第243回/笑顔の呪縛を解き放て - ヒツゼンセイ(八久斗) - 学園・青春
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第243回/笑顔の呪縛を解き放て - ヒツゼンセイ(八久斗)

学園・青春
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ヒツゼンセイ

ヒツゼンセイ準推薦
■制作者/八久斗(ダウンロード
■容量/24.5MB

榎本諒太郎は、緊張の面持ちで川畑百合花の前に座っていた。高校合格の当日、彼は百合花に告白しようとするのだ。そして百合花は拍子抜けするほどあっさりと告白を受け入れ、部活の後輩、口やかましい友人を巻き込んで、2人の高校生活が始まった。地味だがキャラクターが生きている学園ドラマ。

ここが○

  • 立ち絵はないが、キャラが生きている。
  • 読み応えのある文章。
  • 伏線がきちんと回収される、ラストの意外な展開。

ここが×

  • 改行が少なすぎて、読みにくい。
  • 人間関係よりも、事実描写に重きが置かれすぎている感あり。
  • 取り上げた要素が多すぎて、焦点がぼやけているところが。

■笑顔の呪縛を解き放て

今回は立ち絵がない作品です。立ち絵がない作品は、やはり文章に気合いが入っているものが多い気がします。この作品も、文章は大変読み応えがあり、描写も丁寧で、頭の中で容易に情景が思い浮かべられます。美麗な立ち絵や1枚絵のノベルゲームも楽しいものですが、こういう「巧みな文章を、音と効果音の演出で盛り上げる」というのも、またノベルゲームの立派な1つの楽しさだと思わされますね。

この作品は、出だしだけ見たらよくあるタイプの学園恋愛ノベルです。主人公の榎本諒太郎が、1学年後輩の百合花に告白するところから始まります。告白から物語が始まるというのも珍しいですが、最近では「ミギヒダリ~輪の中の詩」がありました。あちらは主人公が振られてしまうんですが、こっちは見事に告白成功で、そこから物語のスタートです。3月から始まり、1年に渡って続くので、なかなかの長丁場。

この諒太郎は、文芸部の部長です。文芸部は部員も少なく、そこらの奮闘ぶりも面白いのですが、後輩の尾崎の噂やら、ずばずば物を言う同級生の一穂(女子です)やらが絡んできて、物語は結構複雑に展開します。

一応途中までは、学校の教頭の息子である尾崎に、悪い噂が云々というのが中心で進み、そこに百合花との恋愛がほのかに絡むという感じですが、ちょっと的を絞りきれていないところがあります。尾崎の件については、事実が淡々と描写されるだけで、イマイチ彼の苦悩とか境遇が伝わってきません。なので、主人公が彼に肩入れする理由が読者にはあまり見えてこないのです(これについては、ちゃんと後で補完されますが、補完されるのが遅い気も)。

そして後半では、百合花との恋愛物語が中心になりますが、こちらも同様に事実の描写が多く、2人の距離感とか気持ちが、あまりプレイヤーと共有できないのが残念なところです。ラストでは、全ての原因というか謎がきっちり描写して、線が一本繋がるんですが、この物語にそういう推理小説のような作りが合っているかと言われれば、「うーん」と言わざるを得ません。百合花の秘密をラストで一気に出すよりは、もう少し序盤から前面に出してでも、主人公との関係を描いた方が私は良かったように感じます。

確かに、言われてから全体を眺めると、きちんと伏線が張られています。しかし、この作品の場合は、理詰めで伏線をちりばめるより、言動やシーンの描写を積み上げて、主人公たちの気持ちの移ろいを描き出した方が、1本の物語としては良かったという気がしなくもありません。また、肝心なところは最後の最後まで明かされなかったりして、「それを最後に持って来るのは、どうなのよ?」と言いたくなるところもありました。主題は尾崎君なのかそれとも百合花なのか、ポイントを絞った方が良かったようにも思えます。部活に百合花は全く絡んでこないですし(絡んでいたら、また印象が違ったかも知れません)。

なので、全体にちょっとテクニカルに捻りすぎている印象を受けました。この作者さんの力量なら、もっと普通に作れば凄い物語ができそうな気がするんですが。と、図らずも、直前にレビューした「悲しみに二つの祝福を」と同じような感想に(汗)。

しかし、立ち絵がないにも関わらず、キャラクター描写はとても巧みで、登場するキャラクターはどれも魅力的。キャラクターの息づかいが聴こえてくるような筆致は、見事の一語に尽きます。途中の生徒総会のシーンなども、イベントとしては地味なのに、緊迫感がありますね。

また、一度読み終えたら、オプションでヒント表示を選べるのが親切です。多分最初にプレイしたら、誰もが一番悲しい終り方になってしまうと思われますが(あのラストは衝撃的)、こうして誰もがハッピーエンドを見られる仕様になっているのは、嬉しい限り(ヒントを見ないと、難易度はかなり高いと思います)。ハッピーエンドで語られる「ヒツゼンセイ」というタイトルの意味にも、なるほどと思わされます。

全体に辛口な意見が多くなりましたが、物語としては高水準で、一風変わった濃密な学園ドラマが楽しめます。選択肢は結構ありますが、クリア後にはヒントが出ます。システムは吉里吉里、プレイ時間は3~4時間でエンディングは3つ。ほとんどの人が、救い様のないほど読後感の悪いエンドに最初に到達すると思いますが、ハッピーエンドは爽やかなので、ご安心ください(笑)。
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