第536回/悪魔の仮面、天使の素顔 - 理のスケッチ(捨て鳩) - 学園・青春
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第536回/悪魔の仮面、天使の素顔 - 理のスケッチ(捨て鳩)

学園・青春
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理のスケッチ

理のスケッチ準推薦
■制作者/捨て鳩(ダウンロード
■ジャンル/屋上で哲学論議青春ノベル
■プレイ時間/3時間

河原瑛雄はある日学校の屋上で、「魔の山」の文庫本を拾った。その本を、持ち主である野崎英理に届け、彼女と屋上で哲学や文学についての会話を交わすようになった瑛雄。数ヶ月間に渡る英理との交流を楽しんでいたのだが、ある日級友の説得で、屋上に行くのをやめてしまう。そして英理は……。膨大な描写と文学、哲学的思索に圧倒される青春物語。

ここが○

  • 高い文章力。
  • 終盤の、瑛雄の行動は格好いい。
  • 哲学的描写が、ちゃんとストーリー展開上意味がある。

ここが×

  • あまりにも読みにくい。
  • 中盤までの哲学的描写には、ついていけない人がいてもおかしくない。
  • 描写が非常に冗長。

■悪魔の仮面、天使の素顔

ここのところは短編作品が非常に多いのですが、久々に少し長い作品を読みました。そしてこの作品の読み応えは凄かったです。ノベルゲームではなく、小説でも読んでいるかのようでした。内容の高度さがそう感じさせたというところもあるのですが、それだけが原因ではなさそうです。

ノベルゲームと小説は、似ているところももちろんあるのですが、同じものではありません。特に、紙の小説と画面上で読むノベルゲームでは、読者に配慮すべきポイントもかなり違うと思います。小説をそのままノベルゲームにしても、なかなか上手く行くものではありませんし、逆もまた然りです。例えば、小説であれば「前のあそこはどうだったかな」と気になれば、前のページを繰って読み直せば済むことです。数十ページ前のページを見ることも、難しくはありません。が、ノベルゲームではそうは行きません。ある程度の読み返しは可能ですが、自由にという訳には行きません。

理のスケッチ必然的に、ノベルゲームにおいては、その時画面に表示された文章だけで、なるべく無理なく読者に理解させる事が必要です(読み返しをなるべくさせない配慮が要るという事です)。その観点でこの作品を見ると、ノベルゲーム的配慮はほとんどされていないようにも見えます。何せ、画面写真を見ていただければお分かりのように、表示される文章量が物凄いです。フォントサイズも小さめで、改行ピッチも狭め。

それでいて、大量の文章がどばっとひたすら表示され、その内容も、哲学・文学の難しい議論ばかりで、晦渋で難解。内容はまだしも、例えば文字サイズをもっと大きめにし、改行ピッチを広めにとるだけでも、かなり印象は違ったはずです。また、全画面のテキストウィンドウなのですが、透過率が100%なんですね。お陰で背景画像が邪魔をして、長時間読むのはかなり辛いです。この辺り、もう少しプレイヤーに対する配慮が欲しいように感じました。

ただ、この大量の文章は決して無意味という訳ではありません。文章が画面に大量に表示される時は、多くは「それらの文章がまとめて読まれないと、意味不明になる」場合がほとんどだったように思います。なので、この表示方法は、作品の性質からして作者さんが意図したものである、と考えられます。それにしても、ウィンドウの透過率をもう少しいじるだけでも、かなり読みやすくなった気がするのですが。

そして、前半は瑛雄と英理の、哲学的・文学的論議が大半を占めます。とにかく難解で、描写も冗長なので(後半は難解ではなくなりますが、描写自体は後半も冗長です)、付き合い切れなくなる人が続出かも知れません。せっかくよくできた物語なのに、前半で投げ出してしまうのでは、少々勿体無い話です。もうちょっと前半は、読者に親切にしても良かったような気がするのです。

確かに前半は難解過ぎて訳が分からないのですが、難解な哲学論議が、「論議のための論議」に終わっておらず、瑛雄や英理の行動、考え方、そして後半の展開の鍵になっているというのが、この作品の一番面白いところだと思います。言ってみれば、長所と短所が表裏一体となっているのですね。そして作者さんは、短所が顕在化する事は承知の上で、この表現方法をとったのではないかと、全部読み終えた後で感じた次第です。

後半は、哲学的・文学的な描写はある程度影を潜め、人間模様に比重が移されます。クラスメイトとのやり取りも、おおよそ高校生離れしており、なんだかシェイクスピアの戯曲でも読んでいる気になってくるのですが、それがこの作品ならではの世界観だと思えば、必ずしもリアリティに重点を置かずともいいのかも知れません。確かに取っ付きにくく高校生っぽくないキャラクターばかりなのですが、詩織も友人(名前が出てこなかったような……)も、独特の存在感を放っていました。友人の最後の行動は、芝居がかっていますが決まっていましたね。

読み手を選ぶ作品だと思いますし、最後の最後まで描写が粘っこいので、胃にもたれてしまう人が出るかも分かりません。しかし、哲学をテーマに取り入れた上、青春時代の人間関係や恋愛模様をも織り交ぜ、読み応えのある一作に仕上げた作者さんの力量は、かなりのものだと思います。上にも書いたように、哲学的要素をただこねくり回しているだけでなく、それをきちんと物語の中に生かしているのが、凄いなと感心させられました。

ツールは吉里吉里です。選択肢のない一本道で、プレイ時間は3時間くらいですが、考え考えゆっくり読めばもっとかかるかも知れません。物語自体は決して難解な構成ではありませんので、無理せず少しずつ読んでみてください。哲学的・文学的要素は、軽く読んでも十分物語は理解できます。こういう個性的な「文章一本勝負!」な作品は、フリーノベルならではだと思います。合わない人もあるでしょうが、是非じっくり味わってみてください。
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