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第332回/青い水面は鏡のように - 喉の渇くその前に(現屋)

不思議系
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喉の渇くその前に

喉の渇くその前に■制作者/現屋(ダウンロード
■容量/59.5MB

乃木貴明は、仕事に疲れ恋に破れ、人生の全てに疲れ果てて、見知らぬ街のビルの屋上から飛び降りた。しかし、死んだはずの彼に声をかける者がいた。イノと名乗るその人物は、死後の世界の番人だと自称する。不思議な世界で、貴明とイノの繰り広げる一時の夢物語。

ここが○

  • 美しく雰囲気上々のグラフィックス。
  • 心情がよく伝わって来る描写。
  • 思わず考え込まずにはいられないラスト。

ここが×

  • 言い回しや描写が難解で晦渋。
  • 思い込みが激し過ぎる気がする主人公。
  • なんだかすっきりしない感があるラスト。

■青い水面は鏡のように

今回は短編作です。この作品は、読者さんのお勧めを受けてふりーむでダウンロードして来たものなのですが、スクリーンショットだけ見ると、ファンタジー風の物語にも見えます。実際ファンタジー風と言えばそう言えるかも知れませんが、始まりはごく普通の現代物語。主人公が人生に絶望して、ビルの屋上から身を投げる、というところから始まるという、なかなか目をひく出だしです。最初に主人公が死んでしまう物語と言えば、「明けない夜が来る前に」がありますが、この作品はああいうファンタジー全開なお話ではなく、哲学的で、「明けない夜」にあったような切なさのようなものは、あまりありません。

そしてこの作品、死後の世界で主人公が「番人」イノに起こされるところから物語がスタートするのですが(この辺も「明けない夜」と同じですね)、この作品は最初から最後まで、ほとんどイノがいる死後の世界で、主人公とイノの会話だけで進みます。時折主人公の回想シーンも入るのですが、全体の分量からすればわずかなものです。この手の作品では、えてして回想シーンがやたら長かったりするのですが、回想を必要最小限に抑えているのは、好印象です。

喉の渇くその前にこの主人公が、年齢の割にえらく思い込みが激しく、何だか彼の人生は自分で墓穴を掘っているように見えなくもないのですが(汗)、そこを番人であるイノが上手く誘導する会話や、主人公の心情が徐々にほどけて行く様子の描写は、とても見事なものです。また、「思い込みが激しい」という主人公の性格を逆手にとったというか、上手く利用した展開にも唸らされます。

ただ、文章全般というか、言い回しその他がちょっと難解で回りくどいきらいがあります(文章力自体はとても高いとは思うのですが)。一人称であれば、もう少し描写は切り詰めた方が、この作品の作風にもあったのではないか、という気がしなくもありません。

それと、この物語はどちらかというと、プレイヤーが自ら色々と想像しないと、細かいところが分かりません。読み終えてタイトルに戻るとエピローグが読めるのですが、そのエピローグでも肝心なところは描写されずに終わってしまうので、人によっては読み終えた後、何とももやもやしたものが残ってしまうかも知れません。「それで結局どうなったのよ!?」という感じなのです。なので、若干読む人を選ぶ物語かも知れませんね。「読者に想像させるタイプの物語」が好きな人にはいいでしょう。

しかし、主人公とイノの会話と心情描写のみで、短い時間を「忘れ難い想い出の一時」(登場人物にとって)として成立させた手腕はさすがだなあと思わされました。言い回しはくどいと書きましたが、会話はくどくなく、量も適度で、この手の会話主体の物語にはありがちな、どうでもいい会話で時間が浪費されたりもしません。イノが時折見せるお茶目なところとか、聡明なところとか、主人公をもてあそぶところとか、そういうところが楽しいです。難しいところもあるお話ですが、単純に主人公とイノのやり取りを見るだけでも楽しめるはずです。

ところで、この作品はBGMに時折「ゆりかごの歌」が使われています。有名な子守唄ですが、これの使いどころが絶妙で非常に効果的でした。タイトルロゴもセンス抜群ですし、グラフィックスも雰囲気抜群で素晴らしいです。その反面、スタートしてすぐに吉里吉里のロゴがそのまま出て来るのには、思わずずっこけてしまいましたが(笑)、それは置いておくとしても、全体にとてもハイセンスでお洒落です。

ツールは吉里吉里で、選択肢はなく、プレイ時間は45分~1時間弱でしょう。この内容で長さが倍だったら疲れていたかも知れませんが、短編ですから、難し目の内容であっても「美味しいところだけ味わって読める」作品です。紅茶でも飲みながらお気軽に味わってみてください。
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