第337回/見上げればそこに君がいる - ポックリが鳴った夏(ヒビキソラ) - シリアス・感動系
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第337回/見上げればそこに君がいる - ポックリが鳴った夏(ヒビキソラ)

シリアス・感動系
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ポックリが鳴った夏

ポックリが鳴った夏推薦
■制作者/ヒビキソラ(ダウンロード
■容量/63.0MB

涼は、社会人になって3年。営業成績も上がらず、上司に怒鳴られる毎日だった。そんな毎日に疲れた涼は、盆休みに数年ぶりに帰省する。あの頃と何も変わっていない故郷で、涼が思い出すのは幼なじみの少女の事だった。涼は彼女に会いに行こうと決心するが。目の奥が熱くなる感動短編ノベル。

ここが○

  • ギミックの1つ1つに全てストーリー的な意味がある。
  • 回想シーンやミスリードを使った作りの上手さ。
  • 夏の故郷のノスタルジーとぴったりマッチした物語。

ここが×

  • 秋子と仲が良かった頃の描写がもう少しあっても良かったような。
  • ミスリードに関しては、雰囲気で何となく察知できてしまう。
  • これが完全オリジナルなら言う事なしだった。

■見上げればそこに君がいる

元日の「ななこい」以来、今年2本目の推薦作のご紹介です。私は、出せるものならどんどん推薦を出したいと思っているので、それに相応しい作品に出会えると、大変嬉しい気持ちになります。「SOLAR POWER」の作者さんの新作ですが、前作で感じた長所に更に磨きがかかった印象です。タイトル画面の演出などにも、進化の跡が感じられますね。

この作品は、フリーのノベルゲームでは大変多い「夏に帰省」ものです。「君と再会した日」に近い雰囲気ですね。この作品は同窓会で帰省する訳ではないですが、主人公が社会人であるところとか、年齢設定とか、15年ぶりであるところとか、駅に下り立つところとか、かなり共通したイメージがあります。

ポックリが鳴った夏さて、今作は主人公が毎日の仕事に疲れ果て、母親からの電話でふと小学校の頃を、そして幼馴染みの女の子の事を思い出し、数年ぶりに帰省するという出だしです。この手の作品の出だしとしてはよくある展開ですが、現実の辛さから逃避した主人公と、夏の田舎の雰囲気とノスタルジーが不思議にマッチしています。

今作が見事なのは、作品内の「何かあるなと思わせる設定」(私はギミックと呼んでいます)が、すべてきちんとシナリオに絡み、しかもそれぞれのギミック同士がちゃんと関係しあっている事です。例えば主人公の、背が低い事に対するコンプレックスとか、夏祭りとか、ポックリとか、ハンカチとか、「蹴り」のトラウマとか、秋子の過去に至るまで、こういう設定やアイテムの活用の仕方が大変上手いのです。全部のギミックがしっかり絡んで、ラストに全部解決するので、短編ではありますが比類のない読後感を生み出しています。

しかも、単にギミック同士が絡んでいるだけでなく、それらがシナリオ上で非常に大きな意味を持っているのです。何の意味もない伏線は、この作品には登場しません。「登場した時には何気なく読んでいたら、あとで大きな意味があると分かった」という、理想的な使い方です。伏線が「謎を隠すため」という単なる「目的」になってしまうと、下手をすると作者の自己満足で終わる危険性もあるのですが、そうではなく、「ストーリーを組み立てる」という「手段」として使われており、またその使い方が上手いんですよね。

また、ミスリードや回想の使い方も絶妙です。前作ではミスリードがちょっと蛇足っぽく思えなくもなかったのですが、今回はちゃんとミスリードにストーリー的な意味があります。もっとも、注意して読んでいれば、雰囲気などで察知できてしまうと言えばそれまでなのですが(汗)。しかし、ミスリードと回想の組み方のバランスは良好で、これが全体のテンポの良さに一役買っています。

キャラクターは、主人公である涼と幼馴染みの秋子の他はそう多くありません。しかし、小学校時代の同級生とか、お母さんたちとか、さりげなく脇を固めるキャラクターも魅力的です。個人的には、秋子に会いに行く決心がつかない涼を後押しする小学校時代の友人の、「行動しなかったら"後悔"はできるけど、"反省"はできないぞ!」という一言が心に残りました。こういう台詞はともすれば押し付けがましくなりがちなんですが、このキャラクターの性格と現在の立場が絶妙にマッチして、すっと入って来ます。

ちなみにこの作品のシナリオには元ネタがあるそうです。2chのオカルト板のとあるスレッドが元らしく、読了したら原案も読む事ができます。シナリオが完全オリジナルなら言う事なしだったんですが(笑)、原案を読んでみると、作者さんがノベルゲームにアレンジするに当たって、色々と工夫をした事が分かり、興味深いです。

個人的には、涼と秋子が仲が良かった頃の描写がもっとあれば良かったかなあと感じたのと、転機になった後半の大きな回想イベントに、もうちょっとボリュームがあればな、と思いました。あそこはもっと引っ張ってもいい箇所だったのでは、と。しかし、シナリオを構成する全ての要素と、キャラクターと、全体の雰囲気の全ての相乗作用で、目の奥が熱くなるような感動を味わわせてくれます。

ツールは吉里吉里。選択肢はなくプレイ時間は40分くらいです。読了すると原案が読めたり後書きが読めたりします。エンディングムービーと歌もすごく雰囲気が良くて、大変素敵な読後感の作品。是非プレイしてみてください。
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