第557回/二年目に見える可能性 - 二年目の天子さん(dolphilia) - 日常
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第557回/二年目に見える可能性 - 二年目の天子さん(dolphilia)

日常
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二年目の天子さん

二年目の天子さん■制作者/dolphilia(ダウンロード
■ジャンル/パニック障害の日常ノベル
■プレイ時間/20分

些細な事を原因に、1年前にパニック障害になった稲倉天子。外出するのも大変で、せいぜい100mか200mくらいが限度という有様。服薬しながら療養しているが、なかなか改善の兆しが見られない。その日も朝9時頃起きた天子だったが、そんな彼女の元に1人の友人が訪ねてきた。パニック障害の日常を綴る、ほのぼの系短編物語。

ここが○

  • 田舎ののんびりした雰囲気がよく出ている。
  • 劇的な展開はしないものの、ほのぼのと心和む展開。
  • オリジナルのBGMがよくできている。

ここが×

  • 特に大きな事件が起こる訳ではないので、拍子抜けするかも。
  • 少々登場人物の癖が強い。
  • もう少しテーマ性を前面に出しても良かったような。

■二年目に見える可能性

以前、統合失調症をテーマにした「シンクロニシティ」という作品をご紹介しました。統合失調症がテーマというのも珍しかったのですが、今作はパニック障害がテーマです。パニック障害と言って「ああ、あれね」と分かる方は、医療関係者か、ご自身または身近な人が患者であるかのどれかではないでしょうか。

パニック障害(恐慌性障害)とは、突然めまい、息切れ、動悸が生じ、今にも死んでしまうのではという恐怖が慢性的に起こる精神疾患です。そのため、普通の人のような外出や、コミュニケーションが非常に難しくなるケースも多々見られます(私の前の職場にもいて、その人は服薬しながら働いていましたが)。私の妻は、パニック障害ではないのですが、双極性障害で(精神障害者手帳2級です)、やはりこういう精神疾患は比較的身近に接していますから、興味を持ってプレイしました。

二年目の天子さんこの手の疾患の大変なところは、周りに本人の辛さが非常に伝わりにくい事です。比較的市民権を得てきたうつ病も、病院で働く医療従事者ですら「あんなの気の持ちようでしょ」という人がいるという事実。そして主人公の稲倉天子は、一年前にちょっとしたきっかけでパニック障害になってから、100m、200m外出するのも一苦労という状態の生活を送っています。

精神疾患をテーマとした作品というと、ハードルの高さを感じる人もあるかもしれません。しかし、冒頭で少し薬についての言及があるくらいで(具体的に薬の名前が出てきたりする訳ではありません)、パニック障害だからどういうというような特別な描写はほとんどありません。唯一途中で少し日常生活のリハビリをする場面もありますが、それもあくまで日常描写の一環として軽く描写されていますので、精神疾患をテーマとした作品だからと身構える事なく、気軽に読めます。

この「過剰にパニック障害を前面に押し出さない」ところは、今作の美点の1つだと思います。こういう物語を書くと、パニック発作で苦しむシーンだとか、そこまでは行かなくても、薬の名前や効能の講釈の1つや2つ垂れたくなるものですが、この作品ではそこら辺りは潔く(?)全部カットし、パニック障害の主人公の、何気ない日常を描く事を中心に添えたのは、私は英断だったと思います。高校を退学したり友達がいなくなったり、結構悲壮感があるはずなのですが、それを感じさせずに淡々と読ませてくれます。

途中、3人のサブキャラクターが登場します。吃音症の小森、男性恐怖症の雫、ハッカー(クラッカー?)集団の構成員である網頭。みんな一癖も二癖もあるキャラクターで、主人公である天子の影がちょっと薄くなってしまった感もあります。天子と小森が一緒にリハビリをしたり、本を読んだりするシーンは好きなのですが、もう少し主人公を盛り立てる構成にしても良かったかも知れません。

この作品のBGMは、どうやらオリジナルのようなのですが、アコースティックギターを主体にした曲で、どれもとてもよくできています。舞台背景などが詳しく説明されてはいませんが、山間の田舎の町という印象で、その印象をBGMがとてもよく支えてくれていると思います。作者さんのサイトで、未使用曲まで含めて作品中のBGMが聴けますから、気に入った方はチェックしてみてください。

物語としては、特に起承転結めいた展開がある訳ではなく、本当の日常風景を描くだけで終わります。そのため、起伏のある物語を好む方だと、「何これ?」で終わってしまうかも知れません。しかし、特に盛り上がる訳でもないラストにも、なんだか希望を感じさせてくれます。肩肘を張ってテーマを力強く訴えるのも物語の1つの方向ですが、私はこれはこれで十分ありなストーリーだと思います。とは言え、もう少しパニック障害を持つ主人公ならではの思い、苦悩を見せてくれても良かったような気はしますが。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢は多いですが、ほとんどは直後の展開が変わるだけで、エンディングに関わるのは最後の選択肢だけです。エンディングは3種類で、20分もあれば全部読めるでしょう。ウィンドウは少しワイドサイズですが、文章表示領域の左右が程よく切られており、文字サイズもちょうどいいため、読みにくさがありません。ウィンドウをワイドにするなら、やはりこういう配慮は欲しいなと感じさせられました。パニック障害というテーマを抜きにしても、日常系ノベルとしてほのぼのできますので、興味がある方は是非プレイしてみてください。
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