第579回/踏切には幸せが戻ってくる - 踏切(さくらミント) - オムニバス・その他
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第579回/踏切には幸せが戻ってくる - 踏切(さくらミント)

オムニバス・その他
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踏切

踏切準推薦
■制作者/さくらミント(ダウンロード
■ジャンル/踏切オムニバスノベル
■プレイ時間/1時間半

踏切を舞台にした、6編の短編を集めた作品集。高校生の他愛のない冒険?あり、サラリーマンが巻き込まれた事故を綴ったサスペンスあり、踏切で繰り広げられるバトルもの?あり、そして踏切での悲しい別れと再会の物語あり。1分で読める掌編から、それなりの長さの物語まで、バラエティ豊かな作品をご賞味あれ。

ここが○

  • 様々なジャンルの作品が楽しめる。
  • 特に最後の話「おかえり」は、意外なラストにびっくり。
  • 「羨望」のぞわぞわ来る怖さ。

ここが×

  • 中には中途半端でオチがないような話もある。
  • 一度読んだ話をもう一度読むには、ロードするしかないのが少し不便。
  • 「おかえり」は、少し文章がおちゃらけ過ぎている気も。

■踏切には幸せが戻ってくる

また懐かしい作品です。初出は2005年。「月照〜ツキノテラス」の作者さんの作品ですが、当時としては珍しいフルボイスに、超美麗グラフィックスだった「月照」に対し、この作品は何とも地味です。立ち絵も1枚絵もなく文章だけで淡々と進んでいきます。しかし、淡々と進む中に時々はっとするような一撃が来る、よくできた短編集。さくらミントさんの芸風の広さを味わえる一作です。

入っている作品は全部で6本。馬鹿馬鹿しいほどのナンセンス作品があるかと思えば、本格的なサスペンスがあったり、さらにしっかり感動させてくれる作品も入っており、作風も幅広いです。作風だけではなく、プレイ時間も色々で、ものによっては1分で終わってしまい、「あれ、もう終わり?!」と思ってしまうものも。まあそれはそれで、箸休めとしていいアクセントになっていましたので、ありかなと思いました。

踏切1本目、「青春18切符(仮)」。高校生が書店にエロ本を買いに行く話です(笑)。馬鹿馬鹿しいネタですが、店内の移動を図で見せてくれるなど、演出が面白く、くだらないと言えばくだらない話を、きちんとエンターテインメントにしています。オチもよく効いていました。導入にぴったりの小品です。

「アルミ缶」。ホームレスの男と、彼が飼っている犬のお話。途中までは独特の生活感が面白いのですが、何もオチが付かずに唐突に終わってしまいます。ちょっと拍子抜けしました。「羨望」は、ブラック企業に務めるサラリーマンが主人公の、ちょっとしたサスペンス。じわじわ来る怖さがあり、読後感は良いとは言えないのですが、短編サスペンスとしてよくできた話でした。

「海」として「男の戦い」は、1〜2分で読める掌編。「海」は、ホラーっぽい、考えると怖いタイプの物語。そして「男の戦い」は、ただの日常をバトル風に描いたものですが、見知らぬ者同士で勝手にこう思っていると考えると、意外と「いつも同じ風景」というのは悪くないなと思わされました。私が地下鉄で毎日出会う名も知らぬ人々も、案外自分の中でそれぞれの物語を作っているかも知れません。

そして最後の「おかえり」。この話は一番長く(長いと言っても短編の範疇ですが)、物語の作りも凝っています。10年ぶりに故郷に帰ってきた主人公が、幼い頃の約束を頼りに、幼馴染の女の子に会うという幼馴染再会ものですが、二重に仕掛けられたトリックが実に巧妙です。そのトリックを不自然に見せないための描写もとてもよく出来ており、読み終えた時に唸らされました。

ただこの物語は、文章や一部の背景画像におちゃらけが過ぎている箇所があるのが、ちょっと気になりました。せっかくのいい雰囲気や、展開のテンポが損なわれているという場面が何度かあったのです。笑いを取りに来ているのかも知れませんが、無理に笑いを取らなくても、十分物語として面白いのですから、普通に描写して欲しかった気がするのですが。

そして全6本の短編が収められた短編集なのですが、レビューする際にはちょっと困った事もありました。それぞれの物語を読み終えると、最初からプレイできなくなってしまうのです。「物語を読む」というのをクリックすると、読了した次の物語から始まるのですね。レビューする時は、特に短編の場合は同じ作品を数度読む事も多いので、これには少々面食らいました(セーブしておけばいい事なのですが)。

ツールはNScripterです。プレイ時間は1時間半くらいでしょう。選択肢はありません。クリア後は、「回想」からそれぞれのシナリオを読めるようになります(これが読了前にも使えていたら親切だったのですが)。見た目地味な作品ですが、短編集として高品質で、特にラストの「おかえり」は、単体の作品としても十分通用する、上質な感動を与えてくれると思います。13年以上前の作品ですが、今でも全く古さは感じません。派手な物語に疲れた時は、こういう短編集はいかがでしょうか。
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