第434回/振り返れば、二人の夏 - 夏の記憶と葉々の空(杉田川) - 不思議系
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第434回/振り返れば、二人の夏 - 夏の記憶と葉々の空(杉田川)

不思議系
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夏の記憶と葉々の空

夏の記憶と葉々の空■制作者/杉田川(ダウンロード
■ジャンル/夏に妹と再会ノベル
■プレイ時間/30分

水橋雄志は、1年前に亡くした妹、紅莉の事が未だに忘れられず、惰性のような日々を送っていた。そんな彼の前に、見たことのない松川穣という同級生が現れた。影見ヶ池とで深夜に水面を覗き込むと、亡くなった大切な人に会えると言われ、雄志は影見ヶ池へ行く事にした。夏の田舎町で繰り広げられる、妹との忘れられないひと時を描いた短編作品。

ここが○

  • 文章力が高く読み応えがある。
  • 読後感が良く爽やか。
  • なかなか面白い世界の仕掛け

ここが×

  • 中高生の一人称にしては、文章が固すぎる気がする。
  • テーマがいまいち見えにくい。
  • エンドロールも何もなくタイトルに戻ってしまうので、せっかくの余韻が勿体無い。

■振り返れば、二人の夏

以前にも書いた気がしますが、フリーのノベルゲームで春夏秋冬の中では、ダントツに夏を舞台にした作品が多いです。のみならず、タイトルに入る漢字のランキングをとれば、これまたダントツで「夏」が一番多いでしょう。お暇な方は、新着順のインデックスを「夏」で検索してみてください。それだけ、夏という季節は、ノスタルジーを刺激してくれる何かがあって、書き手と読み手を捉えて離さない、という事なのでしょう。

この作品は、いわゆる「妹もの」です。しかし通常の妹ものにありがちな、ふわふわした感じは全然ありません。ゲームではなく小説よりの固い文章というせいもありますが、何せ妹は既に亡くなっていますから。主人公の雄志が、謎の同級生である松川穣に会い、影見ヶ池へ向かうところから、物語がスタートします。

夏の記憶と葉々の空そして次に目が覚めた瞬間には、妹の紅莉(これ、何て読むんだろう……)が何故か目の前にいました。あったはずの仏壇もありません。そこから、紅莉とのほのぼのとした日常が始まります。文章力は高くて読み応えはあるのですが、中高生の一人称としては、ちょっと文章が固すぎるようにも感じました。また、紅莉が雄次の事を「お兄ちゃん」とか「兄さん」ではなく、名前で呼ぶので、最初はちょっと面食らいました。

さて物語は、妹との何気ない、またかけがえのない日常を描きながら、世界の謎が徐々に明らかになっていきます。謎と言っても、このパターン自体はそこそこよくあるパターンという気もしますが、組み合わせ方というか、使い方がちょっと新しいです。そこに、松川というキャラクターの独自性も加わって、この作品に彩りを添えていますね。

前半では、妙に固い文章がちょっと目につきましたが、後半では、雄志が現状を見つめ直して行く心境を描く描写が、この文章にマッチしています。終盤の松川の行動がちょっと怖いのですが、彼の存在や行動意義にも、ちょっと分かるところがあるため、ラスト近くは物語に入り込んで読めました。そこで描かれる主人公の成長が、なかなかよくできています。

ただ、作品全体として見ると、何を一番描きたかったのかが、ちょっとぼやけている印象があります。妹との関係をメインにするにしては、ちょっと妹との描写が淡白に過ぎる気もします。紅莉との別れのシーンも、妙にさらっとしていますし、兄妹の描写に、あえて「感動を狙ってやろう」という印象は皆無です。

それはそれで、変に狙った感じがなく良いとも言えますし、そう考えれば、あくまでこの物語では、直接には紅莉との関係を描きつつ、雄志の成長がテーマという事なのかも知れませんが、それならば、雄志の成長や心境の変化が明確に示されるようなイベントを、1つ2つ盛り込んでみた方が、分かり易かったかも知れません。

ラストは、綺麗にまとまっていて爽やかな読後感です。しかし、物語が終わった後、何の余韻もなくいきなりタイトル画面に一瞬で戻ってしまうのに、かなりびっくりしました。エンドロールか、せめて「The End」なり「FIN」なり、終わりの画面を数秒出して、読み手の心を落ち着けるくらいの演出はあっても良かったのではないかと思います。最初私は、あまりの唐突さに何かのバグかと思いました。

ツールはNScripterです。プレイ時間は30分くらい(作者さんは1時間と書いていますが、よっぽどゆっくり読まなければ、そんなにはかかりません)。選択肢のない一本道です。いわゆる「妹もの」の甘い感じを想像していると、ちょっと路線が違うのですが、夏のちょっとした不思議な成長物語として、手軽に楽しめると思います。ゲームよりも小説寄りの短編作品がお好きな方は、読んでみてください。
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