第450回/北の大地で、鬼嘆く - KiTAN-キタン-(セイナルボンジン) - 伝奇
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第450回/北の大地で、鬼嘆く - KiTAN-キタン-(セイナルボンジン)

伝奇
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KiTAN-キタン-

KiTAN-キタン-準推薦
■制作者/セイナルボンジン(ダウンロード
■ジャンル/津軽伝承風伝奇ノベル
■プレイ時間/15分

戦いの末、故郷を終われ北の地に流れ着いた若者。傷だらけで行き倒れ寸前だった彼を、一人の美しい娘が助けて自宅へ連れ帰った。その娘は鍛冶屋の一人娘だったのだが、やがて若者と娘は徐々に惹かれ合い……。青森県弘前市に伝わる伝承を元に作られた、動きを感じさせる絵が圧倒的な迫力を生み出す、紙芝居風伝奇物語。

ここが○

  • 1枚絵、背景共に渋すぎる。
  • 相変わらず、動きを感じさせる1枚絵の演出が素晴らしい。
  • 台詞が全くないのに、登場人物の心情が見事に伝わってくる。

ここが×

  • 流石にちょっと駆け足気味の展開。
  • 終わり方もちょっと寂しい。
  • 台詞がないのは、人によっては物足りなさを感じるかも。

■北の大地で、鬼嘆く

画面写真だけでぴんと来る方もいらっしゃるかもしれません。大量の1枚絵を使った、映画のような演出が特徴の、「太陽がまた輝く時」「銀河特捜ライジン」の作者さんの作品です。ですから、やはり大量の1枚絵を使った、紙芝居風演出は健在です。

紙芝居風とは言っても、構図や動きを伴った効果の演出が素晴らしいのも相変わらずで、紙芝居というよりは映画の絵コンテのよう。以前のレビューでも書きましたが、この作者さんはかなり映画風な演出を研究しているんだと思います。ノベルゲーム的な感性だけでは、こうはいかないでしょう。

KiTAN-キタン-そして、独特のハードボイルドな世界観もやはり共通。今回は伝奇ものです。伝奇と言っても、中二な設定や必殺技は登場しません。青森県弘前市に伝わる伝承を元にした、硬派な伝奇です(WIkipediaで「十腰内」を検索すると出てきます)。伝承を元にしている上、かなりの短編ですから、伏線がどうこうというタイプの物語ではありませんが、15分というプレイ時間からは考えられないほど濃密な物語が展開します。

この作品で一番驚くのは、何と「登場人物の台詞が、まったく存在しない」のです。いわゆる「地の文」が存在しない(あるいはほとんど存在しない)作品ならありますが(他でもない、この作者さんの前2作に地の文がほぼ存在しませんでした)、会話文がない作品など、前代未聞だと思います。そして、文章による描写も、必要最小限です。描写はほとんどが、1枚絵によってなされます。

この、「絵による描写」が素晴らしい。台詞も心情描写もないなのに、わずかな文章と1枚絵から登場人物達の心情が手に取るように分かり、また登場人物達の声がいつの間にか頭の中で響いて来る気すらします。また、BGMもほとんどなく、多くのシーンは効果音だけで進みますが、少し動きのある演出と効果音が、相乗効果で臨場感を高めてくれています。中盤、娘が自分の着物を破いて若者の傷を手当てするシーンは、本当に美しい。背景も人物も、ほぼモノクロで描かれているのですが、これがまた雰囲気を高めています。

上にも書いたように、ストーリーは特に捻りがある訳ではありません。ある意味、日本の伝承物語の定番とも言える展開をし、定番とも言えるオチがつきます。なので、捻りのある物語をお好みの方だと、ちょっと物足りなさを覚えるかも知れません。また、キャラクタードラマがお好きな方も、何せ台詞がないので、少し食い足りなさを感じる人もあるでしょう。

が、捻りがなくとも、直球でずっしりと来る物語です。キャラクターにしても、変な口癖を連発したりする「個性的」なキャラクターに食傷気味の方なら、絵と動きだけで十分にキャラクターの個性を描き出した、この作品が醸し出す雰囲気は、きっと楽しんで味わえるはずです。

ちょっとだけ注文をつけますと、中盤の敵との戦闘シーン。娘を傷つけられた怒りから、若者は圧倒的な力であっという間に敵を倒してしまうのですが、あそこはもう少し盛り上げても良かった気がします。オチも、まあ元ネタが伝承ですからあまりいじる訳にも行かなかったでしょうが、もう少し読後感のいいエンディングがあれば、と思いました。まあ、「太陽がまた輝く時」でも「銀河特捜ライジン」でも、ラストはあまり語りすぎず、すぱっと終わっていましたから、これがこの作者さんの作風なのでしょうね。

ツールはNScripterで、選択肢はなく、プレイ時間は15分から20分程度。とにかく渋く格好のいい、硬派な物語です。この作者さんの作品が気に入ったのなら絶対楽しめますし、この作者さんの作品をプレイした事がなくても、「台詞一切なしの描写」というのがどんなものか、一度味わってみてください。物語を書いた経験のある人ほど、この作品の構成に驚かされると思います。
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