第506回/もう一度水の中へ飛び込む勇気を - 乾きゆく魚(こゆび反応) - シリアス・感動系
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第506回/もう一度水の中へ飛び込む勇気を - 乾きゆく魚(こゆび反応)

シリアス・感動系
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乾きゆく魚

乾きゆく魚■制作者/こゆび反応(ダウンロード
■ジャンル/AIとチャットで人生回顧ノベル
■プレイ時間/40分

ある引きこもりの孤独な青年が、人知れずこの世に別れを告げるために、安楽死のための施設にやって来た。無機質で退屈な部屋で、退屈しのぎにホログラムとのチャットで時間つぶしをする事にする。現れたホログラムの女性ディミナータとの会話で、青年は少しずつ過去を思い出していくのだが……。真実はいつでも残酷なのか。考えさせられる短編物語。

ここが○

  • デザインがかっこいい。
  • 文章力が高く読み応えがある。
  • 間に挿入されるエピソードが印象に残る。

ここが×

  • END1は救い様のない終わりで後味が悪い。
  • END2は、全てがなかった事にされていて、どうにもすっきりしない。
  • 登場人物がアルファベット1文字の名前ばかりで味気ない。

■もう一度水の中へ飛び込む勇気を

つい最近プレイした、「両手に今夜水を持って」の作者さんによる作品です。この作品も、そして、1枚絵のない文章だけの作品です。なので高い文章力は今作でも健在。文章を読む事を楽しみたい方には打って付けの作品だと思います。

こちらの方が後に公開されているのですが、今回は前作ほど極端なワイド画面ではありません(少しワイドではあるのですが)。そのためレイアウトにも無理がありません。文章の表示枠と、背景画像の表示のバランスも良く、全体のレイアウトが、前作同様なかなかお洒落です。立ち絵のない作品って、意外とこういう配置のセンスが大事なんだなあと、こういう作品をプレイすると思わされます。

乾きゆく魚しかし、前作もなかなか刺激的で独創的な物語でしたが、今作も凄い設定です。舞台は、政府公認の安楽死のための施設。利用者は登録をしてそこにやって来て、安楽死までの時間をホテルの一室のような部屋で過ごし、時間が来たら別室で「処理」されていくという。淡々と描かれているだけに、非常に「怖さ」を感じます。その施設に、Oという名前の青年がやって来るところから、物語が始まります。冒頭「ガイロイド」という単語が出てきて一瞬「?」となりましたが、文脈からして恐らく「ガイド+アンドロイド」なのでしょうね(一言説明があれば良かったかも)。

この作品、登場人物のほとんどがアルファベット1文字(イニシャル?)でしか表されないので、結構途中で訳が分からなくなります。のみならず、プレイしたのは昨日の夜なのですが、既に誰がどういう名前だったかあまり記憶にありません。もちろん作者さんとしては意図があっての事かも知れませんが、キャラの名前って、アイデンティティでもあるんですよね。やはりある程度「区別をつけやすいキャラの名前」って大事だと思わされました。

その分、たった1人名前がある人工知能のディミナータが、強烈に印象に残っていると言えば残っていますし、それが作者さんの狙いなのかも知れませんが……。あるいは、キャラクターは記号でしかなく、物語だけを純粋に描きたかったのかも知れません。とにかく、Oという青年が、ディミナータとの会話の中で、安楽死までの時間を過ごすという物語です。

Oとディミナータとの物語の合間に、2編の別の人物の物語が挿入されます。これは本編と特に関係がある訳ではない、インターミッション的な扱いなのですが、特に2編目のエピソードが強く印象に残りました。この2編のエピソードを、何かしらメインのOのお話に絡ませてみても面白かったかも知れませんが、それはそれで構成が大変になりそうです。とにかく、合間にこういう別の人物の話を入れる事で、リズムと気分を変える面白い効果があったと思います。

そしてOはディミナータとの会話で、意外な事を知らされます。そこからラストに繋がっていくのですが、ラストは何とも救いようのない終わり方で、実にすっきりしません(汗)。その状態でタイトルに戻ると、今度は最初の方に選択肢が現れて、2つ目のエンドへの道が開かれます。が、その選択肢を選ぶと、開始から3分で終わってしまい、1つ目のエンドよりは後味は悪くないものの、構成としてはどうなのかとちょっと首を傾げました。

というのも、読み手は1つ目のエンドを見ているので、Oの真実を知っていますが、物語の中のOは真実を当然知りません。つまり悲劇的な結末にはならなかったものの、作品内では何も解決していないどころか、全てが「なかった事」になって終わってしまっているのです。これでは夢オチと変わらず、「この物語の存在価値は一体……」となってしまいます。選択肢をあんな最初の方に持って来るのではなく、Oが作中で真実を知った後に、何らかの救いがあるような分岐を作る事はできなかったものかと、考え込んでしまいました(あるいは、あの終わり方のままとしても、例えばあの後何らかの形でディミナータとコンタクトを取れる事を示唆するとか……)。

そういう訳で、「エンディングではきちんとすっきり解決する、読後感の良い物語を読みたい」という私のような者には、どちらのエンディングを見ても何とももやもやしたものが残るのですが、文章力は高くて読み応えがありますし、描写もしっかりしています。主人公であるOの境遇には、共感する人も多いかも知れません。そして、主張しすぎないBGMがまた、文章と文章が醸し出す雰囲気にとてもマッチしています。デザイン、文章含め、全体的にとても上品です。

ツールは吉里吉里です。バックログは文字も大きめで画面全体に表示され、ちょっと一行に表示される文字数が多い気もしますが、読みやすいでしょう。上に書いたようにエンディングは2つで、プレイ時間は40分くらい。飛ばして読めばもっと短時間で読了する事も可能だと思いますが、あまり急いで読まず、じっくり読む方がいいでしょう。独特の空気感がある作品で、明るくもないのですが、ちょっと仄暗い空気は、合う人にはたまらないかも知れません。
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