第519回/人は素顔を隠してそれを被る - 仮面のセカイ(第三ノベル工房) - 不思議系
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第519回/人は素顔を隠してそれを被る - 仮面のセカイ(第三ノベル工房)

不思議系
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仮面のセカイ

仮面のセカイ■制作者/第三ノベル工房(ダウンロード
■ジャンル/人間の本性追求ノベル
■プレイ時間/40分

篠田純一は高校2年生。ある朝目覚めると、全ての人が仮面を被った奇妙な世界だった。仮面はその人の心の偽り方を示しており、仮面が見えるのは篠田だけで、更に篠田にだけは仮面を剥ぐ事もできる。篠田は面白半分に、人々の仮面を剥いでいくのだが。好奇心を追求した果てに篠田が見たものは。「街」風のTIPSが独特の、何とも奇妙でブラックな物語。

ここが○

  • TIPSがいい箸休めになっている。
  • 奇想天外で読み手を引き込む展開。
  • 絶句するしかないラスト。

ここが×

  • 序盤は主人公の篠田にまるで感情移入できない。
  • 後味の悪すぎるオチ。
  • 文章だけなのにウィンドウがワイドすぎ。

■人は素顔を隠してそれを被る

ここのところ、文章だけの作品を取り上げる事が意外と増えています。そして、文章だけの作品でエンターテインメント寄りの作品って、昔に比べても激減した気がします。この作品もそうで、あえて文章だけで勝負する作品は、「楽しませる」よりは「表現する」事に重点を置くという事なんでしょう。「仮面のセカイ」。とにかく冒頭からその独特な展開には目を見張ります。

主人公の篠田が、まず大変感情移入しにくいタイプです。彼は自分の好奇心を満足させる事が最優先で、そのために自分を隠したり他人を慮ったりする事をしません。当たり前ですが、子供ならいざ知らず、極端を言えば小学生の高学年くらいからでも、それが出来ないとなかなかまともな人間関係は築けませんが、篠田はただ傍若無人に、自分のやりたいように振る舞うだけです。

仮面のセカイそんな篠田がある朝目覚めると、全ての人が仮面を被った世界でした。仮面が見えるのは篠田だけ。しかもその仮面は、その人が本来の心を隠している、その様子を比喩したかのような形状になっています。そして篠田はその仮面を何と剥がす事ができるのです。仮面を剥がされた人間は、隠されていた本性を剥き出しにします。篠田は面白がって、どんどん周りの人の仮面を剥いで行きますが、という展開です。

この作品、ところどころ青字で表示されている単語があります。それをクリックすると、その単語のちょっとした解説が読めるという仕掛けです。この仕掛け、物語には何の関係もありませんが、ちょっとした作品のアクセントになっています。「街」という作品そのままですね。読める解説も、「街」っぽいです。ただ、アクセントになっている反面、リズムを損なっていると言えなくもない気がしますが。

そして物語は、篠田が好奇心のままに行動した挙句、その篠田自身が災いに見舞われます。まあ因果応報と言いますか、「そりゃそうだよね」となってしまいました。ただ、篠田自身がその後、実は仮面は必要なものである事に気付き、自分を見直したというのはいい展開でした。これで綺麗なオチでもついていてくれれば、気持ちよく眠れたのですが、何とも切りの悪いところで、何らかの事件が起こる事を示唆して物語は突然終わってしまいます。

どうした事かと思っていると、クリア後には3本のおまけが読めるようになります。1本目と2本目は本当のおまけですが、3本目でその「何らかの事件」が明らかになります。この展開は流石に後味が悪すぎて、読了した後しばらく固まってしまいました。おまけを全部読了するとタイトル画面の写真が変わるのですが、この写真が「事件」を暗示しており、背筋が寒くなりました。

私は、「現実世界は理不尽で、思うようにならない事だらけだから、架空の物語の中では気持ちよく終わって欲しい」と考えるたちで、ハッピーエンドが大好きです。もちろん「現実世界でそんな人間性を疑われるような事は出来ないから、架空の物語の中では思う存分陰惨な展開を見たい」と、ブラックな展開を好む方もいるでしょうから、これは好みの問題だと思います。それにしてもこの物語は他に例を見ないほどブラックです。苦手な方はご注意ください。

それにしても、主人公を始め、登場人物達にはみんな何らかの救いや希望が提示されているのに対し、あの彼女だけは何もフォローがなく、ああいう終わり方になってしまったのは、何とも言えない消化不良感が残りました(それと、主人公の両親についても、何か後日談でフォローが欲しかった気がします)。

主人公の言動にほとんど全く共感できず、篠田が憧れの女の子に何故か勢いで告白した時も、「おいおい、何でこの流れでいきなり?」と思いましたし、その後見事に玉砕した時は、ある種の爽快感すら覚えました。そういう意味で、主人公に感情移入させる事は放棄して(文章だけの作品には案外多い気がしますが)、あくまで展開で読者を面白がらせる事に特化した作品なのかも知れません。

ツールは吉里吉里です。文章だけなのにウィンドウがかなりワイドで、お世辞にも読みやすいとは言えないのですが、一度に表示される行数がそれほど多くないので、何とか読めます(絵のない作品は、よほど上手く工夫しないとワイドはデメリットが大きい気がするのですが……)。選択肢はなく、全部読んで40分くらいの作品です。後味は大変良くないですが、メインシナリオの作り方自体は上手く、登場人物による文章の書き分けも非常に巧みです。一風変わった世界を味わってみてください。
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