第369回/夜から朝へのハーモニー - ハルモニカの夜(Sous le Paulownia) - 日常
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第369回/夜から朝へのハーモニー - ハルモニカの夜(Sous le Paulownia)

日常
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ハルモニカの夜

ハルモニカの夜準推薦
■制作者/Sous le Paulownia(ダウンロード
■容量/55.0MB

月が姿をまったく隠す新月の夜、少年は真夜中に家を抜け出す。3階建ての廃ビルの屋上で、ハーモニカを吹くのだ。その日も彼は屋上でハーモニカを吹いていたが、どこからか声が聞こえてきた。「夜」の雰囲気が何とも言えない短編ノベル。

ここが○

  • 夜の静けさから朝の明るさへ移り変わる雰囲気。
  • デザインセンスが秀逸。
  • 凝った演出がムードを盛り上げる。

ここが×

  • 物語として読んだ場合は、物足りなさを拭えない。
  • 演出はちょっとしつこい気もする。
  • フォントの関係か、縦書きが少々読みにくい。

■夜から朝へのハーモニー

私は、ノベルゲームというのはあくまで文章が主体だと考えていますから、立ち絵の有無とか、あるいは演出がどうとかで評価を左右したりは、基本的にはしません(もちろん、「演出が優れている」というのは作品の大きな長所になり得ますが)。しかし、この作品くらい演出が凝っていると、脱帽せざるを得ません。

というのも、この作品は夜の廃ビルの屋上が舞台なんですが、夜の雰囲気を出すのに、演出が非常に重要なパートを担っているのです。背景の加工センス、色使いもお見事です。この作品は見ての通りのワイド画面ですが、ワイドを生かした背景スクロールを見せてくれまして、これが効果的です。私は常日頃から「ノベルゲームにはワイド画面は向いてない」と、ワイドの作品には否定的な見解を持っていますが、こういう演出ならワイドもありだな、と感じました。

ハルモニカの夜また、中盤から別のキャラクターが現れて、そのキャラとの会話形式になるんですが、その会話の時の文章表示形式が面白いです。光が明滅する背景表現も、よく作ったものだなと感心すると同時に、「夜から朝へ」という全体の流れを作るのに一役買っています。このスクリーンショットは中盤の一シーンですが、このシーンでは光がきらきら動くのです。大変印象的な場面です。

元々朗読劇として作られた作品をノベルゲーム化したそうなのですが、物語として見た場合は、正直内容は薄いです。主人公が廃ビルへ行く理由も語られませんし、中盤で登場する「もう1人」についても、エピローグでちょろっとその正体が示唆される程度です。短編でも凝った作りの物語がありますから、そういう物語を期待してこの作品をプレイすると、恐らく肩すかしを食わされてしまうでしょう。

しかし、背景や文章による演出だけで、「夢のようなひととき」を提供してくれるという意味では、希有な作品だと思います。この作品には立ち絵もありませんが(主人公を「少年」と書いているのは、タイトル画面のイラストから想像しました)、こういう作品を見ると、背景画像とか演出の力を思い知らされますね。

さて、この作品は文章が縦書きです。文章力も高く、描写も凝っています。その凝った描写に、中盤からは更に凝った表示方法も加わる訳で、若干のくどさを感じなくもないのですが(汗)、凝った演出を盛り込みつつ、土台を支えているのやはり文章なんですよね。だから読み手に確かな満足感を持たせてくれるのだと思います。文章は確かに、ところどころちょっと捻り過ぎている印象もあるんですが、一文一文がそれほど長くないため、分かりにくくはなっていません。

ただ、フォントが縦書き向きじゃないのか、ちょっと読み辛いです。ま、短い物語ですから「まあいっか」と思える範囲内ではありますが。縦書き自体は、高い文章力や演出とも合わせて、「動く小説」を感じさせてくれて効果的だと思います。アニメ風を目指すのではなく、文章を基礎としたノベルゲームを、高いレベルで発展させた1つの進化形とも感じさせてくれます。

そして、中盤までの演出が効いて、夜から朝に移り変わるラストが大変綺麗です。それこそ、朝の光の眩しさすら味わわせてくれるラストには感心しました。ラストまで読んだからと言って、「物語を読んだ」という満足感は薄いですが、「いい一時を過ごせた」と、別の意味で満足させてくれます。

ツールは「Artemis Engine」。スマートフォンでもプレイできるというのが売りのようです。プレイ時間は15分ほどで、選択肢はありません。物語の面白さで読み手をひき込むのは王道ですが、「演出で読み手を別世界へ連れて行ってくれる」という手法の可能性を感じさせてくれる短編作品です。眠れぬ夜の一時にでも、お気軽にどうぞ。
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