第329回/落下するように加速せよ - ソラニオチル。(一夢小路) - 学園・青春
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第329回/落下するように加速せよ - ソラニオチル。(一夢小路)

学園・青春
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ソラニオチル。

ソラニオチル。■制作者/一夢小路(公開終了)
■容量/36.2MB

何事にも関心が持てなかった中二の橘姫乃は、友人に誘われて見に行った陸上競技会で、ある選手に目を奪われた。その先輩を追いかけて同じ高校に入り、陸上部にまで入ってしまった姫乃だったが。いわゆる「百合もの」だが、緊張感のある展開が妙に熱い青春ノベル。

ここが○

  • 主人公が思想的に成長していく様子。
  • 他のキャラもしっかりした立ち位置で主人公を支える。
  • 高い文章力と、緊張感のある描写。

ここが×

  • ラストがどうにも締まらない。
  • そのため余韻もへったくれもない。
  • なので百合要素は蛇足であったように感じる。

■落下するように加速せよ

いわゆる「百合もの」って、私はイマイチ苦手で、私が取り上げた中ではこういう系統の作品は「夏の日のレザナンス」くらいなのですが、こちらは「百合もの」という第一印象だけで読むと、その硬派な作りに驚かされる事になるでしょう。実はかなりしっかりした青春学園ノベルなのです。立ち絵のない作品は久々ですね。

序盤の主人公は、中学生の癖して何事にも飽き飽きしていてやる気が持てないという、まさに絵に描いたような「中二病」(実際中二だし(笑))。そんな彼女が、ある日友人に無理やり連れて行かれた陸上競技会で、100m走に出場していた天縫葉華(ここ最近プレイした作品の中では、難読キャラ名ランキングトップレベル(苦笑))という高校生ランナーの走りを見た瞬間に彼女に魅了され、彼女を追いかけて同じ高校の陸上部にまで入ってしまう、という展開。ここだけ見たら、中二病全開というイメージを持っても不思議ではありません。

ソラニオチル。しかし、序盤では典型的な中二病だった主人公の姫乃が、陸上競技に打ち込む事で、だんだん成長して行く様子を丁寧な筆致で描いており、読んでいる側も段々姫乃を応援したい気持ちになってきます。「頑張る主人公に感情移入させる」という描写、展開が見事だと思います。

そして、姫乃はある日葉華に告白し(!?)、付き合う条件として100mで自分に勝つことと言われてしまいました。期間は1週間。そこからの描写がまた緊張感がありますし、必死に練習に打ち込む姫乃や、彼女を陰で支える陸上部員や顧問の先生など、脇を固めるキャラクターもとても魅力的です。立ち絵がないのですが、文章による描写がそれを補って余りあります。

その緊張感を保ったまま、ラストの対決のシーンを迎えるのですが、ここも見事な描写でテンポ感もあり、作者さんの筆力の高さを感じさせます。勝負の幕切れの描き方、そこでの台詞のやり取りも印象的で、ここまでは準推薦で間違いないと思っていました。

……が、それまでの緊張感と比べて、どうにもオチが締まらないのです。それはひとえに、ラストまでは隠し味のように使っていた「百合」要素が、いきなりメインに出て来てしまったからではないかと思われます。しかも描写までもが何だか甘ったるくなってしまったため、せっかくの勝負の余韻が吹っ飛んでしまい、それまでの緊張感ある描写の印象までもが薄れてしまう結果に(汗)。一言で言えば「女同士とは言え恋愛をメインの描写にしてしまっているのに、「そこまでに(特に葉華側からの)恋愛関連の描写が皆無」であるから、そういう印象になったのではないでしょうか。

もちろん、このシナリオにおいて主人公を男性にしてしまったりなんかしたら、それでは物語になりませんが、男女の恋愛ものでも、「恋愛に至る過程」が描写されていないと説得力を欠くんですし、他に何かやりようはなかったものでしょうか。百合ものではない、普通の先輩と後輩の関係でも、十分物語は作れた気がしますし、そうであったならラストはもっと別の形になったはずです。せっかく終わる間際までは見事だったのに、着地で肩すかしを食らってしまった印象です。これなら、勝負の直後で終わっていた方が、良かったような気がしなくもありません。

とは言え、そこまでの展開やキャラクターメイキング、文章力は見事で、青春ものとして見れば読み応えは十分です。「ソラニオチル。」というタイトルの意味もラストで分かるのですが、なるほどと思わされました。

ツールは吉里吉里で、プレイ時間は1時間程度。選択肢はありません。確かにラストはどうかなと思いますが、百合ものに抵抗感がある方でも、先入観なしに読んでみたら、青春ものとして楽しめる物語だと思います。
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