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第208回/私の彼はフォアハンド - 乙女心と夏の空(九州壇氏)

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乙女心と夏の空

乙女心と夏の空準推薦
■制作者/九州壇氏(ダウンロード
■容量/75.0MB

大学生の夢野真理と菅野慎一は幼なじみの恋人同士。同じく幼なじみの大久保武や、クラスメイトの古賀ひとみ、仁草太と共に、楽しい日々を送っていた。しかしある日突然慎一が事故で意識不明の日々を過ごす事になる。揺れる乙女心をよそに、近づくテニスの大会。長編青春恋愛ノベル。

ここが○

  • 嫌みがなく生き生きとしたキャラクター。
  • 長さを感じさせないテンポの良さ。
  • リアリティのあるテニスの描写。

ここが×

  • 何だか唐突な後半。
  • 尻切れとんぼなラスト。
  • 一部キャラの扱いが中途半端で、全体を通しての統一感に乏しい。

■私の彼はフォアハンド

またもや夏が舞台の作品です。これだけ続くと何かの意図を感じますが、そんな事はありませんのでご安心ください(笑)。今回は「年末年始の恋模様」の作者さんの新作です。この作者さんの特徴として、「登場人物が良い人しかいない」事が挙げられます。私は、これは長所であると感じます。

というのも、キャラクターに1人悪人を入れると、それだけで物語が簡単に回せるようになるんですが(極論を言えば、キャラのやり取りだけでも回ってしまう)、キャラクターに悪人がいないと、物語展開自体の力以外に頼るものはなくなります。短編ならともかく、この作品はかなりの長編です。それでいて飽きずに読めるのですから、物語の展開とテンポの良さが、それに生き生きとしたキャラクターが上手に絡んで全体を構成していると思います。

舞台は大学ですが、この作品のメインテーマは、作者さんが書かれている通り「病院もの」です。しかし、もう1つ大きなウェイトを占める大学のテニスサークルの描写が、非常に良い息抜きになり、時にテニスの方が完全にメインになり、病院ものにありがちな重苦しさや物語の停滞感がありません。

この手の「意識不明のままいつまでも目覚めない」タイプの場合、何せいつまでも目覚めない相手を待つのですから、重苦しい上にいつまでも進まない感じの物語になりがちですが、この作品の場合、テニスサークルとその人間模様が非常に上手に効いていて、病院ものだけにすれば出て来てしまうデメリットを相殺しているのが、非常に上手い点です。

そのテニスの描写が、またそれっぽくて盛り上がります。私はテニスは詳しくないんですが、ほどよくリアルで描写も適度。端折り方も上手く、とても快適に読めます。「スターリーカラーズ」のバレーシーンもそうでしたが、作者さんがスポーツ経験者だとこういう場面の生命力と説得力が違いますね。描写の仕方だけでなく、「端折り方」が上手いというのが、やはり経験者の力だと思いました。

反面、色々盛り込んだ要素がラストに至っても上手く消化しきれず、イマイチ中途半端に終わってしまっている感は否定しきれません。たとえば、ひとみと仁の関係にももう一波乱欲しかった感じがしますし、同室の老人とももうちょっと踏み込んだ絡みがあればと思わされました。またラスト近くの展開は、一応伏線が途中に張られてはいるんですが、それまでの物語の展開からすると、いくら何でも唐突に過ぎると思います。そしてこれは個人的感想ですが、ラストで決着が着くシーンは、慎一のテニスの技術を使ってみたら綺麗だったんじゃないかな、と。

あと、終わり方があまりにぶつっと切れる感じで、読んでで「え!!」となってしまいました。ま、エピローグでちゃんと補完されますけど、後半からラストまでの展開に、あと一歩の丁寧さが欲しかったですね。中盤までは、病院ものの重苦しさを、軽妙なキャラクターのやり取りと、テニスサークルの盛り上がりで補って、長いながらも楽しく読める内容に仕上がっていましたので、そこが惜しまれます。

と、気になるところもあるんですが、今作の何よりの美点は、嫌みがなく生き生きしたキャラクターのやり取りと、バランスの良い展開で気持ちよくさくさくと読めるところ。全部読めば4時間弱かかる長編ですが、不思議なほどに読んでいる時は長さを感じないのです。この「長さを感じない」というのは、なかなか狙ってできる芸当ではありません。読み手に対しても、そして登場キャラに対しても「優しい」物語だなあというのが一番の印象でした。

ツールはNScripterです。選択肢はありません。立ち絵も何もない地味な作品ですが、この作品で4作目となる作者さんの着実な進歩が感じられ、次回作が楽しみになる内容です。しかし、私としては武にも何か報われるオチがついて欲しかった気が。登場時は「何だこいつ?」だったんですが、武って良い奴ですよね。キャラクターに感情移入しながら、楽しんで読める作品でした。
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