第538回/錯覚するほど美しい空 - 冬の朝の、ベンチから見える東の空は、美しくて、(リトル・キャンドルライト) - 日常
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第538回/錯覚するほど美しい空 - 冬の朝の、ベンチから見える東の空は、美しくて、(リトル・キャンドルライト)

日常
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冬の朝の、ベンチから見える東の空は、美しくて、

冬の朝の、ベンチから見える東の空は、美しくて、■制作者/リトル・キャンドルライト(ダウンロード
■ジャンル/夜明けの空を見ながら雑談ノベル
■プレイ時間/15分

冬の朝。工場でのアルバイトを終えた先輩と私は、駅に行くバス停のベンチに腰をかけ、空を眺めていた。正反対の性格の先輩と私。噛み合っているような、噛み合っていないような、不思議な会話。そしてやがて昇る朝日に、2人は何を思うのか。朝日の見える冬の朝、何気ない会話を交わす日常物語。

ここが○

  • 対照的な2人の会話が面白い。
  • 文章がすっきりしていて、小説寄りではあるものの読みやすい。
  • 超短編だが、登場人物の個性づけがしっかりしている。

ここが×

  • 音楽が一切ないので、ちょっと雰囲気に欠ける。
  • エンターテインメント的な作品ではなく、起伏も特にない。
  • 終わり方があまりにもあっけない。

■錯覚するほど美しい空

この季節にぴったりの、短編物語をご紹介です。登場人物は女性2人なのですが、学校帰りの喫茶店とか、そういうよくある舞台ではなく、夜間アルバイトが終わり、バスが来るのを待っているというのが、なんとも斬新です。つい最近「人間標本」のレビューでも書きましたが、バス停を舞台にした作品って、同じ公共交通機関の施設である、駅とは違って、また独特の不思議な雰囲気があるような気がします。

登場人物は、主人公の他はアルバイト先の先輩のみ。冬の朝のバス停で、空を眺めながらただ会話するだけという物語です。ただそれだけなのですが、同じ朝の空を見ていても、主人公と先輩とでは捉え方が全然異なり、それがまた面白いところです。先輩は仕事の性格ぶりから、「サンドウィッチ・ウィッチ」というあだ名をつけられています(2人のアルバイトが、サンドウィッチなどの惣菜パンの加工業のようです)。

冬の朝の、ベンチから見える東の空は、美しくて、その二つ名の通り、先輩は魔女めいた不思議な言動を連発します。対して主人公は、ロマンティックなところがかけらもなく、美しい朝の空を見ながら、妙に哲学的な言葉を連発します。この2人の、妙に噛み合わないやり取りが、読んでいて微笑ましさを誘います。この2人、なかなかいいコンビネーションです。

しかし、噛み合わないようでいて、この2人は案外近いものを見ているのかも知れません。それを端的に表しているのが、「まるで、この世界が美しいと、馬鹿げた錯覚をするくらい美しい」という先輩の言葉に、「それはやっぱり馬鹿げた錯覚だと思いますよ」と返した主人公の言葉。2人は、境遇も歩んできた人生も違いますが、お互いなかなかの苦労人だったのではないかと、この2人のやり取りで私はそんな事を思わされました。

とは言えそこから先の感じ方は、先輩と主人公で結構違う方向のような気がします。「錯覚でいいじゃん」と気楽に構える先輩と、「綺麗だ、じゃだめ」と身構える主人公。どちらに共感するかは読み手の考え方次第だと思います。私はというと、どちらかと言えば、「この世界が、この空のような美しいものじゃなくても、『綺麗だな』でいいじゃん」というタイプですが、主人公のような感じ方もありでしょう。

この作品は、エンターテインメント的な物語ではないので、ちゃんとしたオチなどはつきません。そして、拍子抜けするほどあっさり終わってしまいます。しかしラストの「冬の朝の、ベンチから見える東の空は、美しくて、(中略)私は、少しだけ、泣きそうになってしまった」という一文は、強く心に残りました。先輩との対比、そして主人公の最後の独白。変わらない日常は、明日も続くでしょう。きっと泣きそうになる朝の空を、また見ることになるでしょう。

主人公は、その時は素直にその空の美しさを楽しめるようになってくれるといいなと、そんな事を思いました。起承転結がある物語ではないですし、人によっては「何じゃこれは?」と言う感想を持っても不思議ではないとは思うのですが、色々と想像の余地を残してくれる、余韻を残してくれる掌編です。

なおこの作品には一切音楽や効果音がありません。また、背景写真もたったの2種類で、非常に地味です。流石に、ノベルゲームで音楽が全くないと、ちょっと寂しく感じます。特にこの作品は、物語に起伏がある訳でもないですし、雰囲気に合った音楽を何曲かでも流せば、数等味わいの深い作品になったような気がするのですが。これだけ地味な作品ですから、そこらは少し味付けをしても良かったのではないでしょうか。

ツールは吉里吉里です。フォントが大きめで、1行に表示される文字数が少ないので、一画面に表示される文字数自体は結構多いこともありますが、読みやすいです。選択肢はなく、プレイ時間は15分程度。地味な作品ですが、主人公達2人のやり取りは、不思議と心に残ります。日が昇る早朝にプレイしてみれば、ちょっと空の色が「錯覚するほど」美しく見えるかも知れませんよ。
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