみの描写が頻出する、ちょっと変わった恋愛ノベル。

ここが○

  • 理系ならにやりとできる描写の数々。
  • キャラクターたちの小粋なやり取り。
  • 中盤になって初めて気付く物語の仕掛け。

ここが×

  • 文系なら全く分からない描写の数々。
  • 句点を多用したライトノベル風の文章は好みが分かれるか。
  • 仕掛けは凝っているが、盛り上がりに欠ける物語。

■炸裂・理系流レトリック

最近古い作品ばかりご紹介しましたが、今回は新しいです。作られたのは早稲田大学公認のコンピューターサークルみたいですね。そういや、うちの大学にもそういうサークル、あったなあ。作者さん自ら「すべての理系に送る」と書いているだけあって、理系であればおなじみの法則やら描写が沢山出て来て、かなり変わった雰囲気の作品です。

分類すれば恋愛ノベルでしょうが、この作品は非常に不思議な雰囲気を持っています。最近レビューした作品で言えば「風の描いた道」が近いですね。と言って、この作品の仕掛けを書いてしまうと、物語を読む醍醐味が半減してしまうので、それは書かない方向でレビューしましょう。

どこら辺が不思議な雰囲気の要因になっているかと考えてみるに、それは物語と文体の、奇妙なミスマッチにあるのではないでしょうか。既に書いたように、日常会話には理系でもおなじみの用語がばんばん飛び交うんですが、物語自体は意外にもストレートで、設定に凝ったSFである訳ではありませんし、もちろん描写に多発する物理や数学の法則が、物語に何か関係があるという訳でもありません。そして物語自体は、理論的という訳ではなく、むしろ非常に「文系的」です。その辺りの、物語(目的)と文章(手段)の、妙なミスマッチ、つまり言ってみれば「リアルなやり方でロマンティックな事を語っている」ところが、今作独特の面白い雰囲気を醸し出しているのかも知れませんね。

キャラクターは、ちょっと変わった物理少女の三條さんが面白いですね。その他のキャラクターもよく出来ています。ただこの物語はキャラクタードラマというよりは、やはり最初から最後まで「理系用語を使って語るちょっと変わった物語」だと思いますし、そのつもりで読んだ方が楽しめるでしょう。しかし「小鳥遊」(たかなし)という姓は、どうしても「call」のシリーズを思い起こさせます(笑)。

「理系におなじみ」という事は、当然「文系にはなじみがない」訳ですが、これは「理系なりの、理系にのみ認められたレトリック」であると考えれば、私はこういう手法もありだし、面白いと感じました。主人公が繰り広げる数学談義も、私は共感して読めました(が、文系の方だと果たしてどうだろう)。

文章は、句点を多用したライトノベルチックなもので、これはちょっと好みが分かれるかも知れません。私自身は、学術論文とか古めの翻訳ものばかり読んでるので、ちょっと辛かったのも事実ですが(句点の度にクリックを要求されますし)、ライトノベルを読み慣れた人なら、別段問題ないと思われます。ただ、フォントがちょっと小さめかな、と言う気もしました。

一つ感じたのは、メインの物語と恋愛ものが、もう少し上手くリンクしていてば、物語としての厚みが更に増したんじゃないかなあと。主人公の恋愛絡み以外にも、後半では興味深いイベントがいくつか起こるんですが、いずれもちょっと中途半端な感は否めないんですよね。場面場面を取れば「おっ」と思わされるんですが。

そしてラスト。言ってみれば、非常に当たり前のオチですし、逆に三條さんに言われないと気付かない主人公の方がどうかと思うんですが(普段は難しい数学の話をしてるのに(笑))、見せかたが上手く、「なるほど」と思わされました。物語それ自体はシンプルですが、理系流レトリックや独特の構成含め、見せ方が光る作品でしたね。あと、オープニングのムービーが凄いです。さすがコンピューター部。

この物語で私が一番笑ってしまったのは、冒頭。文芸部所属の主人公が「ノックスの十戒を破ってミステリーを書く」というくだり。これは大笑いしました。あの条件でミステリーを書ける人がいたら、CWAゴールドダガー賞ものだと思います(笑)。

選択肢なしの一本道でシステムは吉里吉里。プレイ時間は3時間くらいだと思います。他にはない、面白い雰囲気の学園恋愛もので、一見の価値があると思います。
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