第207回/想い出を置いて、汽車は行く - 無限夜行(めめ・暗闇横町) - ファンタジー
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第207回/想い出を置いて、汽車は行く - 無限夜行(めめ・暗闇横町)

ファンタジー
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無限夜行

無限夜行■制作者/めめ・暗闇横町(ダウンロード
■容量/77.7MB

ある夏の夕暮れ。10歳の悠太は、兄と一緒に祖母の家に行くため、東京駅のホームに立っていた。やがてホームに闇のような黒い列車が入って来た。2人が乗ったその列車は「無限夜行」。切符と同時に記憶もなくしてしまった兄弟は、果たして目的地につけるのか。昭和の香り漂う童話風ノベル。

ここが○

  • 水彩画風のイラストが昭和風で雰囲気最高。
  • 旅のムードを醸し出す夜行列車の描写。
  • とても綺麗なエンディング。

ここが×

  • かなりありがちなヒロインの扱い。
  • 2つのテーマを盛り込んだ結果、焦点が定まっていない。
  • すっきりしないところがあるラスト。

■想い出を置いて、汽車は行く

またも夏が舞台の作品です。しかも、物語のほとんどが列車内で展開するという点で、とても変わっています。同様の作品には、「いつか重なり合う場所で」や「それじゃあ、またね」がありますが、今作は「旅情緒」を全面に押し出しているところが特徴です。夜行列車に乗った事がある方ならお分かりでしょうが、あの独特の「今から遠いところへ行くんだ」という雰囲気が、非常によく出ています。

この作品は、小学生の兄弟が夏休みに祖母の家に行くため、東京駅から旅立つところから始まります。ところが、ホームにやってきたのは得体の知れない黒い列車。少年2人はその列車に乗り、どことも知れない地へ向かいます。児童文学のような出だしで、わくわくさせてくれます。

さて、今作はイラストや立ち絵が非常に独特です。水彩画風の彩色で、絵自体もとても上手いんですが、何と言いますか昭和の映画パンフレットに出て来そうな絵柄なのです。物語自体も、ちょっとノスタルジックな感じですし、全体から漂ってくるこの雰囲気は狙って出したものでしょう。旅情緒と昭和のノスタルジーが絶妙にマッチして、素晴らしいムードを出していると思います。

また、文章が良いですね。変に句点を多用した、その度に立ち止まらせるような文章ではなく、会話ばかりで途中で何がなんだか分からなくなる事もなく、すっと入ってきて、リズム感も感じさせる文章です。もともとは小説だったそうですが、なるほどと思わせるものがあります。

反面、物語の焦点が定まっていないのが気になるところです。途中まではヒロインの千夏を軸に物語が進むんですが、千夏の秘密が非常にこの手の物語では定番である上、後半からは千夏ではなく別の方向に物語がシフトしてしまうんですよ。そこから意外な事実などを挟んで物語は何だかずれて行き、最後には、「一体主人公は誰だったんだ?」と思ってしまう始末。ラストは、主人公であるはずの悠太の物語ではなくなっている気がするんですよね。いえ、悠太も確かに成長を見せる事は見せるんですけど。

そして、千夏をメインに物語を眺めると、鍵となる事柄(天狗岩の飛び込みだとか、兄弟との関わりとか)についての描写が弱いため、後半がフェードアウトしていった感じが強く、兄弟をメインに物語を眺めると、これまた鍵となる事柄が、うっすらと影のような形で出るだけなので、後半に唐突感が強いのです。意外な事は意外なんですが、謎が上手く噛み合わさった感じがせず、焦点がぼやけてしまっているのがちょっと惜しい感じがします。いっそどちらかにテーマを絞った方が、物語としては綺麗にまとまったのではないかと思いました。

しかし、ラストの演出は非常に綺麗です。イラスト、台詞回し、そしてフォントが相まって、「少年もの」ならではの盛り上がりを見せてくれます。「汽車が行く」という風景はそれだけで絵になるものですが、「汽車が行く」という場面自体が持つドラマ性を、最大限上手く生かしたラストです。また、途中に入る警笛のSEが非常に効果的でした(個人的にはやはり「電車」「警笛」というよりは、「汽車」「汽笛」の方が、旅情緒を感じる気がしますが)。

ただ、ラストは綺麗には違いないんですが、物語の締めとしてはすっきりしない点も残ります。ま、兄弟の今後に含みを持たせる終わり方で、あれはあれでありとは思いますが、無限夜行の存在意義(どうして存在するようになったのか)くらいは、簡単に描いた方が、世界観に深みが出たのではないでしょうか。

システムはLive Makerです。選択肢はなく、読了までは1時間半くらいでしょうか。夏を舞台にした作品を連続で紹介中ですが、その中でも際立った個性を放つ作品です。
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