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第321回/二度とその手を離さないで - あの夏祭りで誰が死ぬ?(河童ボーナス)

不思議系
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あの夏祭りで誰が死ぬ?

あの夏祭りで誰が死ぬ?準推薦
■制作者/河童ボーナス(ダウンロード
■容量/3.24MB

真由美と翔太の姉弟は、2人で夏祭りにやって来ていた。今日は真由美が翔太に好きな物を買ってあげようというのだ。しかし花火が始まった時、真由美が手を離してしまったために翔太は殺されてしまった。後悔する真由美の前に現れたのは、何と死神だった。内容の濃い短編作品。

ここが○

  • 短いにも関わらず流れと波がある展開。
  • 驚かされるどんでん返し。
  • お見事なラスト。

ここが×

  • 音楽がほとんどないので寂しい。
  • 演出が素っ気ない。
  • 時々画面が文字で埋まって読みにくい。

■二度とその手を離さないで

最近は、新しい作品と古い作品を交互に探しているような状態ですが、これは少し古めの作品。フリーノベルゲーム界だと、3年前でも「ちょっと古い作品」になってしまいますが、これは2007年公開ですから6年前。古くて地味な作品で、ついでにタイトルがちょっとおっかないために、ホラーが苦手な私は見落としていましたが、これは濃厚な読後感を味わえる作品です。スクリーンショットはホラーっぽいですが、全然ホラーではありません(笑)。

冒頭は、夏祭りに行く小学生の姉弟の描写から始まります。貧しいながらも仲が良さそうな年子の2人という、ごくありきたりの風景だなあと思っていたら、なんと開始1分で超展開。弟が何者かに殺され、いきなり数年後に場面は飛んでしまうのです(えええ??)。

あの夏祭りで誰が死ぬ?そして突然死神が現れて、とんでもない事を言い出します。ここからは少しどろどろとした展開も見せるので、「これは大変なオチがついてしまうのではないか」と思っていたんですが、さにあらず。たった1枚のイラストで全ての不幸が払拭される素晴らしいラストがついていて、感心しました。

短編作品というのは、得てして物語というよりは、単なる「エピソード描写」「場面描写」に終わってしまう危険性があります。それはそれで、台詞の演出などを丁寧にやれば、それなりに楽しめる一作にはなり得ますが、しかし短編で「物語」として満足できるシナリオの作品というのは、なかなか出会えるものではありません。

しかしこの作品は、わずかなプレイ時間で、ちゃんと波のある展開も見せます。人間関係のちょっとどろどろした面も描いてみせますし、葛藤も見せてくれます。サスペンスチックな意外な展開も見せてくれますし、また、伏線というほどではないにせよ、些細な描写が繋がる瞬間が上手く作られているのが見事です。こういうところをきちんとやらないと、長編でも読み疲れするだけの作品になってしまいます。その意味で本作は、読後の充実感は長編にもおさおさ劣るものではありません。

それはひとえに、短編であってもしっかりとしたプロットを組み立て、そのプロットがラストできちんと収束するような作りのシナリオになっているからでしょう。そこに、キャラクター同士の思惑、葛藤などが絡んで、非常に濃厚な感覚を味わわせてくれる作品となっているのです。簡潔にして丁寧な文章力が、それを大いにサポートしています。特に、高校生の2人のいがみ合いと、中学生の2人の後悔と思いやりが、だんだん重なって行く描写は、一番の見所ですね。

レイアウトは、極端に背景を縦に長く切り落とし、テキスト表示スペースを大きく取った独特の手法です。通常背景を縦に切ると少々圧迫感を感じてしまうものなのですが、この作品の場合はその圧迫感が逆に読み手に対する適度な緊張感を与えてくれて、良い効果を生んでいると思います。

ただ、ちょっと改行が少なく、文字が多すぎて読みにくいと感じる場面もありました。改行ペースを増やさなくても、改行ピッチを広く取るとかなり印象が違った気がします(こういう作品を読むと「?」や「!」の後にはスペースを空けるのは、決まりだからというよりも、読み易いからそうした方がいいというのが、よく分かります)。途中で音楽がほとんどなかったり、演出がかなり素っ気ないのも、少し寂しい感じ。

しかしシナリオの作りは文句なく見事で、短編作はこう作れというお手本のような作品です。システムはNScripter。プレイ時間は20分で、選択肢はありません。立ち絵もなく音楽もほとんどないという、非常に地味な作品ですが、これを見落とすのはもったいないと思わせてくれる一作でした。
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