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第577回/長くて短いひと時の夜 - ひとトキ(秋雨)

2019年01月15日
不思議系 0

ひとトキ

ひとトキ■制作者/秋雨(ダウンロード
■ジャンル/廃屋で時計頭と語らうノベル
■プレイ時間/30分

大切な懐中時計を無くしてしまった少女アリアは、時計を探して廃屋の中に入り込んだ。廃屋の中にいたのは、時計の頭を持つ謎の男。彼は懐中時計をしばらく預かるという。異様な見た目だが、その男に何故か惹かれたアリアは、彼の事を「オル」と名付け、翌日も廃屋に足を運ぶ部のだが。雪の降る夜の廃屋の雰囲気が神秘的な短編物語。

ここが○

  • 夜の廃屋の雰囲気が神秘的。
  • 少女漫画風の絵が作品に合っている。
  • 全部のエンドを見ると分かってくる世界観。

ここが×

  • どうも語り足りないところがある気がする。
  • キャラクターの描写に統一感がないような。
  • 終わり方がかなり突然。

■長くて短いひと時の夜

最近は、旧作を積極的に発掘しているのですが、旧作ばかりだとバランスが悪いですから、新し目の作品にも当たらないといけません。そして、この作品は完全版の公開が去年の12月ですから、かなり新しい作品ですね。旧作には旧作ならではの良さがありますが、新しい作品には新しい作品にしかない刺激があります。新旧バランスよく取り上げていければと思っています。

この作品は、キャラクターの見た目になかなかインパクトがあります。主人公こそ普通の可愛らしい女の子なのですが、相手役は、頭が時計の男。初めて見た時は驚きました。色々と見た目が変わった登場人物が出てくる作品は過去にもありましたが、時計頭の男というのは、ちょっと記憶にありません(笑)。

ひとトキ主人公のアリアは、ある日些細な刺激を求めて、とある廃屋に忍び込むのですが、その時に大切な懐中時計を落としてしまいました。時計を探すために、夜に再びその廃屋へ足を運びます。その懐中時計は故障して動かなかったのですが、廃屋の中に響く時計の音。その音に導かれるように奥に進むと、そこにいたのは時計の頭の男(笑)。このビジュアルはかなり強烈です。

ただ、意外と違和感がないんですよね。それは、背景画像などを含め、夜の廃屋の雰囲気作りがとても上手く行っているのも一因でしょうし、また全体を通して絵本のようなファンタジーめいた空気感を上手く出せている事にも原因があると思います。「この世界観、この雰囲気なら、時計の頭の男がいてもおかしくないよね」と思わせてくれるのです。こういう雰囲気作りは狙って出せるものではありません。作者さんのセンスを感じます。

そして、夜の廃屋で時計頭の男とのひととき。この作品、そこまでドラマティックな展開を見せる訳ではありませんし、少々説明不足なところも見受けられます。エンディングは4つあるのですが、トゥルーエンドと思き終わり方以外では、何が何だか読み手に伝わらないのですね。トゥルーエンドまで見ると、なるほどそういう背景があったのかと思わせられるのですが、トゥルーエンド以外でも、少し真実を匂わせるような描写を折り込み、「引き」を作ればより良かったように感じました。

そのトゥルーエンド。アリアの祖母の話がここで繋がってくるとは、とちょっと感心しました。悲しいと言えば悲しい真実ではありますが、決して希望のない終わり方ではありません。もう少し後日談のようなものがあれば読後感が良くなったような気もするのですが、一番のピークですっぱり切るこのやり方も、これはこれでありだと思います(エンドロールくらいはあってもいいのではないかと思いましたが)。

ただ、アリアにしろオルにしろ、ちょっとキャラクターの描かれ方に一貫性というか、統一感がないような気がしました。アリアやオルがどういう人物で、何を考えていてそういう台詞を言ったのか、どういう心情でその行動に及んだのか、それが伝わって来にくかったのです。これは、文体が三人称という事も関係しているかも知れませんが、三人称の割にアリアの心情は頻繁に描写されますから、それだけという訳でもなさそうです。

逆にその気になる点が、全体を貫く何とも言えない不安定で仄暗い雰囲気を醸し出しているとも言えますから、これがこの作品の作風だと思えば、気にならないかも知れません。人物画と言い背景画と言い、あまりデジタル全開っぽくない、水彩画風の画風が、とてもいい味を出していますし、寒色系の色使いや、タイトル画面の雪が降る演出も素敵です。

ツールはティラノスクリプトです。文字表示速度を変えられないのを除けば、まずまず快適にプレイできます。プレイ時間は30分程度です。選択肢がエンディングに直結するので、攻略は全然難しくありません。見た目はなんとなく色物っぽいですが(あえて画面写真に時計頭を出しませんでした)、プレイしてみると全然そんな事はなく、ファンタジー寄りの日常話という感じです。理屈よりも感情で味わってみてください。
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この記事を書いた人: NaGISA
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