第530回/綿飴のようには溶けない思い - 雪と手袋(半透明舞台) - 日常
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第530回/綿飴のようには溶けない思い - 雪と手袋(半透明舞台)

日常
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雪と手袋

雪と手袋準推薦
■制作者/半透明舞台(ダウンロード
■ジャンル/手袋ミステリーノベル
■プレイ時間/45分

大学生の氷央院霧子は、ある日執事の運転する車の中から、大学の先輩である鹿山晶也の姿を見つけた。寒い冬の日だったのに、彼は落とした黒い手袋をしようともせず、笑顔を浮かべていた。その様子を見た霧子は、文芸部の部長である蒼川に状況を相談する。霧子は真実にたどり着いた、と一度は思うのだが。高い文章力と独特の雰囲気で送る短編物語。

ここが○

  • 高い文章力が醸し出すいい雰囲気。
  • お嬢様という設定だが嫌味がない霧子。
  • ほのかな余韻を残してくれるラスト。

ここが×

  • 恋愛要素は唐突な気がしなくも。
  • ミステリーという感じでもない。
  • 蒼川部長の立ち絵が文章表現と違うのは何故。

■綿飴のようには溶けない思い

長年、無料で使えるWebスペースのサービスを提供してきたGeocitiesが、サービス終了するそうです。それに伴い、Geocitiesに置かれているページは削除されるでしょう。この作品は、ふりーむやVectorではなく、ジオのサイトに置かれていますので、そのうちダウンロードできなくなるかも知れません。作品のお薦めと共にそういう情報を教えていただきましたので、早速プレイしてみました。

主人公の名前は、氷央院霧子。ものすごい名前です。何でもかなりのお嬢様(社長令嬢?)という設定のようで、いきなり執事の運転する車で移動するという場面から始まります。その車は渋滞に巻き込まれてしまい、何とは無しに外を眺めたところ、霧子と同じ大学の文芸部に所属する、鹿山晶也の姿を見かけるという始まり方です。

雪と手袋主人公がお嬢様キャラだと、読み手がどうにも感情移入しにくくなる傾向になりがちなのですが、この作品ではそういう事はありませんでした。もちろんすごく親しみやすいキャラクターという訳でもないのですが、今作においては、ちょっと世間を知らない箱入り娘という霧子のイメージが、上手く作品全体の雰囲気にマッチしていると思います。まあ、物語展開上生かされているかというと、そうでもないような気はするのですが。

そして、霧子は鹿山が手袋を落とすものの、それをはめずにそのままポケットにしまう場面を見て、これは一体どういう事なのかと訝しく思います。大学の文芸部で、部長の蒼川に相談し、真相を考える、という展開です。探偵役はあくまで蒼川さんであり、霧子はワトスン役と言いましょうか。謎を解決するのは蒼川先輩であって、霧子ではありません。ですが、霧子に解けないところが、抑えが効いていていいように思えました。

「謎を解く」表現してははみたものの、少しだけミステリーっぽいと言えば言えなくもないのですが、そこまで謎解きを前面に押し出している訳ではありません。また普通のミステリーのように、ロジカルな謎解きという訳ではなく、感情面も解決要素に入っているので、純粋な謎解きとは言えない気がしますので、あまりそこは気にせず読んでもいいと思います。

なお蒼川部長は、文章では「ワンレングスの髪型」と書かれていますが、立ち絵はどう見てもワンレングスではありません。立ち絵が素材という訳ではなさそうですので、ここは何故絵と文章の表現がずれてしまったのか、ちょっと謎です。もちろん、だからと言って作品自体を味わう上では、大した支障にはならないのですが……。

この作品は短編で、事実そう大した事件は起こりません。その意味では地味な作品であると言えます。しかし、短いプレイ時間の中で、きちんと起承転結の波が作られており、のみならず最後にはちょっとしたどんでん返しに加え、主人公である霧子のほのかな恋愛要素の前向きな進展(というほどのものでもありませんが)をも描かれる。その筆致に、語り過ぎなところも、語り足りないところもありません。見事なバランス感覚です。

もっとも、恋愛要素については少々取って付けた感がなくもありません。しかし、女性特有の心理を上手く取り入れており、展開としては非常に上手いなと感じさせられました。同時に、「女性って、子供だろうが大人だろうが策士だなあ」と思わされた次第です(笑)。恋愛ものというほどではなく、ミステリーというにも中途半端な感じなのですが、「ミステリアス恋愛もの」として、上手く両方の要素が融合できていると思います。

文章力も高いです。説明的過ぎず、過剰なレトリックにも走らず、読みやすくそれでいて表現豊かです。ツールは吉里吉里。プレイ時間は45分程度で、選択肢はありません。見た目もレトロな味わいが感じられる作品で、実際初出が2006年ですから今から12年も前なのですが、物語としては古さは全く感じず、今プレイしても何ら問題なく楽しめます。ジオがサービス終了しても作者さんが別のWebサービスに移転すれば引き続いてダウンロードできるでしょうが、サイトは当分放置されている様子で移転というのもあまり期待できない気がします。ですからダウンロードできなくなる前、今のうちにプレイしてみてください。
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