第399回/はるかな夢へ一手すき - 夏ゆめ彼方(ペットボトルココア) - 学園・青春
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第399回/はるかな夢へ一手すき - 夏ゆめ彼方(ペットボトルココア)

学園・青春
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夏ゆめ彼方

夏ゆめ彼方■制作者/ペットボトルココア(ダウンロード
■ジャンル/将棋青春ノベル
■プレイ時間/2時間

桂一は将棋が得意な小学生。父はA級八段の超一流棋士だったが、名人になる夢は叶わず夭逝した。それ以来将棋を辞めていた桂一だったが、ある日神社の奥の森の中で、一人の少女と出会った。桂一は再び夢へ向かって歩き始められるのか。将棋の対局シーンがリアルな青春ノベル。

ここが○

  • 登場キャラクターの交流シーンがいい。
  • 駒音が聞こえてきそうな、リアルで熱い対局シーン。
  • 挫折もあるものの爽やかなラスト

ここが×

  • 将棋用語連発なので、知らない人には伝わりにくいかも。
  • 歌音ルートは、整ってはいるもののちょっと呆気ない。
  • メインルートは、物語として一番面白くなるところがカットされている。

■はるかな夢へ一手すき

今回は大変珍しい作品。将棋をテーマにした物語です。藤井聡太七段の活躍により、昨今将棋ブームですが、それにしてもこういう物語を作ろうと思ったら、それなりに将棋に精通していないと書けませんから、ブームだからと言っておいそれと取り上げられるものではありません。

そしてこの作品は、将棋シーンが大変よく出来ています。よく出来ているあまり、専門用語連発で、知らない人だと対局シーンがよく分からない恐れがあるでしょう。「早石田」「ダイレクト向かい飛車」「左美濃」と言われても、それがどういうものなのか、「将棋のルールを知っている」程度だと全く通じない恐れがあります。逆に、ある程度将棋の知識がある人だと、大変楽しめるでしょう。

夏ゆめ彼方舞台は夏の田舎町。主人公は東京から引っ越してきた桂一という小学生の少年です。文章が、多少小学生らしくないところもある固めの一人称ですが、圭一のキャラクターからすれば、このくらい固い文章でも問題はないでしょう。整っており読みやすい文体です。そして序盤、神社の奥で杏と名乗る、自称神様と出会います。

上でも書いた通り、対局シーンの臨場感が素晴らしいです。ちゃんと指し手も示してくれて、その指し手も適当なものではありません。スポーツものや病院ものでもそうですが、この手のテーマ性を持った作品の場合、こういうところがいい加減だと、物語全体が噓っぽくなります。もっとも、将棋に興味がない人がこういう物語を書くはずもないでしょうが。

また、登場キャラクターが個性的で魅力的な上、キャラクターが交流するイベントシーンが、どれもとてもよく描けています。缶蹴りのシーンも、桂一が戦略性を発揮しつつ、大悟と段々仲良くなる様子がいいですし、ヒロインの歌音との交流シーンもいいですね。将棋を抜きにして、単に青春物語の描写としても、とても優れていると思います。

が、物語として見た場合は、ちょっと中途半端なところが目につきます。中盤の選択肢で、メインルートと歌音ルートに分岐するのですが、歌音ルートでは将棋が全然関係なくなってしまっていますし(エピローグまで見ると、むしろこっちの方がハッピーエンドのような気がしなくも(笑))、メインルートは、「物語として一番面白くなるであろう」箇所が、ばっさりカットされているのです。

メインルートの物語は、言ってみれば瀬川晶司五段や今泉健司四段の経験そのままです。そして彼らの人生の一番の見所は、挫折を克服し、不屈の闘志で再び夢に挑む、その挑戦の過程です(瀬川五段の「泣き虫しょったんの奇跡」が、映画になるほどですからね)。

ところが、この物語はそこが全く描かれていません。もちろん、桂一が杏との交流を通し、挫折から再び立ち上がるきっかけを掴む描写は素敵で、そこだけでも読む価値はありますし、それはそれで物語においてどこを一番強調したいかという問題ではありますが、エピローグにああいう描写を持ってくるのであれば、どうしても「美味しいところがカットされている」感は拭えません。恋愛ものに例えれば、告白に至る描写もないのに、エピローグで結婚生活を描いている、くらいの唐突さを感じました。

とは言え、桂一と杏の交流と、挫折した桂一が再び立ち上がる場面の描写は大変素晴らしく、夏の田舎町の雰囲気もよく出ています。立ち絵は、線が太くメリハリがはっきり効いた独特の絵柄ですが、これも綺麗で雰囲気を盛り上げるのに一役買っています。将棋ものとして見ると、ちょっと後半が物足りない感はあるのですが、青春ものとして見れば、よく出来た物語だと思います。

システムは、吉里吉里なのか何なのかよくわかりませんが、システム面に隙はなく遊びやすいです。プレイ時間は両方のエンディングを見て2時間くらいでしょう。将棋用語が頻発しますが、分からなくても青春物語として楽しめます。読後感も爽やかですから、気軽に楽しんでみてください。
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