第587回/いつか重なる二本の針 - 時計の針が止まる前に(Sator) - 学園・青春
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第587回/いつか重なる二本の針 - 時計の針が止まる前に(Sator)

学園・青春
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時計の針が止まる前に

時計の針が止まる前に■制作者/Sator(ダウンロード
■ジャンル/幼馴染の思春期友情ノベル
■プレイ時間/1時間

中学生の町田律と水橋大和は、家が隣同士で幼い頃からいつも一緒にいた幼馴染。だがしばらく前から律は些細な事でいらいらし、大和の事を疎ましく思うようになっていた。その日も、大和が一緒に帰ろうと誘ってきたのだが、律はにべもなく断ってしまう。律がそのような態度になったのには、きっかけとなる事件があった。思春期の友情を描いた青春物語。

ここが○

  • 一人称的三人称を巧みに用いた心情描写が非常に丁寧。
  • 大和がとにかくいい奴。
  • 一枚絵が美しく効果を高めている。

ここが×

  • 逆に、大和以外の登場人物がちょっと悪人過ぎ。
  • 心情描写が丁寧すぎてくどい箇所も。
  • 終わり方が唐突。おまけを本編に含めても良かったのでは。

■いつか重なる二本の針

幼馴染ものはフリーのノベルゲームでは定番のテーマですが、この作品は主人公もその幼馴染も男という点で、非常に珍しい物語です。と言って、別にBL的要素がある訳でもなく、純粋に男同士の友情を描いています。なので、恋愛要素などはゼロなのですが(そもそも、女性キャラは主人公の母親や姉くらいしか登場しない)、その分思春期の感情の機微を上手に描き出しており、読み応えのある一品です。

主人公の町田律は、取り立てて優れた所のない、ごく普通の中学生です。そして彼の幼馴染である水橋大和は、勉強もスポーツもでき、人望もあるクラスの人気者。典型的な優等生タイプ。その大和に引け目を感じて、律はだんだん大和を遠ざけるようになるというのが出だしです。男女の幼馴染では間々見る展開ですが、この作品はそれを男同士でやっているのが新しい所です。

時計の針が止まる前に男同士だと、男女の場合よりも「相手に引け目を感じて距離を置く」というのはあまりないように思えますし、上手く描写しないと説得力を欠く展開になるのではないかと、読みながら危惧していたのですが、この作品は三人称でありながら、律の言動を通じての彼の心情描写が実に細やかで、その心配は杞憂に終わりました。

この幼馴染の大和が、優等生で人気もある上に、更に性格も実にいい奴なんですよ。妙に心がささくれ立って終始苛立っている律を、決して見放さずに支え、更にはクラスメイトの心無い言葉からも律を守ろうとする。男から見ても格好いい、いい友達ですよね。こういう友達は大事にしないとなあと思わされました。

反面、大和以外の登場人物は、大人も子供も含めて、もうちょっと何とかならんのか、と思ってしまいました。律は、平凡な子供というだけで、特に問題がある訳でもないのに、クラスメイトも結構酷い事を言いますし、作中の葬儀のシーンでの大人たちの言葉もかなり酷いです。あそこまで言われるような事を、律は何もしていないように思うのですが……。この葬儀のシーンは、物語の鍵となるイベントで、展開の為には必要なシーンであるというのは分かるのですが、もう少しやりようがなかったでしょうか。

そして後半。律と大和が、お互いに本音をぶつけ合って和解するシーンは名場面です。この作品は、立ち絵はないのですが、所々に一枚絵が挿入され、それがまたいいタイミングで来て、感銘を高めてくれるんですよね。それほど大きな起伏がある訳ではないのですが、中盤で挿入される回想で語られる、律の心が荒れるきっかけの事件も効果的に効いており(大人たちの言動がアレというのは置いておきまして)、構成も上手く作られていると思います。

上でも書いたように、三人称にも関わらず、言動から心情が推し量られるような描写が見事なのですが(一人称風三人称とでも言いましょうか)、時々語られ過ぎてしつこく感じる場面もありました。律が終始ネガティブオーラを放射していますから、それも無理からぬところではありますが、律の性格が性格ですから、その辺りの描写には、もう少し抑えを効かせても良かったかも知れません。

ラストは、大和が律に「今日は何の日か当ててみて」と言い、結局律が答えないまま終わってしまいます。突然の終わり方に驚いていたら、タイトルからおまけストーリーが見られて、そこできちんと落ちがつきます。このおまけは、本編に入れても良かったような気もするのですが、大和の側から語られた物語により、シナリオが厚みを増しており、終わり方も定番の手法ながら綺麗。まずは理想的なハッピーエンドと言えましょう。

ツールはLive Makerです。選択肢はなく、おまけまで全部読んで1時間弱というところだと思います。女性キャラがほとんど登場しないので、男性プレイヤーには惹きつける力が弱いかも知れませんが、丁寧に男同士の友情を描いており、男性が読んでも女性が読んでも楽しめるでしょう。男性の友情物語という事で、硬派な一面もありますが、感情の描き方などには非常に柔らかさも感じます。男女を問わず読める物語だと思いますよ。
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