第562回/京の深山で風光る - みすずの国(スタジオ・おま~じゅ) - 伝奇
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第562回/京の深山で風光る - みすずの国(スタジオ・おま~じゅ)

伝奇
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みすずの国

みすずの国準推薦
■制作者/スタジオ・おま~じゅ(ダウンロード
■ジャンル/天狗の国で修行ノベル
■プレイ時間/1時間

ある日突然、検査結果が異常を示して、天狗の国である愛宕へ行く事になってしまった美鈴。出迎えてくれたハルカ先生に連れられ、修行生が入る「バラの館」にやってきた。美鈴の部屋には、エリート天狗である鞍馬のヒマワリという少女がルームメイトだというのだが、人間上がりの美鈴は初日から苦労の連続だった。独特の世界観で送るほのぼの伝奇物語。

ここが○

  • 独特の世界観を上手く料理している。
  • 個性的で魅力的な登場人物。
  • 美鈴の感情描写が特に良くできている。

ここが×

  • エフェクトがカットできず、二度目のプレイは少し辛い。
  • 「ハッチング帽」に一瞬悩んだ。
  • 終わり方がいきなりな気が。

■京の深山で風光る

最近、難解な作品や暗い作品、鬱展開な作品が多かったのですが、久々に心和む物語を読んだ気がします。「むこうがわの礼節」の作者さんの作品で、今回の作品も伝奇風味です。伝奇と言っても、「むこうがわの礼節」同様、変におどろおどろしいところは全くなく、特殊な舞台設定が物を言う物語というよりも、登場人物達の心情描写ややり取りを重視した作りという辺りも同じです。

そしてこの作品は、登場人物、わけても主人公の美鈴の心情描写が巧みで、それだけで十分読ませる作品になっている辺りが流石です。物語として見ると、特に何か伏線がある訳でも、ラストでどんでん返しがある訳でもなく、ある意味淡々と進みます。が、異世界に一人放り込まれた美鈴の戸惑いとちょっとした成長を、見事な筆致で描き出しており、心和むひと時を過ごす事ができます。

みすずの国この作品は、言ってみれば「異能もの」なのですが、そんじょそこらの異能ものとは一線を画する内容です。異能を判定するのが血液検査。その結果異能者であると判定されると、高校受験すらも諦め一生陽の目を見ない生活に甘んじるか、それが嫌なら「天狗」の国で修行をして、「優良超過者」と判定されるしかありません。そうすれば普通の人と変わらない生活ができるのです。

そして、通常の異能ものと大きく異なるのは、主人公は人間の側からしても異端者であるだけでなく、天狗の国でも「人間上がり」として異端者扱いされてしまうところ。この異邦人な感覚がとても上手く描かれています。なのに美鈴には悲壮感がなく、和やかさすら感じさせるんですよね。この設定が非常に物語にマッチしています。この舞台設定のアイディアだけでも大したものだと思います。またアイディア倒れではなく、この設定が物語を最大限生かしているのが見事なところ。

登場人物達は結構多いのですが、どのキャラクターも埋没していません。「むこうがわの礼節」で感心させられた、軽妙で深みのある台詞のやり取りも健在です(こちらの方が公開が先なのですが)。自信家ながら嫌味がなく、あけすけに物を言う鞍馬の姫、ヒマワリを筆頭として、天狗側のキャラクターも人間側のキャラクターも魅力的です。この尺でこの登場人物数を考えると、作者さんの描写力はかなりの物だと思いました。立ち絵の表情がまたいいですね。どのキャラも表情豊かで、文章と立ち絵の相乗効果でキャラクターが一層魅力的です。個人的には、序盤しか出てこないハルカ先生が、中盤以降も活躍してくれると良かったのですが。

ただ、物語として見た場合は、「世界観の紹介」くらいで終わってしまっている感も否定できません。終わり方もちょっと唐突です。もちろん、これはこれできちんとまとまっていますし、ラストもあそこで切らないと、かなり長い物語になる事でしょう。その意味では、あそこでしか切りようがなかったとも言えますが、できればもっと先を読んで、美鈴の成長や仲間達との交流を見てみたかった気がするのですが……。

あるいは、せめて美鈴のこの先の希望を読者に見せるため、少しでも人間上がりの天狗として成長してくれたところを見せてくれれば、かなり印象が変わった気がします。現状では、ヒマワリとの関係や、愛宕の里で生きていく心境こそ一歩前進したものの、天狗としての美鈴には成長がない訳ですし。まあそう思わせられるのも、作者さんのストーリーテリングが優れている証左に他ならないのですが。

ツールは吉里吉里ですからスキップも高速なのですが、エフェクトが割とゆっくりで、しかもスキップでカットできないので、これは結構困りました(一本道だからあまり影響がないかも知れませんが、私がレビューを書く際には、特定のシーンを結構何度も読み返す事がありますので)。それと途中で出てきた「ハッチング帽」と言う表記には、一瞬悩みました。多分「ハンチング帽」(hunting cap)ですね。

後半の、美鈴とヒマワリの衝突、そこからの美鈴の心境の変化は、とても見応えがあります。取り立てて大きな事件が起こっていないのに、これだけ読ませる物語にできるのは、作者さんの筆力の成せる技でしょう。この作品の世界観を用いた続編も公開されているようで、細かい謎はそちらで明かされるのかも知れません。が、この作品単体でも十分楽しめると思います。

選択肢のない一本道で、プレイ時間は1時間くらいだと思います。物語の説明を読んだだけだと、なんだか独特の世界観に好みが分かれそうな内容にも思えるのですが、そんな事はありません。よくできた舞台設定を読み手に納得させるだけの描写力が卓抜しており、誰が読んでも楽しめて、心がほんのり温まるはずです。
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