第606回/火花散らして恋のカデンツァ - 空白の音色(サークル出雲) - 恋愛
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第606回/火花散らして恋のカデンツァ - 空白の音色(サークル出雲)

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空白の音色

空白の音色準推薦
■制作者/サークル出雲(ダウンロード
■ジャンル/絶望から再生へのピアノ挑戦ノベル
■プレイ時間/1時間

本庄高志は将来を嘱望されていた天才ピアニストだったが、事故でピアノを諦めざるを得なくなった。そんな彼は「空白の音色」という曲を作るが、自分では弾くことができない。ある日、同じく事故で夢を諦めた桶川彩子と出会い、彩子の才能を見抜いた高志は、彩子に自分の夢を託す。かくして二人の二人三脚のピアノ生活が始まった。音楽恋愛学園ノベル。

ここが○

  • ピアノをテーマに上手く恋愛と絡めている。
  • 高志と彩子が絶望から立ち直る様子がいい。
  • だんだん大きくなるストーリーのテンポの良さ。

ここが×

  • サブキャラの扱いが弱い。
  • 音楽関連のリアリティに難あり。
  • 文章が変なところで改行される事が多い。

■火花散らして恋のカデンツァ

珍しい、音楽をメインテーマにした作品のご紹介です。古めの作品ですと「Brass restoration」「カナタへ……」というのが、音楽がメインテーマでしたし、取り上げていない作品ですと「Subito Quartet」というのがあります。ピアノだと「Musicus-ムジクス-」がありました。

この作品は、ピアノをメインに取り上げた青春恋愛ノベルです。そういう意味で、青春もの、恋愛ものとしての作りはストレートなのですが、挫折から希望へというメインテーマに上手く音楽と恋愛を絡ませた、その匙加減がとても見事でした。「空白の音色」というタイトルがまた、謎めいていて素敵です。実は、作中で主人公の高志(この作品の登場人物の名前はみんな分かり易い。とてもありがたい(笑))が作った曲名なのですが、この曲名も実はラストへの伏線へなっている辺りが巧妙です。

空白の音色主人公の本庄高志は、いくつものコンクールを総なめにし、将来を嘱望されていた天才ピアニストだったのですが、事故の後遺症で指が自由に動かせなくなってしまい、ピアノを諦めざるを得なくなりました。自暴自棄になっていた高志は、ある日一度聞いただけの彼の曲を、第二音楽室で適当に弾いていた桶川彩子と出会い、彼女に秘められた才能を感じ取ります。彩子も、事故の後遺症により、全国クラスの腕前だったバスケットボールを失っていたのでした。

お互いがお互いの気持ちに共感し、彩子はピアノを初めてみる事を決意。この序盤は、多少ご都合主義的な展開を感じなくもありませんが、不慮の事故で夢を諦めざるを得ず、挫折したからこそ相手の気持ちが理解できるという2人の関係が、実によく描かれています。かたや相手に自分の夢を託し、かたや相手の夢を受け継いで再び立ち上がろうとする。高志と彩子が手を取って前へ進む様子は、とても小気味良く、そして気持ちよく読み進められます。

また、この2人が揃いも揃ってどうしようもない恋愛下手の鈍感なのですが(笑)、それが嫌味になっていません。こういう「恋に鈍感」な描写は、やり過ぎると読み手にくどく感じられるものですが、この作品にはそういう事がありませんでした。あくまでメインはピアノであり、恋愛はそれを支える位置付けであった事、それに2人が恋愛感情抜きにお互いを必要と感じているという、絶妙な関係描写の上手さがあればこそでしょう。

反面、サブキャラに関しては少し弱さを感じました。後書きを読むと、元々4ルート作る予定が、事情により彩子ルートだけになったようで、その影響もあるのでしょうが、特に友人の有里や陣が、もう少し活躍すればと感じました。有里や陣も、恋愛要素では割と重要なポジションを占めるはずなのですが(事実、陣も有里も2人の恋愛において転機となるようなイベントに関わります)、2人の気持ちを表現するようなイベントがないため、それが十分に伝わって来なかったのが惜しまれます。なので、前半で4人が交流するイベントでも少しあれば、少し違ったかも知れませんね。

もう1つ気になったのは、音楽関連の設定や描写のリアリティのなさです。私も、ピアノを20年くらいはやっていたので、そこそこピアノには詳しいのですが、色々とあり得ない設定が多くて、少し突っ込みたくなりました(笑)。高校(多分みんな高校生ですよね?)からピアノを初めて3ヶ月で人前演奏、その2ヶ月後に国際コンクールというのは、幾ら何でも無理があり過ぎですし、その他音楽関連、コンクール関連の描写には突っ込みどころが満載です。

と、確かに音楽的な描写のリアリティはいまいちなのですが、「音楽を通して成長し、恋に目覚める2人の物語」のあくまで一要素とすれば、これはこれでこの物語に合った描写であるとも言えます。恋とピアノが、ばらばらではなく、密接に絡んでいるので、「音楽恋愛青春もの」としてとても良くできているんですよね。「空白の音色」という曲に足りない要素を、彩子が最後に手に入れて大舞台に臨む一連の流れは、とても上手かったと思います。また、高志と彩子が自分の気持ちに悩むところに、有里が電話で後押しをする場面も、名シーンでした(だからこそ、有里はもっと活躍して欲しかった)。

結局、この物語の読み心地の良さは、ピアノを通じて知り合った2人が、ピアノに打ち込む事により少しずつ相手に惹かれ、恋に落ちる。そしてその恋によってピアノ演奏がより進化して、演奏家として最後の一段を上るという、「ピアノと恋愛という二要素が糾える縄のように絡み合い、1本の太い芯を作っている」ところにあるのでしょう。もちろん、拙い点もなくはないですが、細かいところは「まあいっか」で済ませられるパワーを持った作品でもあります。

ツールは吉里吉里でプレイしやすいです。ただ、文章が変なところで改行されるのが多いのは、少し読みやすさを損なっていた気がします。選択肢はなく、プレイ時間は1時間少々というところです。ラスト近くの彩子のツンデレぶりには、かなり笑ってしまいました。ダークでハードな作品で疲れたら、こういう作品はいかがでしょうか。絶望から立ち直る2人の物語に、元気をもらえる事間違いなしです。
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