第463回/しあわせの夢はいつか二人で - しあわせの夢(ネコモシャモジモ) - 日常
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第463回/しあわせの夢はいつか二人で - しあわせの夢(ネコモシャモジモ)

日常
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しあわせの夢

しあわせの夢■制作者/ネコモシャモジモ(ダウンロード
■ジャンル/1日だけタイムトラベルノベル
■プレイ時間/1時間半

藍川藤二郎は、美術部の2年先輩だった千慧谷蛍と、二度と会えなくなった。蛍が冷凍睡眠によって、百年の眠りについたからだ。が、蛍は十年後、いきなり藍川を訪ねてきた。高校生の頃のママの姿の蛍は、彼に行きたいところがあるという。藍川と蛍は、車に乗って一緒にドライブに出かける事になった。不思議な雰囲気と独特の設定の、青春物語。

ここが○

  • 状況描写が丁寧で分かりやすい。
  • 少しだけSF風の設定がいい味付け。
  • 深い余韻を残すラスト。

ここが×

  • 登場人物が2人とも感情移入しにくい。
  • 前提が色々と説明不足で消化不良感。
  • 展開がちょっと一本調子。

■しあわせの夢はいつか二人で

前回に引き続き、文章だけの作品が二連続です。以前にも書いたと思いますが、ノベルゲームの作者さんには大きく分けて「漫画畑の人」「ゲーム畑の人」「文章畑の人」の3種類があるように感じていますが、この作者さんは間違いなく文章畑の方だと思います。それぞれの方に特徴があるのですが、文章畑の方は、例外なく文章力が高い傾向にあります。

しかも、そういう作者さんはキャラクターに変な特徴をつけたり、おかしな口癖をつけたりする事もなく、極めて写実的な描写をする方が多いという印象です。この作品も、人と関わるのが苦手な藍川と、ちょっと変わった蛍という主要キャラクターは、非常に真っ当な描かれ方をしています。調べると、この作品のシナリオは元々小説だったんだそうです。さもありなんと思わされました。

しあわせの夢主人公の藍川は、二十代半ばくらいの高校教師。高校の頃に美術部に所属しており、活動は全くない部活動だったのですが、2学年上の千慧谷蛍と、毎日のように顔を合わせ、他愛のない会話を交わしていました。が、彼女は卒業と同時に百年の冷凍睡眠に入ってしまい、二度と会う事はなくなった……はずが、その蛍がある日藍川のアパートを訪ねて来るという滑り出しです。

設定は突飛で、何故彼女が冷凍睡眠をするのか、その理由が明確に描かれてはいないため、ちょっとすっきりしないところはあります。一応ちょっと説明はされますが、卒業旅行に外国に行くなんてのならともかく、百年冷凍睡眠をするなんてとんでもない事を、そんな理由でするかなあ、と感じさせられました。この世界で冷凍睡眠が当たり前になっていて、なんて背景の描写がある訳でもないので、どうしてもこの前提には消化不良感があります。

が、この独特の設定と、「手違いで十年で目覚めてしまった」という展開が、「この先どうなるのだろう」と読み進めずにはおれなくなります。上手い掴みですね。高校生の姿のまま現れた蛍と、今や彼女より年上になってしまった藍川。これに、2人のちょっとずれた会話のコントラストがよく効いていて、面白いです。

物語は全9章構成で、各章に必ず過去回想が入ります。分かりにくいかと思いきや、背景画像で違いを見せたり、読み手が混乱しないような工夫が凝らされています。これも、元が小説ならではの丁寧な配慮だと思いました。そしてお話はほとんど藍川と蛍の二人だけで、そう大きな事件も起きず淡々と進んでいきます。

淡々と進むのですが、頻繁に挿入される過去回想で藍川と蛍のちょっとした交流を描く事で、2人のかつての距離感、そして今の距離感をシンクロさせ、微妙な二人の関係の揺らめきを描き出す事に成功していると思います。ここら辺りは、流石に文章畑の人がシナリオを書いただけの事はあるなあと感心させられました。心情描写が、描き過ぎず端折り過ぎず、絶妙な塩梅です。

反面、ゲームとして見ると、ちょっと工夫が欲しいところも散見されます。まず、藍川は内向的で人と関わらず、蛍はちょっと変わり者で、読み手と物語を繋ぐタイプのキャラクターではありません。なので、どうも物語に感情移入して読みにくいのです。1人でいいから、一般人の感覚に近い、脇を支えるキャラクターがいれば(前回ご紹介の「Afterglow」における圭介のような)、感情移入度が全然違ったと思うのですが。また、起承転結が明確に作られている、ゲーム的なエンターテインメント性のあるシナリオでもありません。

やはり、ノベルゲームはあくまで「ノベルゲーム」であって、小説ではありませんから、小説として読んで素晴らしい作品でも、それををそのまま持って来ると、少しアンバランスを感じてしまうところもあります(もちろん、逆もありうる事ですが)。読み手を上手く作品世界にシンクロさせる工夫や、ゲームらしい起承転結のリズムは、欲しかった気がします。逆に、小説としての完成度は高く、ラストの余韻も上々です。ゲーム寄りではなく、小説寄りの作品がお好きな方なら、満足できると思います。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢はありません。私は1時間半で読み終えましたが、普通のゲームのように飛ばして読めるタイプの文章ではありませんので、じっくり読めば3時間くらいはかかるかも知れません。地味ですし、立ち絵がある普通のノベルゲームに慣れた人を寄せ付けないようなところのある作品ですが、文章はハイレベルですし、じっくり楽しめる一作だと思います。
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