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第581回/タネも仕掛けもここにあり - 更け行く秋にサングラスをかけて(フリーゲーム讃歌)

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更け行く秋にサングラスをかけて

更け行く秋にサングラスをかけて■制作者/フリーゲーム讃歌(ダウンロード
■ジャンル/タネと仕掛けの恋愛ノベル
■プレイ時間/40分

予備校の特別講習を受講した高校生の浅川美央。バスを待つ間に入るコンビニで、いつも見かける店員の事がちょっと気になっていた。名札を見て苗字が一之瀬である事を知ったが、美央は一之瀬を学校内で見つけ、同じ高校の先輩である事を知る。そんなある日、公園でたまたま一之瀬を見かけた美央は……。夢を求める女子の恋愛ノベル。

ここが○

  • 立ち絵、一枚絵がとても綺麗。エンディング曲も素敵。
  • 夢を追い、夢を求める2人の描写が良い。
  • 美央と一之瀬の距離感が上手く描けている。

ここが×

  • 突然キレる美央にはらはらする。
  • 恋愛ものとしては、よくあると言えばよくある物語。
  • 手品関連の描写に少し突っ込みどころ。

■タネも仕掛けもここにあり

学園恋愛ノベルゲームって、新しい要素を盛り込むというのはなかなか難しいのですが、この作品は珍しいです。何せ、登場人物の1人である一之瀬の趣味が、マジック(手品、奇術)。趣味が手品という登場人物は、フリーの作品では初めて見たかも知れません。私も趣味でマジックをやりますので、大変興味深く読む事ができました。

そしてこの作品は、「Cranky Apple」の作者さんが作られたものです。たまたま作者さんの名前や、他に作られた作品をチェックして、過去にレビューした事のある作者さんだったりすると、なんだか昔の知り合いに偶然出会ったような気持ちになり、妙に嬉しくなります。こんな事を考えるのは、私だけでしょうか。

更け行く秋にサングラスをかけてさて、この物語の主人公は、高校2年生の浅川美央。学校帰りに予備校の講習に通っており、講習が終わった後、バス待ちの暇つぶしとして、いつもコンビニに立ち寄るのですが、そこで時々見かける店員が気になっていました。会計はまだしも、その後袋に詰める作業が妙に遅く、美央はいつもはらはらさせられています。名札を見て、彼の名前が「一之瀬」である事は分かったのですが、それ以外の事は分かりません。

基本的な登場人物は、ほぼ美央と一之瀬の2人だけです(美央の友人や、観客役の小学生達も出てきますが)。美央は一之瀬の事を、単なるコンビニの店員としか認識していなかったのですが、中盤で一之瀬が公園で小学生達にマジックを披露しているところを、美央がたまたま見つけた事で、物語は少しずつ動き始めます。

一之瀬が最初に披露しているのは、安全ピン同士が繋がる「リンキングピン」と呼ばれる作品ですね(やり方は色々あるけど)。私も気に入っているトリックでよく演じますので、ちょっと一之瀬に親近感。ただ、リンキングピン1つしか演じないのに、わざわざ舞台を整える必要あるのかとか、鳩だしをストリートでやるのはちょっと無理があるんじゃないかとか、マジック関連の描写には若干の突っ込みどころもあるのですが、それでも色付けとしては、個性的でとても良かったと思います。一之瀬が、美央に空の手から造花を出すマジックを演じ、そのままその花をプレゼントするシーンがありますが、これが様になるのはイケメンだけです(笑)。

この作品、美央がだんだん一之瀬の事が気になり、いつの間にか惹かれていく様子が、とても上手く描写されています。そして、まだ将来の夢が全く見出せない美央は、プロマジシャンという夢がある一之瀬に自分の夢をも託すのですが……。ここら辺りの、2人の関係性の描写もとても良かったと思います。夢を追いかける一之瀬と、夢を求めてもがく美央という、対照的な2人が、とてもコントラスト豊かに描かれていました。

ただ、美央が真実を告白すべく一之瀬を公園に呼び出した場面では、簡単によく分からない理由でキレてしまった美央に、少々やきもきさせられましたけど(笑)。せっかくの一之瀬の初の晴れ舞台も、美央がその場に居合わせる事はできない展開になってしまった訳で、一之瀬の初舞台を美央が客席から見るという展開を、読んでみたかったような気がしました。

この物語は、恋愛ものではあるのですが、美央が一之瀬に隠している些細な秘密、一之瀬のプロマジシャンという夢、そして夢が見つからずにさまよっている美央の焦りと引け目というのが、恋愛要素以外にも絡んできて、あまり長くはないストーリーなのですが、非常に立体的なシナリオとなっています。元々小説だったらしく、文章力の高さも含めて、宜なるかなと思わせられました。よくあるテーマでも、マジックというちょっと変わった味付けと、複数の要素を有機的に絡める事で、完成度の高い物語が出来るといういい見本です。

この作品、絵が大変綺麗です。一枚絵の数もさほど多くはないのですが、どれも構図も凝っていて、小説の挿絵のよう。また、エンディングではなんとオリジナルの歌付きエンディングテーマが流れます。オリジナルですから、当然歌詞の内容が物語とよく合っていて、読後の余韻を一層高めてくれました。また読了後にはおまけで、没になったラフ絵も見られたりして、最後まで楽しめます。

ツールはLive Makerです。選択肢のない一本道で、プレイ時間は40分程度。シナリオのアウトライン自体は、よくあるといえばよくある物語ですし、タイトルにもなっているサングラスが、小道具としてもう少し活躍しても良かった気はしますが、構成の巧さと2人の関係描写の上手さで、大変読ませる作品に仕上がっています。女性が主人公の恋愛ものですが、男性が読んでも楽しめますので、安心してプレイしてみてください。
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