第540回/ほのかに、海の味がする - 遺書(三保) - 病院・闘病
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第540回/ほのかに、海の味がする - 遺書(三保)

病院・闘病
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遺書

遺書準推薦
■制作者/三保(ダウンロード
■ジャンル/双方向彼氏彼女の会話ノベル
■プレイ時間/20分

バレンタインデーに、男は恋人が入院している病室へ、彼女が食べたいと言っていたチョコレートを持参してお見舞いに行った。塩味のチョコレートという、ちょっと変わった商品を、彼女は喜んで食べてくれた。男性視点と女性視点の両方でプレイでき、病室の中での何気ない会話から紡ぎ出される二人のかけがえのない時間を描く、短編ノベル。

ここが○

  • 詩的な表現が雰囲気にぴったり。
  • 女性視点でプレイした時のラストのパワー。
  • 背景写真のセンスがとてもいい。

ここが×

  • フォントサイズがあまりに小さすぎる。
  • ラスト以外は、あまり視点が変えられる意味がないような。
  • ハッピーエンドではないので、好みは分かれるかも。

■ほのかに、海の味がする

再び短編作品のご紹介です。タイトルが「遺書」。そのものずばりで、シンプルの極みです。最近は、こういう直球なタイトルの作品って、意外に少ないですね(昔が多かった、という訳でもないんでしょうが)。物語自体も、特に捻ったところがある訳ではなく、テーマ自体も古くからあるものです。

が、テーマ自体が使い古されていても、料理次第で心を打つ作品は作れるのだという、いい見本のような作品です。まず文章がいいです。小説系のちょっとごちゃごちゃした感じではなく、詩のような文章。表現も粋ですし、適度にリズミカルなところもあり、読んでいて表現が素直に心に入ってきます。また、一文の長さを短めにして頻繁に、その改行ピッチを広くとって、左半分だけに文章を表示するという形式も、この作品にぴったりで良かったですね。

遺書この物語の登場人物は2人。2人は恋人同士で、男性視点と女性視点のどちらかを最初に選んで読む事ができます。最初は絶対に男性視点を選びましょう。女性→男性の順に読んでもいいんですが、ラストの感銘が多分全然違うと思います。悪い事は言いませんから、男性視点から読み進めてください。

バレンタインデーに、男性は入院中の女性に、変わった塩味のチョコレートを買って持っていきます。そして病室で会話して、時間が来たので男性は病室を後にする。言ってみれば、ただそれだけのお話です。なのですが、2人の心情を語り過ぎず、行間を上手く読ませる文章が巧みで、読後には何とも言えない余韻を感じさせてくれます。とは言え、男性視点だけで終わったのでは、それでも普通の短編作品に過ぎません。

続けて女性視点。女性視点から読んでも、展開はほとんど同じです。展開としては、病室で会話している時間が一番長いので、読んだ時の印象もさほど変わりません。なので、ザッピングものに特有の面白さはほとんどなく、同じ物語を語り手が変わっただけで2回読む事になり、わざわざ視点を分けた意味があまりないのでは……と思っているところにやってくるラスト前が、非常に強力です。

この終盤で、タイトルの意味も分かり、2人の置かれていた境遇も明らかになります。もっとも、タイトルがタイトルで、舞台が病室ですから、薄々察しがつく人もいるでしょう。それでも、このラストは見事でした。全体を貫く詩的な表現が、最後の女性の手紙にこの上なくマッチしていて、抜群の効果をあげていました。

その後、男性の独白で語られるラストも、短いのですが非常に綺麗で、見事に物語を締めくくっていました。この手のテーマを取り上げた作品は枚挙に遑がありませんが、この作品は、その文章と構成の上手さで、短編でありながら一歩抜きん出た作品になっていると思います。また、男性視点と女性視点を読み終えると、今度は2人の出会いの物語を読む事が出来るのですが、この出会いのストーリーがまたいい。またいいだけに、本編のラストが一層悲しくなりますし、結局ハッピーエンドではないので、好みは分かれるかも知れませんが。

難点ですが、画面写真を見ていただければお分かりのように、フォントサイズがあまりにも小さ過ぎます。もちろん、この作品ならではの詩のような文章や、独特の表示スタイルにマッチしているのは確かなのですが、流石に少々読み辛く感じました。まあ、短編ですからここは少し読み辛くでも、雰囲気重視というのは、ありな選択かも知れませんが。

立ち絵はないのですが、背景写真とその加工方法がとても素敵です。絵はタイトル画面でしか出てこないのですが、それがかえって想像力を高めてくれました。ツールはLive Makerで、プレイ時間は20分の一本道です。プレイ時間は短いのですが、しっかりとした世界観を独特の文章と背景画像だけで構築できており、物語としての満足度はとても高い作品でしたバレンタインと言わず、今すぐに読んでみてください。
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