第508回/細くて脆くて歪な絆 - キズナ行進曲(ころん) - 日常
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第508回/細くて脆くて歪な絆 - キズナ行進曲(ころん)

日常
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キズナ行進曲

キズナ行進曲■制作者/ころん(ダウンロード
■ジャンル/病んだ人達の同居生活ノベル
■プレイ時間/1時間

アパートで一人暮らしをしている久世智には同居人がいた。ある雨の日に行き先を失って佇んでいたキズナという、高校生くらいの少女。彼女との奇妙な同居生活が、しかし久世には心の支えだった。ある時、キズナとネットゲームで知り合った女性が、久世のアパートにやって来るのだが……。登場人物全員が病んでいる、風変わりな同居物語。

ここが○

  • 文章力が高くて読み応えがある。
  • 非常に個性的な登場人物たち。
  • ゲームというより文学的で、味わい深い。

ここが×

  • エンターテインメント性はほとんどない。
  • 登場人物が全員どこか壊れている。
  • しかも登場人物の考えている事が非常に伝わって来にくく、感情移入が困難。

■細くて脆くて歪な絆

ここのところ、立ち絵がなく文章勝負の、ゲームというよりも小説寄り、エンターテインメントというより文学寄りの作品が多いような気がします。いつもそうなのですが、レビューで取り上げる作品の傾向って、重なる時には結構重なるのですね。この作品も、立ち絵なし、選択肢なしの、非常に小説寄りの作品で、ノベルゲームというよりは、「デジタルノベル」「サウンドノベル」と表現した方が良さそうな作品です。

まず開始すると、いきなりJ.シュトラウス一世の「ラデツキー行進曲」が流れて、度肝を抜かれたというか、目が点になりました。そりゃタイトルが「キズナ行進曲」ですが……。なぜこの曲なのか謎です。そう言ってしまえば、タイトルもかなり謎ですが。

キズナ行進曲主人公の久世智は、いわゆるコミュ障っぽい人で、他人と仲良くする事ができません。そんな彼が、ある日自宅であるアパートに帰宅してみると、同居している少女キズナが、部屋の中のものをめちゃめちゃにしているところから、物語が始まります。出だしの描写からして、もう狂人の物語としか思えず、正直な話いきなりここでさーっとひいてしまいました(汗)。この作品、全編に渡ってそうなのですが、イベントに込められた意味がいまいち理解できず、物語についていけない事が多々ありました。

イベントだけでなく、登場人物の言動にもちょっとついていけないところがあります。道場人物が延々と自分の考えを述べるようなシーンもあり、そこは読んでいるだけでも「まだ続くの……?」となったりしましたが、そうでなくても通常シーンにおいても登場人物の言動から、内面を垣間見る事が全くできないのです。久世と言いキズナと言いアカリと言い、彼らが何を考え、何を望み、何を目指しているのか、読解力のない私には全く理解できませんでした。

なので、通常この手の作品であれば、どこかに感情移入のポイントを見出し、そのポイントから物語に大なり小なり共感を感じながら読み進めます。例えばそれは多くの場合主人公なのですが、今作の場合感情移入ポイントを探す事が大変困難です。主人公にはまず感情移入できませんし、物語の展開的にも感情移入ポイントを見出しにくくなっています。

なので、一歩引いたところから物語を見ざるを得ません。引いたところから見ざるを得ないにも関わらず、その物語は、上に書いたようにエンターテインメント寄りではなく文学寄りで、イベントの意味や繋がり、シナリオの流れ(起承転結)を(エンターテインメント性の高い娯楽作品のようには)重視していないように見えるので、「盛り上がりどころとオチがあって、楽しめる」物語を期待して読むと、正直辛いものがあります。

まあ、最初からそういうタイプの物語は目指していないものと思われますが、それにしてもここまで「尖った」作品も、フリーのノベルゲームではなかなか珍しいと思います。ただ、エンターテインメント寄りでないと書きましたが、物語の流れ自体はしっかりしており、ちゃんとメリハリもあります。そして文章力は非常に高いです。読み応えは十分ですので、読んで考えるタイプの物語が好きならば、きっとお好みに合うはずです。

そして、些か極端気味な描写は目につくものの、登場人物は皆個性的です(魅力的かどうかと言われると、それはまた別問題ですが)。描写力も非常に高いため、彼らの生活の様子が、非常にリアルに感じられました。退廃的な様子もリアルに伝わってくるので、読み応えも十分です。ゲームではなく、小説だと思って読めば、かなりレベルの高い作品だと思います。ただ、一部にグロテスクな描写があるのですが、描写力が高い故に、そこは流石に気持ち悪くなってしまい、テキストを一気に飛ばしてしまいました。そういう描写が平気な方ならいいのでしょうが、苦手な方は要注意です。本当に気持ち悪くなります(汗)。

結局、久世とキズナとアカリの3人の日々は、最後には何事もなかったかのように消えてしまいます。バッドエンドではありませんが、ハッピーエンドでもなく、恋愛ものでもなければ感動ものでもありませんので、読後は何とも言えない虚しい気持ちが残ります(悪い意味の虚しさではありません)。私はこのような読後感の作品を好むとは言い難いのですが、この気持ちを読者に感じさせる事を狙ってこの物語を書いたのであれば、大した筆力だと感心させられました。

ツールは久々な気がするNScripter。プレイ感覚はNScrそのもので、取り立てて凄くプレイしやすくもしにくくもありません。プレイ時間は1時間くらいの一本道です。娯楽作品ではないですし、地味な物語ですが、不思議と強く印象に残る作品でもあります。小説寄りの作品がお好きな方は、読んでみる価値があると思いますよ。
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