第446回/追憶を刺激する夏物語 - 夏に溺れる(辰砂) - 日常
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト − 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別掌編
久住女中本舗作品リスト - 新着順/名前順
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第446回/追憶を刺激する夏物語 - 夏に溺れる(辰砂)

日常
  • comment0
  • trackback-

夏に溺れる

夏に溺れる■制作者/辰砂(ダウンロード
■ジャンル/少年少女夏の田舎ノベル
■プレイ時間/20分

父の実家である広島県糸咲に一人でやって来た思紋。何もない田舎で祖母の静紀に出迎えられ、地元の子供達との交流。夏休みのひと時を楽しんでいた思紋だったが、地元の子供達に誘われ、帝釈川という川へ遊びに行くことになった。方言と背景写真が、夏のノスタルジックな空気を醸し出す短編ノベル。

ここが○

  • 独特な手描き風の背景画像。
  • 方言が醸し出す夏の雰囲気。
  • 丁寧で読みやすい文章。

ここが×

  • 物語としては少しテーマが弱い。
  • 文字サイズが小さすぎる。
  • しかも一気に文章が表示されて、少々読みにくい。

■追憶を刺激する夏物語

続いて、夏をテーマにした作品。今度は短編です。前にも書いた通り、多分フリーのノベルゲームのタイトルに入っている文字で、ダントツに多いのは「夏」です。他の季節に比べても段違いに多いです。夏には、やはり思い出とかノスタルジーを刺激する何かがあるのかも知れません。

この作品の舞台は、広島県の片田舎。呉線に乗って糸咲(糸崎の事でしょう。何故ここだけ仮称にしたのかちょっと謎です)まで行くという描写です。最初は新幹線内の描写で、広島の次が小倉というアナウンスが流れるのですが、「山口県内にも止めてくれよ」と思った、山口県出身の私(笑)。

夏に溺れる今作でまず目を惹くのは、独特の手描き風の背景画像です。凄く巧みな筆致という訳ではないのですが、これが夏の田舎という舞台に非常に合っており、独特の「懐かしさ」を出してくれています。また、色使いなども工夫されており、1枚の画像として見た場合にもとても美しいですね。この作品において、この背景画像の力はとても大きいと思います。

さて、主人公は都会の小学生、思紋(しもん)。彼が父の実家にやって来るところから話が始まります。登場人物は主人公を除いて皆方言で喋るのですが、広島弁の独特の言い回しがとてもいい感じです(私は山口出身ですが、山口と広島の言葉ってちょっと近いところがあるのです)。思わず、私自身が父の実家(山口県の山奥の、物凄い田舎です)に行った時の事を思い出しました。この作品はそのように、読み手の思い出に同調してくれる不思議な力があると思います。

そして物語は中盤から、一気に動きます。動くのですが、この物語に「読み手に訴えかけたいテーマ性」のようなものは、あまり強く感じられません。選択肢で2つに分岐するのですが、どちらも「で、ここからどうなるの?」というところで終わってしまいます。起承転結整った、エンターテインメント的な物語を期待していると、肩透かしを食らってしまうかも知れません。

ですから、この作品はテーマを訴え、起承転結整った物語を読ませるというよりも、夏の一場面を描き出すというのがメインなのかも知れません。そう思って読めば、どのシーンも非常に読み手の思い出を揺さぶり、物語が訴えるというより、読み手の思い出を引き出して共鳴してくれる一編でした。短編にはこういう作りもありでしょう。

登場キャラクターは結構多く、主人公の思紋とメインのサブキャラである芦谷、それに祖母の静紀以外は、正直「いるだけのその他大勢」という感じになってしまっている感があります。キャラ同士のやり取りが展開の妙を生むようなタイプの作品ではないのですが、短編ですし、やたらとキャラをたくさん出すよりは、もうちょっとキャラを絞り込んで描写した方が良いようにも思えました。

画面はかなりのワイドサイズで、これほど横幅が広いと、大抵文字も横にずらっと長くなって読み辛くなるのですが、この作品は文字表示を右端に、しかも縦書きで取っています。なるほどこれなら、ワイドを使うのも一つの手かも知れませんね。ただ、この文字サイズがかなり小さく読みにくいです。それだけならまだしも、数行が一気にどばっと表示される上、表示されている間は、マウスホイールを使ったテキスト読み返しもできません。意外とこの作品は、文章を読み返したくなる箇所が多かったですし、ここはもうちょっと読み手に親切な仕様にして欲しかった気がします。

その文章ですが、三人称で淡々と書かれた文体です。過剰に捻り過ぎた表現もなく、丁寧で読みやすく書かれています。文章力はかなり高い方だと思います。もしかしたら、方言で書かれた会話が分かりにくいと感じる人があるかも知れませんが、それはそれで、都会育ちの主人公の思いが感じられていいかも知れないと思わされます(私は広島の方言は分かる方ですが)。

ツールは、吉里吉里Zという、開発終了した吉里吉里を有志が引き継いだものらしいです。選択肢は上記の通り、途中に一箇所だけ出てきて、その結果で分岐します。プレイ時間は20分程度ですが、この作品はあまり飛ばして読まず、じっくり読むほうが味わいがあると思います。意外なオチがつく娯楽性の高い物語ではありませんが、この季節ですから、こういう「思い出に訴えかける」夏物語はいかがでしょうか。
関連記事

Comments 0

Leave a reply