第257回/深い闇に、響け朝焼けの謳 - 朝焼けの謳(Satis Factory) - シリアス・感動系
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第257回/深い闇に、響け朝焼けの謳 - 朝焼けの謳(Satis Factory)

シリアス・感動系
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朝焼けの謳

朝焼けの謳推薦
■制作者/Satis Factory(ダウンロード
■容量/130MB

鉛色の空には全く希望が見えない、人呼んで「鉛街」。夢も希望もない鉛街に、主人公式守は、豪雨に打たれてやって来た。雨宿りすべく、通称「お化けビル」と呼ばれる、荒れ果てたビルに忍び込むが、そこには2人の先客がいた。厳しい逆境の中で、それでも強く生きる3人の物語。

ここが○

  • 主人公とヒロインの主張のぶつかり合いが見物。
  • ほとんど閉鎖空間で展開するのに、退屈させないシナリオ。
  • 強いテーマ性が、決してくどくない。

ここが×

  • 「鉛街」という舞台の特質が、イマイチ伝わってこない描写。
  • 統一感がない気がするヒロインの性格。
  • 全体を通してみると、どことなく消化不良感は否めない。

■深い闇に、響け朝焼けの謳

フリーのノベルゲームを8年近くもプレイしていると、だいたいよく出る舞台というのは決まっています。季節なら夏ですし、舞台は学園が一番多いですね。しかしこの作品は変わっています。舞台も変わっていれば、設定も風変わり。そして主人公はホームレスです。

主人公がホームレスというと、名作「Homeless, the Vagabond」がありましたが、あちらは、テーマ性を前面に出しつつホームレスならではの奔放さを強く感じさせ、「こんな放浪生活なら面白そう」とも思わせましたが、この作品はかなり雰囲気が違います。何せ、舞台となる「お化けビル」から、主人公はほとんど全く出る事がなく、物語は終始このビルの中で進みますから。

しかし凄い事に、ほとんど舞台はビルの中なのに、読んでいて退屈するという事がありませんでした。舞台はビルの中で、登場人物も3人しかいません。なので、ほとんどが主人公達のやり取りで進みます。なのに、物語が停滞する事もなく、退屈する事もない。これは特筆すべき点です。

特に見物なのは、中盤辺りでの主人公とヒロインのやり合いです。灯のために篠芽が豪華な食事を調達して来るところとか、篠芽が体調不良で起きて来れなくなるところ。あの辺は、非常に緊迫感があります。主人公式守と篠芽のダイレクトな主張がぶつかり合うんですが、それまでの言動の積み重ねもあって、お互いの言動が「嘘っぽく」なっていない辺りがさすがです。

また、全体を通して非常にテーマ性が強い作品ではありますが、物語としても上手に波を作って「見せる」展開をしているため、テーマ性を強く訴えつつも、物語としての起伏も失っていません。楽しく読めて、しかも読後にはずっしりとしたテーマが残る。この作者さんは、物語というものをかなり書き慣れているように見えます。

難点と言いますか……。舞台がほとんどビルの中で、かなり特異な環境であるはずの「鉛街」の特異性が、ほとんど伝わって来ないんですよね。感じとしては近未来日本風なんですが、近未来な感じも、鉛街の荒廃した感じも、あまり感じられないのです。これは作品全体の作りを考えればしょうがないとも言えますが。

もう1つ。篠芽の夢ですとか、あるいは灯と篠芽の関係に対する言及が、前半にはほとんどないので、ちょっと後半に取ってつけた感があります。また、通してみると、篠芽が夢を実現した訳でもなく、主人公が過去から解放された訳でもなく(それはラストの描写から想像してくださいって事なんでしょうけど)、訴えて来るテーマ性の強さに反して、言うなれば「出来事としては特に何も起こってない」ので、そういう意味での消化不良感は否定できません。

もっとも、徹頭徹尾キャラクターの主張のぶつかり合いで1本の物語にしたという、それが驚くべき事ですし、「展開的な伏線」(灯が持っている液晶テレビとか、式守の部活の話とか)はしっかり張られていて、それがラストの一番盛り上がるところで、きっちり回収される作りは、お見事でした。

上にも書いた通り、登場キャラは3人ですが、篠芽と灯(この作品、全員キャラ名が凄く分かりにくい。レビュー書く時「名前何だっけ……」と改めて確認した作品は久々です(苦笑))は、フルボイスです。それぞれのキャラクターの性格が出ていて、好演だと思います。そのヒロインですが、ちょっと性格に統一感がない感じがしたのが気になりました。まあ、彼女の過去とか、あの状況で生きて行っている現状を考えれば、ああいう性格もあり、なのかも知れません。

システムは吉里吉里で、プレイ時間は4時間強。選択肢はありません。作者さんは「2~3時間」と書いていますが、絶対にそんな時間で読む事は不可能です。そりゃ、台詞もろくに聴かず、どんどんぶっ飛ばして読めば可能かも知れませんが、そういう読み方は作者さんとしても不本意ですよね(笑)。

ともかく、登場キャラクターのやり取りだけで4時間を退屈させず、きちんと流れを作り、ラストも盛り上げて終る、見事な作りの作品です。強いテーマ性がくどくなく、ラストに希望を感じる終り方も満足でした。評価はかなり迷いましたが、キャラクターのやり取りの見事さに敬意を表して「推薦」。キャラクターのやり取りを楽しみたい方にも、メッセージ性が強い作品がお好きな方にも、お勧めです。
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