第605回/貴方に命、預けます - あいからの鎖(鳥那狐蘭) - シリアス・感動系
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第605回/貴方に命、預けます - あいからの鎖(鳥那狐蘭)

シリアス・感動系
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あいからの鎖

あいからの鎖準推薦
■制作者/鳥那狐蘭(ダウンロード
■ジャンル/自殺志願者と通り魔の出会いノベル
■プレイ時間/2時間

次から次へと彼氏を取っ替え引っ替えしては失恋を続ける笹音浪榎は、自殺願望を抱える女子高生。その日も衝動的に自殺したくなり屋上へ続く階段を登っていたが、そこにいたのはクラスメイトの葦阿瑛。彼は殺人衝動を持っているという。一見対照的な二人は、何故かそれから毎日一緒に帰宅し始める。自殺願望と殺人衝動が出会う先に、どんな物語があるのか?

ここが○

  • 主人公達二人の設定がとにかく独特。
  • 淡々としており押し付けがましくない展開。
  • それでいてラストはきちんと決着がついてハッピーエンド。

ここが×

  • 文字速度が途中で元に戻ってしまう。
  • 独特すぎるキャラクターは読む人を選ぶかも。
  • なので読み手が感情移入する隙間がほとんどない。

■貴方に命、預けます

フリーノベルゲームでも時々取り上げられるテーマに「自殺」があります。私はこのテーマはちょっと苦手で、あまり積極的に取り上げる事はないのですが、取り上げるには覚悟がいるテーマなだけあって、このテーマで描かれた物語は、どれもよくできている印象です。一番最近取り上げた作品ですと「私は今日ここで死にます。」がありましたね。あれもよく出来た作品でしたが、この作品はあの作品とはまた全く違う切り口から、同様のテーマに迫っています。

主人公達のキャラクターが、まずは大変強烈です。笹音浪榎は過去にはリストカットの経験もある、いわゆるメンヘラの女子高生。依存癖があり、何人もの彼氏と付き合っては別れてを繰り返しています。家庭環境も一般的であるとは言えず、通常の主人公とはかなり趣を異にする登場人物です。

あいからの鎖そしてもう1人の重要人物、葦阿瑛(「いこまえい」と読む。最近、読めない、入力困難な名前が多くて大変……)は、輪をかけてインパクトのあるキャラクターです。彼は殺人衝動を持っており、なんとこの街でここのところ繰り返されている通り魔殺人事件は彼が起こしたものだと言うのです。こんな物凄いキャラクターはなかなかいないでしょう。

実際、彼は序盤でいきなり浪榎の首を締めて殺しかけます(浪榎から頼んだ事ではありますが)。その時、浪榎は強く生への執着を実感し、同時に瑛は殺人への衝動が薄れて行くのを感じました。それ以降浪榎は自殺願望を止められなくなった時に瑛に「殺して」もらうように頼み、二人の奇妙な関係が始まりました。浪榎は自殺願望を、瑛は殺人衝動を抑える事が出来、双方の利害が一致したという訳ですね。

このような奇妙で歪な関係に、浪榎の両親の問題に端を発する依存症についても切り込んだ、かなり斬新な物語が展開していきます。主人公二人の関係の描き方は、かつてない程オリジナリティがあるものだと思います。普通の友人関係とは明らかに違うものの、二人はそれぞれ相手の事をある意味信頼しています。殺人犯である瑛を信頼できるなんて頭どうなってんだ、と最初は思うのですが、この二人ならなるほどそれもおかしくないかも、と思わせる描写力がありました。

ただ、主人公の境遇や性格があまりにも独特で、この二人は読み手が感情移入するポイントが(ほぼ)ないんですね。ノベルゲームの主人公って、物語を動かすという役割を持つと同時に、読者を物語の世界にシンクロさせる連結部のような役割を求められます。だからこそノベルゲームの主人公は、普遍的なキャラクターが設定される事が多いのですね。

そして主人公が特異な背景を抱えたキャラならば、サブキャラがその役割を担う異になりますが、この作品は浪榎と瑛のどちらもが、読者との共感、共鳴を最初から拒んでいるようなキャラです。ではその他のキャラはどうかというと、読者を物語に接続できるほど前面で活躍する登場人物がいません。ですから、終始プレイして居心地の悪さを感じました。その意味で、ゲームよりは小説寄りの物語と言えましょう(作者さんも後書きでそう書いています)。

これは、ある意味この作品の優れた点と表裏一体であるとも言えます。一人称で客観的に語られ、上に書いたような理由で読者は過剰に感情移入する事なく、淡々と読み進めるのですが、だからこそ浪榎や瑛の異常とも言える言動を、冷静に受け止める事ができるとも言えるのです。そしてやがてやってくるラストで、読者に究極の選択を迫った後、思っても見なかった方向から読者の意識に爆弾が落とされます。この構成には驚かされました。上に書いたのは、気になる点ではありますが、同時にこの作品をこの作品たらしめている魅力であるのは間違いありません。

この作品、ティラノの作品としては珍しく(?)文章表示速度が変更できます。そして最初のうちは変更した表示速度がきちんと反映されますが、途中から表示速度が元に戻ってしまい、それ以降はいくらコンフィグ画面で変更しても二度と反映されません。こういう不具合、ティラノには多いですね……。まあ、読みやすさを損なうほどではないですし、最初から文字表示速度が変更できなかったものと思いましょう(笑)。

ツールはティラノビルダーです。選択肢は二ヶ所に出てくるだけで、うちエンドに関わるのはラスト前の1つです。ノーマルエンドとトゥルーエンドという感じですね。ノーマルは少々収まりが悪いですが、トゥルーエンドは、些細な描写も伏線としてちゃんと回収しており、登場人物がみんな幸せになるハッピーエンドに導いた手腕には感服しました。プレイ時間は2時間くらい。癖がある作品ではありますし、序盤はキャラクターの性格もあって取っつきづらいのですが、読んでみる価値がある作品だと思います。
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