第227回/ただ一輪の愛の花 - 春椿(きりか) - 病院・闘病
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第227回/ただ一輪の愛の花 - 春椿(きりか)

病院・闘病
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春椿

春椿■制作者/きりか(公開終了)
■容量/50.2MB

死神であるテレンスは、ふとした事から人間界の病院を訪れた。そこで出会ったのは、癌を患って入院している女性、椿と出会う。椿に興味を持ったテレンスは、それから足しげく病院に通い続けるが。ちょっと変わった切り口が上々の余韻を生む、「不治の病もの」の短編ノベル。

ここが○

  • おなじみの設定と思いきや、中盤で見せる一風変わった切り口。
  • その切り口が生む、上質の余韻。
  • 美しいラスト。

ここが×

  • 世界観の説明が乏しく、説得力にイマイチ欠ける。
  • 恋愛に至る描写が中途半端。
  • 絵が未完成風味。

■ただ一輪の愛の花

2011年最初の作品です。初登場「Ren'py」なるツールで作られています。プレイした印象では、NScrや吉里吉里、Live Makerとプレイ感覚は大きく違わず、快適にプレイできます。このツールは、どうやらWindowsだけでなく、MacやLinuxにも対応しているマルチプラットフォームだそうで、制作者の選択肢が増えるのは、良い事ですね。

さて、この作品はいわゆる「不治の病もの」です。更に死者の魂を刈り取る死神も登場するため、有り体に言えば「どこかで見た感」満点の出だしとなっています。つい最近で言えば「明けない夜が来る前に」ですとか、あるいは「ゆりの印象」「Serenade」にも近いものを感じさせます。しかし、不治の病と死神って、実はありそうでなかったような取り合わせという気がします。過去の類似作でも、どちらかと言えば死神は「ある日突然死んだ、あるいは死ぬ運命となった」人と関わっていますから。その意味で、ありがちに見えて、なかなか細かく気の利いた組み合わせだと思います。

とは言え、不治の病ネタ自体は使い古されています。とっかかりこそ作りやすいテーマではあるんですが、結局のところ「不治の病を克服して、ハッピーエンド」か「克服できずに終わる」か、どちらかですから、物語作りの多様性という意味では、実は結構制限されるものがあります。が、この作品の場合は、中盤で今までの作品には見られなかった、一風変わった展開を持ち込んで、それまでの作品と印象を変える事に成功しています。

短い作品ですので、中盤の展開自体については言及しませんが、その中盤の展開が、序盤から繋がる意味のある展開で、更にその中盤が後半へ、更にテーマへときちんと繋がっており、短編作品としてはあまり類をみないほど、しっかりとした1本の幹が出来ています。物語の内容とテーマが密接に絡んでしっかりとした流れを作り、更にその流れが澱みすぎず急ぎすぎず、ちょうど良いバランスを保っています。作者さんは非常に良いストーリーテリングの感覚をお持ちだと思います。

ただ、この作品を恋愛ものとして見てしまうと(事実、恋愛要素も重要な一部分です)、ちょっと唐突感が否めません。ヒロインである椿と、主人公のテレンス(私はテレンスの方を主人公として取りましたが)がひかれ合う経過が、ちょっと急すぎて、途中で「あれっ?」と思ってしまうんですね。ま、そこを中盤からの展開が上手にカバーしているので、恋愛要素に過剰に目を向けないならば、さほど気にならない点とも言えますが。

もう1つ、世界観が若干特殊で、しかもあまり説明がないので、普通に読んでいるとちょっと置いて行かれ気味になります。どうやら、同じ作者さんの他作品と世界観を共通するところもあるようです。物語を楽しむ上では、この作品単体で何ら問題はありませんが。世界観に対して若干のフォローが欲しかったところです。その意味で、(恋愛要素に対する描写の問題も含め)短編と言うよりは、もうちょっと長めの尺で読んでみたかった作品です。

しかし、ラストの展開は美しいです。全体を貫く芯と合わせて、絶妙な余韻を残す事に成功しています。もちろん、ハッピーエンドではないんですが、絵になりそうな綺麗なラストシーンです。ラストまで読むと、一層「もうちょっと世界観を語って、そこを読者に受け入れられる形で提示して欲しかったな」と思ってしまうんですけど。

ちなみに、この作品では私が書いた曲を使っていただいています。「カレイドスコープ」のために作った曲ですね。自分の曲が、他の方の作品で流れているのを聴くと、感謝と共に、もっと精進しないといけないなあと思います。

選択肢はなく、プレイ時間は30分ほどです。ヒロインの椿に関してはフルボイスです。しゃべり自体は若干たどたどしい感じなんですが、ヒロインによく合った好演だと思います。声優さんは作者さんの妹さんなんだそうで、そこら辺の意思疎通が上手く行った結果ではないでしょうか。出尽くしたと思われる「病院もの、不治の病もの」ですが、新しい切り口の作品です。味わいながら読んでみてください。
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