第495回/凍りつく指に息をかけ - トヤマと薬売り(三叉路) - 恋愛
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第495回/凍りつく指に息をかけ - トヤマと薬売り(三叉路)

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トヤマと薬売り

トヤマと薬売り■制作者/三叉路(ダウンロード
■ジャンル/田舎の医院での出会いノベル
■プレイ時間/20分

雪深い山村で医師をしているトヤマのもとに、ある日薬売りの女性がやって来た。不思議な雰囲気を漂わせる彼女に惹かれたトヤマは、それから薬売りがやって来るのを楽しみにするようになる。やがてトヤマは、薬売りに1日でも早く会えるように、手元の薬を全て処分してしまうのだが、そんなある日。雪の風景が印象深い短編ノベル。

ここが◯

  • 雪の山村の雰囲気がとてもよく出ている。
  • 味わい深い文章。
  • 非常に美しい背景写真。

ここが×

  • トヤマの行動は医師として如何なものか。
  • 時代設定がいまいち不明。
  • そんなハッピーエンドでいいのかと、ちょっと考え込んでしまう。

■凍りつく指に息をかけ

私も、以前は雪などほとんど降らない街に住んでいたのですが、何の縁か雪国に引っ越して来ました。引っ越して来たのは3月なのですが、3月でもまだまだ雪はほとんど溶けておらず、大変な思いをしましたので、今年の冬が不安です。この物語は、恐らくは北陸富山が舞台です。富山の薬売りというと昔から有名ですね。薬商人が家々を回って薬を置いていき、次回に使った分だけの料金をとるというシステムで、江戸時代に始まったようです。

この作品の主人公は、新米医師(らしい)トヤマです。彼の父は名医と慕われた医者でしたが、行方不明になってしまい、彼が診療所の跡を継ぎました。それなりに村人にも信頼されて来たところに、薬売りの女性がやって来るという物語です。薬売りの髪型が、どう見ても狐か狸の耳にしか見えないので、最初はそういう物語なのかと早合点しましたが、全然そういう事はありません(笑)。

トヤマと薬売りこの作品は、雪がしんしんと降りしきる様子がアニメーションで表現されますが、美しい背景写真と共に、その演出が非常に印象深いです。アニメーションの演出は、「文章を読ませる」のが主体のノベルゲームでは、ともすれば蛇足になる事も多いのですが(動きの演出が過剰だと、文章が印象に残らなくなる事も)、この作品においてはかなり効果的に働いていたと思います。

そしてトヤマはやがて薬売りの女性に惹かれて……と、展開としてはよくある物語です。が、ここでトヤマがとる行動がなんというか……。開業医ということは、医師免許を取得した一人前の大人であるはずなのですが、「大人としてその行動はどうなの?」と首を傾げたくなるものです。「そんな事したらいろんな人に迷惑かかるでしょ、何考えてるの?」と、ちょっと主人公の行動に反発を覚えました。

薬売りの女性に会いたいなら、別に全部の薬を残らず処分しなくてもいいはずです。そんな事したら、仕事になりませんからね。しかしこの作品において、「全部の薬がない」というのは、後半の展開に繋がるための布石でもあります。その意味で、トヤマの行動に「展開のために作られた作為」というものを、非常に強く感じてしまった次第です。なのでここに違和感を感じたのです。

リアリティがない行動というのも、作品の中できちんと理由づけがされているならばありだと思うのです。さりながらこの作品の場合は、「展開上必要だから」そういうリアリティのない行動をさせた、というのが見えてしまうのですね。ここの、もうちょっと何かしらの、読み手が納得できる理由づけが欲しかったと感じました。トヤマの行動は、医師としてどうかと思う上に、薬売りの女性にも無駄な負担をかけてしまいますし……。読みながら「ちょっとこれはないよね」という感が。

それを除けば、雪が降りしきるアニメーションの演出も含めて、非常に雰囲気の出ている作品でした。序盤でトヤマ医師の「罪を語る」と表されたので、どんな後味が悪い終わり方をするのかと思っていたら、何だかちょっとハッピーエンドになり、ラストは暖かい気持ちになりました。とは言え「あんな非常識な行為をしておいて、そんなハッピーエンドになっていいのか?」と、ひとしきり考えてしまいましたが(笑)。

文章は、演出に合ったとても味わい深いものです。描写も、過剰でもなく言葉足らずでもなく、そしてひねり過ぎている事もなく淡白過ぎもせず、とても読みやすいです。ただ、時代設定がいまいち不明というか……。現代の話ではないとは思うのですが、そういう描写がほとんどないため、時代背景などがよく分かりませんでした。そこらはもう少し突っ込んで描いてみても良かったかも知れません。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢はなく、ゆっくり読んでも15〜20分くらいだと思います。ティラノにしてはシステムもまずまずよくできていまして(ティラノは、システムがどうにも……な作品がとても多いので)、プレイ上ストレスはありません。とにかく背景写真が非常に美しくて目を奪われます。雪が降らない地域の方も、雪国の山村に思いを馳せながら読んでみてください。
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