第600回/説法少女はマーシフル - マーシフルガール(Rhinoceros Horn) - シリアス・感動系
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第600回/説法少女はマーシフル - マーシフルガール(Rhinoceros Horn)

シリアス・感動系
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マーシフルガール

マーシフルガール推薦
■制作者/Rhinoceros Horn(公開終了)
■ジャンル/生と死を見つめるSF風ノベル
■プレイ時間/5時間

アンドロイドが日常のものとなった近未来。主人公は理想のアンドロイドを作る為に会社を退職したアンドロイド技術者。1年もの努力の結果、究極のAIを搭載した女性型アンドロイドを完成させ、そのアンドロイドをビッグデータと呼ばれる知識の海に接続したが、彼女の様子が何だかおかしい。初期仏教とSFを融合させ、生と死を見つめる骨太な物語。

ここが○

  • 原始仏教とSFの融合というアイディア。
  • アンドロイドが語る人生観が深い。
  • 死生観、終末医療、そして家族の絆という重い3つのテーマを無理なく融合。

ここが×

  • エンターテインメント性という点では物足りない面も。
  • 「〜の方」があまりにも連発され過ぎ。
  • いきなり終わってしまう。

■説法少女はマーシフル

600回目の節目のレビューは、作者さんが自らプレイして欲しい旨をくださった作品です。そしてこの作品は、スマートフォンでしかプレイできません。リクエストをいただいた際、私はスマートフォンを持っていなかったのでプレイできませんでしたが、先日ようやく私もスマートフォンを購入しましたのでプレイしてみました。

スマートフォンでのノベルゲームは、実は妻のものを借りて少しやってみた事があります。やはりあの画面でずっとプレイするのは少し辛いものがあります。この作品も、字が小さいのは仕方ないのですが、テキストウィンドウがなく、背景の上にそのまま文章が表示されるので、文字がかなり見辛いのですね。液晶画面が暗くなると、一層読み辛くなります。せめて、ある程度透過率を落としたテキストウィンドウがあれば、かなり見やすさが違ったと思うのですが。

マーシフルガールこの物語の舞台設定は、アンドロイドが一般的となった近未来。主人公は、三十代半ばの男性。介護用アンドロイドの開発エンジニアでしたが、会社をやめて、理想的なアンドロイドを作るべく1年間の研究開発を続けてきました。ようやく完成したアンドロイドをいよいよ起動させるところから、物語が始まります。この主人公が、いい年をしてロリコン趣味だったり(作中で主人公は自分がロリコンではないと熱弁してますが(笑))、世俗的な欲に塗れていたりしてちょっと笑ってしまいますが、これも作品の要素としては重要ですので、最初はそこはこらえて読んでください。

ひとしきり基本的な訓練を終えた後、主人公はアンドロイドを、「ビッグデータ」と呼ばれる、クラウド上のあらゆる知識のデータベース(Wikipedia的なもの?)にアクセスさせたところ、アンドロイドの様子が何だか妙です。なんとアンドロイドが、人間でいうところの「悟りを開いた」ような状態になってしまったのでした。かくて、前半は自我がなく、悟りを開いた(と言えるのか?)アンドロイドが、煩悩の塊のような主人公に、諄々と生きる事の意味や人間の思い違いを説いていく様子が描かれます。

ここで描かれるのは、初期仏教の教えらしいです。深遠で哲学的な論議もありますが、大変分かりやすく、クリスチャンである私にも得心がいくものでした。哲学的な作品の中には、あまりに難解で、作者さんの言いたい事が全然伝わってこないものもあるのですが、この作品ではそういう事は全くありませんでした。単に難しい理論をこねるのではなく、作者さんが非常に深く勉強している事が伝わってきました。

この作品、まずアイディアが秀逸です。悟りを開くというのは人間には簡単にできるものではないですが、自我のないアンドロイドが、ビッグデータにアクセスした結果、そういう境地になるという描写には、なるほどと思わせる説得力があります。そして、アンドロイドが「あなたがた生命は」と説くのですから、嫌味もありません(主人公は嫌がってますが(笑))。作者さんの発想には恐れ入ります。

