第305回/公園発、僕の自由へ - ブランコ日和(Tears Lab.) - 日常
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第305回/公園発、僕の自由へ - ブランコ日和(Tears Lab.)

日常
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ブランコ日和

ブランコ日和■制作者/Tears Lab.(ダウンロード
■容量/39.5MB

中学生の瑛二は、ある朝学校をサボって公園でブランコを漕いでいた。そこに現れたのは、20代くらいの長身の男性、足立。スーツ姿の彼は仕事をサボったと言う。瑛二はやがて足立と、想いを寄せていた女の子の住む町へ足を運ぶ事に。やわらかな雰囲気が「これぞ手作り」感を感じさせる短編ノベル。

ここが○

  • どぎつくなく、良い意味でこれぞ手作りと言える雰囲気。
  • 足立の、しつこくない優しさと、瑛二の初々しさが上手く噛み合っている。
  • さりげない描写にセンスが光る。

ここが×

  • 終盤の展開はどうも消化不良。
  • 演出面含めて、色気には乏しい感じ。
  • 余韻には欠ける感のあるラスト。

■公園発、僕の自由へ

私は、時折「見た目は凄く地味だけど、捨てきれない味がある短編」を読みたくなります。ごく最近ですと「僕らのピーマン」、ちょっと古いところだと「手紙」と言ったあたり。フリーのノベルゲームの楽しみの1つは、こういう「作者さんの思いを生のまま差し出してくれるような、手作り感のある作品」に触れられる事だと、私は思っているのです。美麗な立ち絵とかムービーがついた作品も、それはそれで楽しいですが。

この作品の主人公と言いますか、語り手は中学1年生です。子供と言っていい年齢ですが、アクがない一人称の文体は素直に読めますし、相方の足立とのやり取りも軽妙。足立が瑛二に色々語るシーンがあるんですが、押しつけがましさがなく、さりとて無責任さもなく、また瑛二の反応がとても良いのです。個性的でかつ抑制がきいたこういうやり取りは、なかなか書けるものではありません。

ブランコ日和さて、この作品は中学生の瑛二が、想いを告げられなかったまま転校してしまったクラスメイトの女の子(この子の名前が「灯」(あかり)。最近「あかり」だらけですね……)に、公園でたまたま出会った男性と会いに行く、という出だしで始まります。これだけ読むと何だか荒唐無稽のように感じますが、そう思わせないためのさりげないリアリティの出し方が上手いですね。会社や学校に電話するくだりなど、ストーリー進行上はなくても問題ないのですが、あの辺りで一見無謀に思える冒頭の計画に現実味を与える事に成功しています。

その、「一見無謀なんだけど妙に現実味がある」展開に、主人公2人の絡みが上手く溶け込んでおり、非常に独特の世界観と言いましょうか、空気感を感じさせてくれる物語でした。私が「街角ノベル」と表現した「さくらミント」の作風に、ちょっと通じるところを感じます。中盤での何気ない日常描写と、そこでの2人のやり取りに、とてもセンスを感じるのです。

物語としては、成長譚に分類できるでしょう。中盤で足立が瑛二に問いかけるあたりは、なかなか深いです。短編ながら良いプロットだと思います。このテーマを元に、中編以上に話をふくらませてみても面白いんじゃないかと思わせられました。

ただ、ラストがどうも消化不良というか、消化不良と蛇足がいっぺんに来た感じと言いますか。話の主眼としては成長物語ですからあれはあれでありかなとも思うんですが、せっかく「想いを寄せていた女の子に会いに行く」という、物語を引っ張るには最適な核があったのですから、ラストもそれを使ってエンターテインメント的にひと捻りが欲しかったように思います。作者さんとしてはあのラストこそが描きたかったのかも知れませんが、途中までひきこまれていただけに、「ありゃ?」となってしまった事も事実です。なので、ちょっとラストの余韻に欠ける気がするんですよね。

1枚絵や立ち絵はなく、それでいてテキストウィンドウは下だけに表示され、名前表示欄もある、いわゆる典型的な「ノベルタイプ」ですので、ちょっと見た目寂しい印象があるのは否めません。演出面でも少し地味ですし。しかし、物語全体のイメージとは逆にマッチしている気もしますし、手書きフォントの採用もプラスに働いていたようにも感じますし、これはこれでこの作品の味かも知れませんね。

私はどちらかと言うとエンターテインメント性が高い物語の方が好きなので、ラストにちょっと納得行かないものを感じたんですが(せめてあの後どうなったかくらいは言及があっても良かったような)、ある意味綺麗で後をひかない終わり方であるとも言えますし、恋愛方向へ持って行くより、かえって主人公2人の交流と成長を感じさせる物語になっているのですから、この終わり方もありでしょう。クラスメイトの女の子は、今作の主目的ではなく、あくまで「手段」な訳ですしね。

システムはNScripterで、選択肢はありません。プレイ時間は30分前後でしょう。娯楽大作もいいですが、時には、こういう読み手に色々と想像の余地を残す物語を読むと、心の清涼剤になると思います。
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