第553回/ごらん、世界は美しい - 初めて泣いた日(久遠寺蒼) - シリアス・感動系
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第553回/ごらん、世界は美しい - 初めて泣いた日(久遠寺蒼)

シリアス・感動系
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初めて泣いた日

初めて泣いた日準推薦
■制作者/久遠寺蒼(ダウンロード
■ジャンル/悲劇の中から世界に開眼ノベル
■プレイ時間/1時間

須藤瑠汐は、恵まれない幼少期を送り、荒れ果てた生活を送る高校生。ある日誰もいない教室で一人の女性と出会う。その女生徒眞美と瑠汐は、それから頻繁に会うようになり、時には瑠汐の自室で時を過ごすが、不思議と2人の間に「ただ会うだけ」以上の関係はなかった。そんなある日、眞美が突然姿を消してしまう。シリアスな学園ドラマ。

ここが○

  • 高い文章力。
  • 悲劇の中に希望を感じさせるラスト。
  • 非常に重苦しい話だが、紙一重で「この世の貴さ」を描き出している。

ここが×

  • 重苦しくて読んでいると疲れる人があるかも。
  • 文章は、色々な意味で読者に優しくない。
  • 主な登場人物が重い物を背負い過ぎて、読むのがなかなか辛い。

■ごらん、世界は美しい

時々古めの作品をご紹介いただいたり、自分で探したりする事があるのですが、この作品も少々古めの作品。2006年ですから、今から12年前です。文字だけの地味な作品ではあるのですが、プレイしてみても一昔前という感じはあまりしません。ノベルゲームにおいても、流行のようなものはあると思いますが、流行を追わない作りだと、年月を経ても古びないという事でしょうね。

この作品は、なかなか重苦しい話が展開します。主な登場人物は、主人公の瑠汐、前半で瑠汐と出会う眞美、後半で瑠汐と関わる事になる都の3人ですが、3人が3人とも重苦しいものを背負っています。特に、幼少期とか生育環境がかなりきついです。そういう生い立ちや環境というものは、当然登場人物の性格にも色濃く反映されていまして、都を除く2人は、お世辞にも感情移入がしやすいキャラクターではありません。

初めて泣いた日なので、読者が物語にシンクロするポイントを見出すのに苦労します。そこは何とか頑張って読んでみてください。後半に登場する都は、素直でいい子なので、そこまでの辛抱です。ただ、都も結局悲劇的な最期を迎えてしまうので、最後の最後まで気持ちよく読む事はほとんどできないのですが(汗)。

この物語は、ともすれば「死を礼賛」するような内容にも読み取れます。私はそのような、死というものを称揚したり、死によって全ての苦しみから逃れられるというような論調の作品には、共感できません。が、この作品がそのような作品と一線を画する点は、ぎりぎりの紙一重で、死を称賛するのではなく、眞美も都も結局死んでしまうものの、その死との対比をもって鮮やかに、生きている事、この世界は素晴らしいものだということを、最後に主人公の瑠汐に悟らせたというところにあるのではないかと思うのです。それは「初めて泣いた日」というタイトルにも現れているのではないでしょうか。

後書きを読むと、最初は死を称揚するような内容だったらしいです。が、その後手を加えたとの事で、その手直しにより、単に死を称賛するのではなく、逆説的に生の貴さを描き出す作品に変わったのではないかと思うのです。それは、ほんのわずかな方向転換だったのかも知れません。しかしそのわずかな方向転換で、読後の印象はかなり変化したのではないかと想像します。そういう意味で、類似の単なる鬱作品と比べて、この作品はそこが評価に値するのではないかと思います。

文章力は高い方だと思います。ただ、時々「こんな言葉あったっけ?」という単語を見ました。例えば「かすり笑い」「口づまる」など。どちらも辞書をひいても発見できませんでした。後者はまだ語感で何となく意味が掴めますが、前者は作者さんの意図を想像するしかありません。もしかしたら、あえて造語を使う事で、想像力を高める効果を狙ったのかも知れませんが、ちょっと気になりました。

それと、読者にあまり親切な文章ではありません。作中に「シド・ヴィシャス」なる人物が、何の説明もなく出てきますが、その人物を知らない私は「???」となりました(瑠汐と眞美が、当たり前のようにその人物を知っている前提で会話しているので、なおのこと)。また、後半では石川啄木の「たわむれに〜」の短歌が出てきます。こちらは私がたまたまその短歌を知っていたので分かりましたが、こちらも知らない人には意味不明です。

「戯れに母を背負いてそのあまり 軽きに泣きて三歩歩まず」と全部書いてくれれば、あの場面と合わせて解釈すれば、誰でも意味が分かったと思うのですが、「たわむれに」と、上の句の5文字しか書いていないのです。作者さんが知識を持っているのは分かるのですが、シド・ヴィシャスにしろ、啄木の短歌にしろ、場面の味付けとして使うなら、もう少し読者に親切でも良かったのではないでしょうか(元が小説だったらしいですから、その関係でしょうけど、それでもこれは不親切だと感じました)。

最後は、瑠汐が関わった女性が2人とも死んでしまうという、悲劇的な終わり方です。特に都は、病気について何らかの伏線が張られている訳ではなく、唐突感も否めません。しかし、眞美、そして都と交流する事で、瑠汐がこれから変わっていき、この世界の素晴らしさに目を開かれたという、前向きなところを感じさせるラストで、決してただの鬱エンドではないと思います。そこがこの作品の、一番の見どころであり、読者の心に迫ってくる点です。

ツールはNScripterです。選択肢は無しで、プレイ時間は1時間くらい。読了後にはおまけシナリオも読めます。タイトルは「初めて泣いた日」ですが、前半で瑠汐が泣くシーンがあるので、そのシーンで終わってしまうんじゃないかと心配したのは、私だけかも知れません(笑)。明るい娯楽作品ではありませんが、骨太なテーマを持った作品です。考えながら読んでみてください。
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