第543回/騎士と人魚と王子様 - 騎士の恩返し(ラクタイト) - ファンタジー
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第543回/騎士と人魚と王子様 - 騎士の恩返し(ラクタイト)

ファンタジー
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騎士の恩返し

騎士の恩返し■制作者/ラクタイト(ダウンロード
■ジャンル/アナザー童話ノベル
■プレイ時間/30分

ある時、王子様に仕え、流されるままに生きてきた騎士が人魚に命を助けられた。騎士は人魚に恩義を感じ、人魚に恩を返す事を決意する。まずは人魚を探すところから始めないといけないのだが、果たして……。誰でも知っている童話、アンデルセンの「人魚姫」を元に作られた、アナザーストーリー的なマルチエンドファンタジーノベル。

ここが○

  • 丁寧で読みやすい文章。
  • 短いがしっかり作られたマルチシナリオ。
  • 各エンディングで見られる1枚絵が素敵。

ここが×

  • 見た目がちょっと地味すぎか。
  • ブラックだったりグロテスクだったりするので、苦手な方は注意。
  • 会話文が一切ないので、キャラクターの性格が伝わってきにくい。

■騎士と人魚と王子様

ノベルゲームのモチーフって色々あると思いますが、実在の童話を元に作られた作品って、あまりないように思います。ぱっと思いつくところだと、「ゆき☆おん!」があります。あの作品は、キャラクターや設定を借りてきて作られたパロディ的なオリジナル作品でしたが、今作は「人魚姫」をモチーフにして、その世界観は崩さないままに作られたアナザーストーリーと呼ぶべき作品です。

なので、基本的な物語はオリジナルを踏襲しています。主人公は、原作には登場しない騎士。彼が人魚姫に命を助けられたところから物語が始まります。義理堅い騎士は、人魚に恩を返そうと、人魚を探そうとするという序盤です。そしてこの作品は、短編ではあるのですが、かなりしっかりしたマルチシナリオになっています。

騎士の恩返し一般に、マルチエンドの作品は、選択肢で即死バッドエンドになるか(ホラーものに多いパターン)、選択肢で完全な別シナリオに分岐するか(恋愛ものに多いパターン)、どちらかの事がほとんどですが、この作品は選択肢で「if」の世界を味わえるという、昔ながらの王道マルチシナリオ。この選択肢による分岐がよく出来ていて、短い物語ながらマルチシナリオの醍醐味を味わえる作りです。

作者さんによると、何とか構想12年(!?)だそうで、その長さには驚いてしまいますが、この手のマルチシナリオの物語を破綻なく作るためには、そのくらいの年数が必要だったのかも知れません。自分で書いてみると分かりますが、本格的なマルチシナリオを破綻なくまとめるというのは、たとえ短編であってもかなり大変な作業です。この作品は短編ですが、マルチシナリオのノベルゲームとしてとてもよく出来ています。12年の構想を見事に形にした作者さんには、敬意を表します。

この作品のエンディングは合計6つです。選択肢によって5つのエンディングが見られ、5つ全部を見ると途中で選択肢が1つ追加され、6つ目のエンディングへの道が開かれるという仕様です。どのエンディングも、よくある即死エンドなどではなく、その選択肢ならではの展開をして、時には別の方向へと物語が広がっていきます。マルチシナリオの醍醐味を存分に味わえる作りです。

最初から見られる5つのエンディングは、ブラックだったりグロテスクだったりするものがありますので、そういうのが苦手な方は、注意が必要かも知れません。まあ、元の人魚姫も意外と残酷なところがありますから、元の雰囲気に忠実であるとも言えます。そして6つ目がトゥルーエンドという位置付け。原作のイメージを可能な限り壊さないまま、綺麗なハッピーエンドになっており、とても満足の行く終わり方でした。主人公の騎士は、流されるままに生きてきて、生きる目的を見失っていましたが、トゥルーエンドではしっかりそれを見出して、かつ理想的なハッピーエンドになります。トゥルーエンド以外は、ある意味原作より残酷な終わり方もあったりするのですが(笑)、このトゥルーエンドはとても読後感のいい終わり方。分岐ものとしても、テーマを持った物語としても、よく作られたシナリオです。

文章には、会話文は一切ありません。つまり、いわゆる「地の文」しか存在しません。逆ならたまに見ますが、地の文しかない作品というのは少し珍しいですね。これが童話風の雰囲気を出していて、ありなやり方です。ただ会話文がないためか、ノベルゲームとしては若干キャラクターの性格などが伝わって来にくいところはありました。元々童話ですし、これはそういう物語なのだと思って読む方がいいでしょう。でも、そんな文章からもキャラクターの魅力は十分に伝わってきました。騎士や人魚姫はもちろんですが、王子様が素敵です。

プレイ中は、完全に文章しか表示されず、その文章も上で書いたように地の文しか存在しませんので、見た目はかなり地味です。しかし、エンディングでは1枚絵が表示されます。どのエンドの1枚絵も綺麗で、プレイ中が非常に地味だからこそ、ラストの1枚絵の効果が高まっていると思いました。

クリア後は、おまけシナリオが3本読めますが、バッドエンド(と単純に言ってしまうのも少々語弊がありますが)のその後を描いたもの。グッドエンドのその後ならば珍しくないですが、バッドエンドのアフターストーリーというのは見ませんね。そしてそれがまた3本ともしっかり形になっているのです。この辺りを見ても、作者さんのシナリオ構築能力はかなり高いものがあるなと感心させられました。

ツールはNScripterです。全部のエンディングとおまけまで見て、30分くらいだと思います。童話が元という事でいまいち食指が伸びない方もいらっしゃるかも知れませんが、マルチシナリオノベルとしてとても上手く作られていますから、マルチシナリオがお好きな方なら楽しめるはずです。原作の人魚姫の終わり方に納得が行かない方も、この作品のトゥルーエンドでは、とても綺麗な落ちが付きますので、是非読んでみてください。
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