第603回/肚の笑顔は裏切らない - キキタイコトバ(しらたま) - ミステリー・サスペンス
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第603回/肚の笑顔は裏切らない - キキタイコトバ(しらたま)

ミステリー・サスペンス
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キキタイコトバ

キキタイコトバ準推薦
■制作者/しらたま(ダウンロード
■ジャンル/腹の本音を探るサスペンスノベル
■プレイ時間/1時間

江頭和也は、他人の腹に顔が見えるという特殊能力があった。腹の顔はその人の心の声を語る。表面上の言葉と、腹が語る本音とのギャップに人間不信になる和也だが、ある日転校生の喜多見楓と出会って彼女に恋をしてから、彼の生活が変わる。そんな楓には、和也にも話していない秘密があった。後半の展開に腰を抜かすサイコサスペンス。

ここが○

  • 独特な設定が2人の交流を生む第1章。
  • 視点が変わって興味をひく第2章。
  • 突然のサイコサスペンスにたまげる第3章。

ここが×

  • 唐突過ぎる気がする第3章。
  • その第3章をメインに据えるなら、設定が蛇足に映る。
  • 画面が文字で溢れて読み辛い。

■肚の笑顔は裏切らない

最近、絵が付いた作品ばかりプレイしてきましたが、久々に文章だけの作品のご紹介です。文章だけの作品は、画面写真ではどうしても地味に映るため、プレイしてもらいにくいのは事実だと思いますが、時折絵がある作品では絶対表現できないような、ぶっ飛んだ作品に出会える事があります。この作品もそうでした。この作品の世界観は、文章のみの作品ならではだと思います。

この作品の主人公は、何と他人のお腹の部分に顔が見えるのです(あらゆる他人ではなく、主人公と関わりのある人だけ)。これは絵があってはなかなか表現が難しいでしょう。絵にしたら、かなりグロテスクなシーンは終始展開する事になってしまいます(笑)。そのお腹の顔は、口には言いあらわさないような本心を語ります。これだけ見ると、「仮面のセカイ」にも少し近い設定ですね。

キキタイコトバお腹の声が本音を語るので、主人公は本音と建前の言葉の乖離に、人間の汚さを嫌でも見る事になり、しまいに始終イヤホンで耳栓をするようになります。そんな彼の前に現れたのが、転校生の喜多見楓。彼女だけは、お腹の顔が語る本心が、口で語る言葉と同じだったのです。和也はすぐに楓に惹かれ、恋に落ちました。物凄い設定なのですが、この第1章は純愛物語と言ってもいいほど、ストレートな恋愛ものです。

物語は全3章構成。まず第1章は、「腹の顔が見える」という和也の能力を除けば、恋愛ものとしてはよくある設定です。楓の秘密というのも、比較的使い古されたものですが、和也に与えられたユニークな設定が非常にいい色付けとなっており、短いながらも重厚な読み心地を提供してくれる物語です。第1章だけでも、物語としては十分完結しています。

と思っていたら、第2章。今度は第1章でほんの少しだけ出て来た人物の視点に変わります。ほぼ同じ時系列をその人物の視点で追っていくのですが、和也視点での第1章からは描かれなかった楓の心情なども表現されており、第1章の物語に厚みを加えてくれていました。とは言え、特に新しい展開がある訳ではなく、この調子で一体どんな風に物語を着地させるのだろうと思っていたら……。

第3章でとんでもない事に(汗)。第3章の内容を書いてしまうと、この作品をプレイする面白さを削いでしまいますので詳しくは書きませんが、第2章までの「変わった設定の恋愛もの」が、一気にサイコサスペンスになってしまいます。ここで描かれる登場人物の狂気はかなり真に迫っており、読みながら怖くなるほどでした。前半の行動にそういう心理が隠されていたのかと思うと、効果も倍増でした。

ただ、インパクトは確かに物凄く、物語としてよく出来ているとは思うのですが、この第3章を持ってきてサイコサスペンスで締めるのならば、和也の「腹の顔」設定は少し蛇足のようにも思えました(一応、第3章でもこの能力は少し生かされてはいますが)。第1章のあの展開だからこそ、この設定が非常に生きていたのですが、物語の主眼を第3章に置くならば、この能力はなくても組み立てられるような気がしたのです。後半に行くに従い、この設定が等閑になっている気がして、第1章の印象が薄れたのが、少し残念でした。

とは言え、とにかくこれほど盛大に予想外の展開をしてくれたサイコサスペンスは、あまり記憶にありません。グロテスクな描写もありますので人は選ぶかも知れませんが、大いにはらはらさせてくれる事は間違いなしです。ラストはハッピーエンドとは言い難いですが、救いようのない終わり方という訳でもありません。最後はきちんと全部説明されるので、もやもやしたものが残る事はないでしょう。ただこの終わり方では、楓がどうにも浮かばれないような気がして、読後感がいいとも言えないのですが……。

文章力は全体に高いです。ただ、「まるっとした瞳」という表現には、少しずっこけてしまいましたが……(こういう文章の中にいきなりそういう口語的な表現が入ると、明らかにそこだけ浮いているように感じました)。文章表示速度が変えられず、更に(ティラノの文章だけの作品にありがちですが)、一行の表示文字数が多く、画面がかなり文字で埋め尽くされる場面が多いのが気になりました。せめて、一行の文字数をもう少し少なくし、空白行を適宜入れる、段落の頭は一字下げるなどすれば、かなり印象が変わったと思います。

ツールはティラノスクリプトです。選択肢はなく、プレイ時間は1時間くらい。楽しい物語では決してありませんが、第3章のスリルとサスペンスは、この手の作品が好きであれば味わう価値があるものです。意外性という意味では、他に類を見ない強烈さを味わわせてくれた作品でした。こういうインパクトが予測なしに来るのも、文章だけの作品の醍醐味かも知れませんね。
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