そして後半は、主人公が実家に帰省し、育ての両親と会います。ここからは、実はアンドロイドの影が少々薄くなります。前半でのアンドロイドの教えを元に、主人公が生と死に対して向かい合う、というような内容です。物語としては、特に伏線や謎がある訳ではなく、誰にでも起こり得ることを、丁寧に描写しているに過ぎないのですが、描写がリアルで、主人公や主人公の育ての父の葛藤、育ての母が死を受け入れていく様子、そこにアンドロイドが時々絡んで彼らをほんの少し支える様子が実に上手く描かれており、大変読み応えのあるドラマが展開します。

事実を淡々と描写している感じで、エンターテインメント的なドラマがある訳ではありません。しかし、非常に印象的なシーンもいくつかあり、心を動かされました。わけても、介護保険調査の職員が育ての母に、主人公を指して「この人は誰ですか」と尋ねるシーン。このシーンは、この数ヶ月プレイした作品の中でも、屈指の名場面でした。私自身、ずっと医療や介護の現場で働いていますので、そういう意味でも身につまされる箇所が多く、大変感銘を受けました。死生観に加えて、血が繋がらない家族の絆をも、見事に描き切っていると思います。育ての母だけでなく、厳しく不器用な育ての父と主人公の関係も、魅力的でした。

また、育ての母の主治医もとてもいいキャラクターでした。終末医療についても大変考えさせられる内容です。死生観、家族の絆、そして終末医療についてと、重いテーマが三重に語られているのですが、決してどのテーマも消化不良になっていません。それどころか、お互いがお互いを支え合い物語全体の完成度を非常に高めています。この見事な作りに感服しました。

ただ非常に気になった点があります。この作品、やたらに「〜の方」という表現が見受けられます。もちろん「東の方」という使い方なら意味がある用法ですが、「検査結果の方をお知らせします」の「の方」には何の文法的意味もありません(「の方」を取り除いてみてください)。文法上意味のない「の方」を無闇に使う人を、日本語学者の金田一春彦先生は「ほうほう族」と書いていますが、これがあまりにも多過ぎて辟易しました。

もちろん、会話文で使われるのですから、そこまで文法的にこだわる必要もないとは思います。しかし二言目には「えーと」「あのー」と口にする会話文が耳障りなように(文法的には意味のある言葉ではないですから)、「の方」をやたらに連発するのは、いかがなものかと思いました。それと個人的に、句読点が一切ないのも少し気になりました。句点(。)はまだしも、読点(、)は入れた方が読みやすかったような気もします。

上でも書いたように、エンターテインメント性のある物語ではありません。ラストも、淡々と葬儀のシーンが描写されるだけです。しかし、アンドロイドが語る初期仏教の教えが、作中で描かれる事実とリンクして、読み手の心に非常に強く訴える力を持った物語です。ありがちな「死ねば苦しみから逃れられる」とか、「生きている事は素晴らしい」などという考えとは違う、深い深い世界です。聖書に親しんだクリスチャンの私でも、共感できる点が多々ありました。無宗教の人でも、考えさせられる点は多いはずです(むしろ、宗教的な先入観がない方が、素直に味わえるかも?)。

作者さんによると、システムはオリジナルなんだそうです。プレイ時間は5時間くらい。長いですが、10分程度の小さな章に分けられており(全34章構成です)、意外に気軽に読めるでしょう。途中から、1話読む度に広告動画が再生されますが、煩わしければ課金すれば動画を表示せず読めます。選択肢はありますが一本道です。終わり方は非常に呆気なく、ちょっと余韻に欠けますが、非常に奥の深いトピックを扱っていながら理解しがたいところは一切なく、読み手の心にずしりと響くものを残してくれる事は間違いありません。
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