第588回/心は人の絶対領域 - 西暦2236年の秘書(Chloro) - SF
FC2ブログ

NaGISA net - フリーノベルゲームレビュー

ARTICLE PAGE

作品リスト − 新着順名前順プレイ時間順ジャンル別掌編
久住女中本舗作品リスト - 新着順/名前順
Peing質問箱(リクエスト、ご質問お気軽に)

第588回/心は人の絶対領域 - 西暦2236年の秘書(Chloro)

SF
  • comment0
  • trackback-

西暦2236年の秘書

西暦2236年の秘書■制作者/Chloro(ダウンロード
■ジャンル/人工知能が振袖の夢を見るノベル
■プレイ時間/1時間

西暦2236年。スマートツールス用のAIシステムが一般的になって来た世界。高校生のヨツバと、彼の秘書AIマスコは、新しい年の始まりをささやかに祝い合っていたが、マスコがヨツバにご褒美のつもりでプレゼントした仮装コインが、とんでもない額になっていた。一体何が起こったのか? 未来のAIを通じて人間の心のあり方を問う物語?

ここが○

  • AI秘書のマスコが可愛い。絵も綺麗。
  • SF設定が結構それっぽい。
  • 心について考えさせられる内容。

ここが×

  • 設定はそれっぽいが、ただ1つの設定はちょっと引っかかる。
  • 特に落ちが付く訳ではないので、人によっては肩透かしかも。
  • コンピューターに詳しくないと一部の説明はよく分からないかも。

■心は人の絶対領域

ロボットやアンドロイドが登場する作品は割とよく見ますが、AI(人工知能)が登場する作品はそれほど多くありません。すぐ思い出すのは「遠来」のMIKANと、「Leanan-Sidhe」のココロでしょうか。スマートフォンの中にいる存在という意味では、「 FeARy-電子妖精の囁き-」も少し思い起こさせます。

この作品の舞台は、タイトル通り西暦2236年の未来。その時代には、今のスマートフォンをもっと高性能にしたような「スマートツールス」が普及しており、さらにスマートツールス用のAIである「PASS」が一般的なものとなって来ていました。そして、初期型のPASSであるマスコと、彼女の持ち主である高校生のヨツバの、(一見)他愛のない交流を主体にした物語です。

西暦2236年の秘書とは言え、意外と構成は凝っています。例えば冒頭でヨツバはとんでもない額の仮想コインを手に入れるのですが、ちゃんとストーリー展開上意味があり、ラスト近くではその謎が明かされます。なるほどと感心させられました。その他、ヨツバとマスコの交流がメインではありますが、時には学校の先輩との話や、その先輩のPASSとのエピソードも交えながら、物語は進行していきます。

今から200年の未来という設定ですが、SF的な描写はなかなかそれっぽく、PASSについての描写もしっかりしています。SFでは、いかに読み手に「何となくそれっぽい理論を、いかに説得力を持って描くか」がポイントですが、かなり説得力のある説明がなされていると思います。作者さんが、コンピューターやネットワーク、AIについて専門知識がある方なのかも知れませんね。

ただ1点、この世界ではほとんど自分の声で会話する事はなくなっており、一種のテレパシーでコミュニケーションをとる、という設定だけは引っかかりました。SF的にはありな設定かも知れませんが、医学的に考えて、それが日常化してしまったら、恐らく口腔嚥下機能が著しく低下して、高齢者の誤嚥性肺炎が深刻な社会問題になるでしょう(むしろ、今でも既になっているというのに)。個人的には、「いくら技術が進歩しても、そこを面倒臭がったら終わりでしょう」と感じましたが。

この作品、マスコの立ち絵が凝っていて可愛いです。スリープモードの時には、上の画面写真のように実際に横になっている絵が出たり、他にも色々な挙動を見せてくれて、飽きさせません。見た目だけでなく、ヨツバとのやり取りも面白く、単にAIとの交流ノベルだと思って読んでも十分楽しめるでしょう。

しかしこの物語の主眼はそこではないように思います。実はこの物語、明確なエンターテインメント的な落ちというものがありません。もちろん、冒頭の大量の仮想コインの謎が解けるなど、それなりに起伏はありますが、普通の物語のような「盛り上がり所」「落とし所」はありません。それらの、それなりに仕込まれた伏線は、全てある目的を向いているように、私には感じられました。

それは、「人間の『心』と、人工知能の『心のようなもの』は、似て非なるものであり、人工知能は人間にはなり得ない」という点です。そういうテーマを示唆するようなイベントは前半からありますし、ラストは正にそれを言い表すためにああいうイベントを持ってきたのではないかと感じました。その意味で、この作品は一見「技術が進歩して人間と変わらないようなAIが作れるんだよ〜」という、夢のような未来を描いているように見えて、実は古くは鉄腕アトム辺りから描かれている「ロボットも心を持ちうる」というある種の幻想に対しての、アンチテーゼのようにも私は思えました(もし的外れだったらすみません。私はそう感じた、というだけです)。

なのて、普通の物語のような、エンターテインメント性に富んだ物語ではありません。ラストも「え、終わるの?」と拍子抜けしてしまうくらい、あっさりと終わります。ですが、もしこの作品が上のようなテーマを持っているのであれば、テーマを立派に描いた構成とも言える訳で、この作りはある意味正解なのかも知れません。また、言葉を喋らずにテレパシーでコミュニケーションできるという、ある意味やり過ぎな設定も、「そこまで科学技術が進歩しても、やはり心というのは人間のものなのだ」というのがテーマだとしたら、その設定もありなのかもと、最後まで読んだ時に思いました。

ツールはAdobeの「Air Novel」で、インストール作業が少々煩雑です。プレイ感覚も他のツールとはだいぶ違うのですが、慣れれば問題はないでしょう。マスコの立ち絵だけでなく、グラフィックスは全般に凝っており、未来の雰囲気満点です。単にマスコとの交流物語として読むもよしですし、色々考察してみるのも面白いかも知れません。ただ、コンピューターに詳しくないと、一部の説明はよく分からないかも知れませんが……。選択肢はなく、プレイ時間は1時間。考えさせられる事間違いなしの物語です。
関連記事

Comments 0

Leave a reply