第391回/神の全能より人間の希望を - ヤミクイウサギ(TRY Project) - 不思議系
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第391回/神の全能より人間の希望を - ヤミクイウサギ(TRY Project)

不思議系
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ヤミクイウサギ

ヤミクイウサギ■制作者/TRY Project(ダウンロード
■ジャンル/少年少女架空疾患翻弄ノベル
■プレイ時間/40分

中学二年生の一夏は、「ヤミクイ」という病気に冒され、ありもしない影に怯える毎日だった。そんな彼の前に現れた少女ウサギは、ヤミクイを食べる事ができるという。ウサギのお陰で平穏を取り戻した一夏とウサギの、楽しくも儚い日々が幕を開ける。見事な構成で、ラストが余韻を引く短編ノベル。

ここが○

  • 短いながらもしっかりした伏線と美しいラスト。
  • 起承転結の構成がバランスよくしっかりしている。
  • 魅力的な3人のキャラクター。

ここが×

  • 強制フルスクリーンはちょっと。
  • 「大事な人」を印象付けるには、話がちょっと短い。
  • なのでせっかくの余韻が長続きしない。

■神の全能より人間の希望を

今回は「ヤミクイウサギ」をご紹介。休日以外では長編をプレイする時間を取れない今の私には、ちょうどいい長さの作品です。この作品は、「ヤミツキ」という架空の疾患が登場します。「透明な優しさ」の「AMAGES」とか、「さよなら眠り姫」の「逃眠病」、「ユーマを抱きしめて」の「UHMA」を思い起こさせます。

この手の架空疾患を取り上げる場合、病院ものにしたりして、あまり病気の描写を詳しくしてしまうと、逆に現実味がなくなって興を削がれる事もあるのですが、今回は思い切ってそういう方面の描写はまるでカットしており、病気の症状の怖さと不思議な雰囲気だけを抽出しています。このやり方は、正解だと思います。

ヤミクイウサギさて、この作品でまず感心させられたのは、構成の良さです。物語は起承転結の4パートに分けられ、それぞれのパートを読み終わると一度タイトルに戻り、次のパートが読めるようになるという仕組み。各パートは約10分程度で読め、「起承転結」の名の通りの展開を見せます。そのため、だれる事もなく、非常にテンポよく読めるのです。

こういう作品を読むと、「起承転結」という物語作りの鉄則は、やはり伊達ではないなあと思わされます。この作品は短編ですが、長編でもこの原則を守れば、「中盤までは日常描写ばかりで疲れてしまう」なんて事もなくなるはずです。

また、短編でありながらさり気ない伏線も効いていますし、3人のキャラクターもそれぞれに魅力的。加えて、あぶり出し、キーホルダーなどの「小物」「小技」も、演出として非常に巧妙に使われており、展開バランスの良さとも相まって、ラストではとても気持ちのいい感動を味わえる事でしょう。確かに純粋なハッピーエンドとは言えないのですが、希望を感じさせる終わり方です。

が、この作品で何とも惜しく感じてしまった点があります。ウサギにとって一夏はとても大事な人になったという展開なのですが、それを納得させるには、少しばかり時間が(ゲーム内でも、プレイ時間でも)短すぎやしなかったでしょうか。時間が短い上、部屋でゲームをやる以外にはさほど印象的なイベントがあった訳でもないので、せっかくの感動的な後半が、ちょっと説得力を欠き唐突に感じてしまったのです。

そのため、ラストの良質な感銘が長続きしないというもったいない結果に。良い物語なのに惜しまれます。ですから、一夏がウサギにとって大事な人になる「過程」を、もう少し丁寧に描いて欲しかったなと。たとえ時間はかけなくても、もう一つ二つ効果的なイベントを入れるだけでも、かなり印象は変わったはずです。その意味で、この物語は短編よりは、むしろ中編、長編向きの素材だったのかなという気がしました。

それと、この作品は「強制フルスクリーン」なのです。しかもウィンドウに切り替えができません。これはちょっとプレイヤーに不親切です。フルスクリーンならではの演出がある訳でもないですし、これならせめてウィンドウと選択させてもらえればと思いました。操作性も、左クリックでメニューから抜けられなかったり、プレイヤーに優しいとは言い難く、スクリーンショットを撮りながらプレイするのも、なかなか大変で……(苦笑)。(追記・NScripterはalt+enterでウィンドウに変更できるとの情報をいただきました)

作中では、何故か初代ファミコンが登場し、中盤の和む展開のちょっとしたアクセントになっています。シナリオ上は全くどうでもいいと言えばどうでもいい描写なのですが、ファミコンを知っている世代なら、思わず笑ってしまうでしょう。こういうワンポイントのアクセントは、嫌いではありません。サッカーファンの間では、すぐ怪我をする選手の事を「スペ(ランカー)体質」と言うほど、ゲームファン以外にも影響を与えていますし(笑)。

ツールはNScripterです。選択肢はなく、プレイ時間は40分ほどのため、空いた時間に軽くプレイできます。中盤は笑えて、終盤には感動がじわりやって来ます。上に書いた通りの事は感じましたが、上質な短編感動物語です。既に続編も公開されているようなので、そちらも追ってプレイしてみるつもりです。展開、構成がしっかりした短編感動ドラマをお探しの方にお勧めします。
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