第523回/耳をすませば鬼の歌 - 鬼のうた(との) - 伝奇
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第523回/耳をすませば鬼の歌 - 鬼のうた(との)

伝奇
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鬼のうた

鬼のうた推薦
■制作者/との(ダウンロード
■ジャンル/鬼と武士の心の触れ合いノベル
■プレイ時間/20分

ゆきは、山奥で一人で暮らす鬼の少女。戦死した武士の肉を食べたりして食いつないでいた。ある日いつものようにゆきが食料の調達に出かけると、重い傷を負って倒れている武士を発見した。その武士を家に連れ帰り介抱するゆき。その武士藤吉は、鬼であるゆきに激しい警戒心を示すが、やがて心を開いていく。心の交流が大変暖かい短編ノベル。

ここが○

  • 2人の心の交流の様子が大変暖かい。
  • 3つのエンド、どれも手を抜かれていない。
  • 特にノーマルエンドは非常に感動する。

ここが×

  • 見た目は地味。
  • エンディングが長く、飛ばす事が出来ない。
  • ブラウザーでしかプレイできない。

■耳をすませば鬼の歌

私のレビューは、プレイ時間順のリストも作っています。見ていただければお分かりの通り、「推薦」「準推薦」が出る率は、プレイ時間が短くなるほど下がっていき、プレイ時間30分以内の「超短編」では、ほぼ15年間「推薦」は一作も出ませんでした。そして今後も多分絶対出ないだろうと思っていたのですが(自分で物語を書いてみれば、30分以内の短編物語作りの難しさはすぐに分かります)、「超短編」での推薦作がついに登場です。この日が来るのをどんなに待ち望んだ事でしょうか(ちょっと大げさ)。

この作品、見た目はちょっと(かなり?)地味です。立ち絵はなく、昔ながらのシルエット表示。1枚絵ももちろんありません。更にツールが変わっていて、「Script少女のべるちゃん」というのですが、ブラウザーでしかプレイできません。私は、優れた作品はダウンロードして手元に置いておきたいと感じる方なので、ブラウザーでしかプレイできないというのは、ちょっと残念ではあります。

鬼のうたこの物語の主人公は、ゆきという、山奥に住む鬼の少女です。山の近くで合戦があるらしく、時々山中に武士の亡骸が転がっているので、それを食べて暮らしています。この序盤は、武士の亡骸を持ち帰って食べる描写もあり、淡々と綴られるのでそこまでグロテスクではないのですが(別に人間を食べている感じではなく、猪か鹿でも食べているかのように思える)、苦手な方はご注意ください。

そんなある日、ゆきは大怪我をして倒れている武士を見つけ、家に連れ帰ります。武士の名前は黒川藤吉。鬼であるゆきを見て、最初は非常に強い警戒心を示しますが、ゆきの心の優しさを目の当たりにして、徐々に心を開いていきます。超短編ですので、ゆきと藤吉の交流シーンがそう長々と描写される訳でもないのですが、短い中に二人の心の交流が濃縮して示されており、前半はとても和みます。

そして後半。事態は一転します。後半にはいくつか選択肢が現れ、3つのエンディングに分岐します。選択肢を眺めれば多分どう選ぶべきかは分かると思うのですが、是非ともバッドエンド→ノーマルエンド→グッドエンドの順に見ることをお薦めします。逆でも別にいいのですが、それだとプレイし終わった後、何とも言えないもやもや感が残ると思いますので(笑)。

バッドエンドは普通の伝奇の終わり方で、「まあこうなるよね」という感じなのですが、ノーマルエンドでは、武士の藤吉の武士ならではの葛藤が示されており、ゆきの献身的な描写も手伝って、非常に読む者の胸を打ちます。ある意味バッドエンドよりも遥かに悲しい終わり方ではあるのですが、これほど強い読後感を持ち、心を揺さぶる幕引きを見せてくれる超短編はなかなかありません。

そしてその後に来るグッドエンド。ノーマルエンドを先に読んでいたからこそ、藤吉の「自分の方こそ鬼ではないか」という台詞が非常に心に染み渡りました。この藤吉の台詞は、現代を生きる我々も心に問うて見るべき一言なのではないかと感じました。藤吉の言う「鬼」に、自分でも気付かないうちに堕ちてしまってやいないかと、私自身も考え込んでしまいました。とにかく、藤吉とゆきの将来に幸多からん事を願ってやみません。もし、これが現代劇だったらどうでしょう。ここまで感銘の強い作品になったでしょうか。そう思うと、この舞台設定やキャラクターを最大限生かしており、ここに作者さんのストーリーテラーとしての力量を非常に感じさせてくれました。

ツールの関係で、少しプレイしにくいところは少しありますが、ctrlキーでのスキップや、文章読み返しもできるため、さほど不都合はありません。マウスホイール下回転での文章送りはできませんが、超短編ですからあまり気にならないと思います。セーブが一ヶ所しか出来ないのは少々不便ですが、ただエンディングを見るだけならこれもさほど苦にはならないでしょう。

ただ、エンディングが妙に長いのです。別の作品を読んだ時も同様のクレジットが流れましたから、作品自体のエンディングという訳ではなく、このツール自体のクレジットみたいなもののようです。このエンディングクレジットが、飛ばす事が出来ないので、マルチエンドのこの作品においては、これはちょっとストレスです。ツールの仕様であれが仕方ないかもしれませんが、せめて2度目以降はスキップできるようになってくれればと思うのですが。

選択肢は数カ所ありますが、上にも書いたように、常識の範囲で少し考えれば、どれを選べばどのエンディングに行くかは分かると思います。エンディング3種類で、プレイ時間は20分くらいでしょう。とにかく、この尺の物語としては稀に見る完成度の高さです。見た目は地味ですが、伝奇だからと言って敬遠せずに是非読んでみてください。強くお薦めします。
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