第485回/遥かな地平に輝く世界 - 親愛なる孤独と苦悩へ(楽想目) - シリアス・感動系
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第485回/遥かな地平に輝く世界 - 親愛なる孤独と苦悩へ(楽想目)

シリアス・感動系
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親愛なる孤独と苦悩へ

親愛なる孤独と苦悩へ推薦
■制作者/楽想目(ダウンロード
■ジャンル/カウンセリングで人生救済ノベル
■プレイ時間/15時間

内田姫沙希は教育実習生。しかし、実習の大変さに心が折れかける毎日だった。そんな日、たまたま検索サイトで見つけた、無料でのカウンセリングページ。意を決して、そのカウンセラー橘真琴にカウンセリングを申し込む。ビデオ通話の画面に現れた、金髪の女性に、姫沙希は心の底を打ち明け始める。読む人の心をも救済するカウンセリングノベル。

ここが○

  • リアリティのある心理学描写。
  • 単体でも見事な3人の物語。
  • 仰天する他ない後半の展開。

ここが×

  • 無音のシーンが多い。
  • 色々とテンポが良くない気がする。
  • インストール作業が煩雑。

■遥かな地平に輝く世界

今年6本目の推薦作ですが、この作品はそれこそ数年に一度出るかどうかというレベルの作品だと思います。この作品は、長年おつきあいのあるプロのライター、アライコウさん(「Twinkle little star」「Green growth」の作者さんでもあります)からお勧めをいただきました。

なんでも、アライさんのブログで読んだところによりますと、元々この作品は有料で頒布される予定だったそうなのですが、公開前に作者さんが亡くなられたそうで、ご親族の了承を得て、フリー公開されているんだそうです。アライさんのレビューでその事実を先に知ったため、かなり気合いを入れてという訳ではないのですが、腰を据えて読み始めました。開始してすぐに、実写の動画が入って、かなり驚かされます。が、それは序の口。

親愛なる孤独と苦悩へこの物語は、今までプレイしたどの作品とも似ていません。メインとなるのは、カウンセラーの橘真琴。検索サイトで彼女のページを見つけた3人の人々を、真琴がカウンセリングしていくという内容です。教育実習で悩んでいる大学生の内田姫沙希、目標を見出せない格闘ゲーマーの大学生那古龍輔、幼い頃から共に絵を書き続けてきた友人から突然もう絵を描かないと言われた都宮海。この3人です。

まず、カウンセリングの内容が非常に真に迫っています。作者さんが、恐らく心理学を専門にしていたか、そうでないならかなりこの作品のために本格的に勉強したのでしょう。3人のカウンセリングを見ているだけで、明日からでもプレイヤーの心も軽くなるような内容ばかりで、ここに最初に驚かされました。

1人目の内田姫沙希は、教育学部4年の教育実習生。実習で大変苦労しており、私もちょっと懐かしさを感じました(私は教育実習ではなく臨床実習で、期間も半年と長いものでしたが)。カウンセリングとしては、この章が一番見応えありました。それに、教育実習だけではなく、姫沙希の父親との問題にまで踏み込んで解決したラストが非常に美しく見事でしたね。

2人目は、大学3年生の那古龍輔。格闘ゲームは全国トップレベルの腕前ですが、それ以外に熱中できるものが見当たらず、就職活動にもまるで身が入りません。龍輔の言動は最初はまるで共感しかねるものなのですが、彼が徐々に変わっていく様が見どころです。何より、ラストの格闘ゲームの演出は、鳥肌が立つほどの凄さ。格闘ゲームなど全く分からない私ですが、この章の終盤の見事さには言葉を失いました。この章単体でも「推薦」に値します。伏線の使い方の巧さが抜群。

3人目は、これまた大学生の都宮海。色盲の彼は、幼い頃から友人の朽木尋と組んで絵を描いてきました。海が線画を描き、尋が色を塗るという分担作業です。しかし尋がもう絵を描くのはやめたと言ってきました。この章は、前の2章と比べると少し力が弱く感じました。それは、相談した海自身に強い問題がある訳ではないのが1つと、前2章に比べ、問題が重層的ではないのが1つだと思われます。

まあ、海が一番長く真琴のカウンセリングを受けているという設定ですし(なので彼の根本的な問題はある程度解決済みのはず)、海の話は後半に直接続いていきますから、そこは仕方のないところかも知れませんね。

これまでの3章は、何せ題材がカウンセリングですから、地に足がついた物語で、派手な展開は何一つしません。それでいて、心を取り扱っているのですが、その心の変化の様子に非常に現実感があり、またエンターテインメントとしても盛り上がりどころがあります。3章それぞれ、単体でも一つの作品として見事な物語なのですが、この作品の真骨頂は後半です。

後半。真琴は相談者から「直接会ってお礼がしたい」と言われても、のらりくらりとそれをかわして来たのですが、その理由や、真琴がカウンセラーになった理由もここで明かされます。あまりにも衝撃的な事実が明かされるこの後半には、今までのどの作品よりも驚かされました。前半が、全く奇を衒わない真っ当な方向の物語だったので、まさかそんなところから攻めてくるとは、夢にも思わなかったのです(そこまで考えて物語を組んだのだとしたら、作者さんの構成力には驚嘆です)。ただ、奇跡や突飛な現象に頼らずに理詰めできた前半からすると、「ちょっとこの展開はどうなの?」と思わなくもないのですが。

この後半は、大変重苦しいです。重苦しい上、どこにも逃げ場がないため、読んでいて辛くなってきます。更に物凄く長いため、人によっては嫌気がさしてくるかも知れません。作中で語られているような経験をした事がある人も少なくないはずで、そういう方は読んでいて登場人物の苦悩が胸に突き刺さってくるでしょう。しかしそこをこらえて、読み進めてください。最後の最後では、それらの重苦しい展開を全て払拭する、素晴らしい救いが待っていますから。これほど輝かしいエンディングを、私は今まで見た事がありません。あの苦悩があったこそ、多くの人々の心を救う事ができたのだと、前半の展開も更に生きる、素晴らしい後半でした。「人前で歌えない」はずの姫沙希の堂々たる歌いっぷりと、クールな龍輔が、ちょっと情に流されている辺りが特に好きです。

ただ、全体にテンポが良くないところもあります。三点リーダー(…)だけのやり取りが何度も何度も続いたり、三点リーダーが何十個も出るだけの会話文があったり、ちょっと冗長なところが見られます。元々長い物語なのですが、もう少し切り詰められたのではないかと(特に最終章では)感じました。物語としては文句なく凄いものの、文章が上手いかというとそれはまた別問題で、変な誤用(「おろそか」が「おごそか」になっていたり)も散見されました。

また、曲のないシーンが多く、これも少し気になりました。まあ、逆にそのせいで曲のあるシーンが際立ったとも言えるのですが、もう少し音楽を入れても良かったのではないかと。それと、Air Novelというツールを使っているのですが、インストール作業が煩雑です。まずAdobe Airを入れるところから始めないといけません(確か「バレンタインイヴ」が同じツールを使っていたはず)。これはちょっとと感じました。16:9サイズのワイド画面ですが、長時間読むにはこれも辛いものがありました。

選択肢はほとんどなく(一か所だけあったか)一本道です。プレイ時間は人によると思いますが、私は15時間かかりました。とても長い物語ですが、特に後半は途中で止められなくなるパワーを持った作品です。是非読んでみてください。私が取り上げた作品の中でも、屈指の感動度を持つ作品です。読めば、自分の考え方までもが変えられる可能性を持っていると思います。

それにしても、作者さんに直接お礼を言う事ができないのが、返す返すも残念です。
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